レコードプレーヤーは、そのままでも十分に楽しめる機材ですが、少し手を加えることで音の印象が大きく変わることもあります。より “自分好みの音” に近づけるには、具体的にどんな工夫があるのでしょうか?今回は、オーディオライターの炭山アキラさんに、日頃からリファレンスとして愛用しているという『AT-LP8X』を軸に、カートリッジ交換やケーブルの変更、ターンテーブルシートの組み合わせなど、実践的な音質向上のポイントを紹介していただきました。

アクセサリーを駆使して、プレーヤーの音質向上を

私は今まさに自分のリファレンス、仕事と趣味の相棒として、オーディオテクニカのレコードプレーヤー『AT-LP8X』を使っています。最初は検証のために使い始めたものですが、想像を遥かに超える素性の良さ、高音質化を目指していろいろ対策するごとに、打てば響く音質向上で応えてくれることに感激した結果、30年以上使ったそれまでのリファレンス・プレーヤーは納戸でアクビをしている、という次第です。

このプレーヤーは、デフォルトで使っても15万円弱の製品としてはとても優れたレコード再生を聴かせてくれます。しかし、それではいささかもったいないなと、私は感じています。そんなにお金をかけることなく、どんどんレコードの音質を向上させられるのですから、AT-LP8Xを購入されたなら、ぜひともアクセサリーを駆使して、さらに飛躍的な音質向上を目指してほしいと願います。

AT-LP8Xを購入されたなら、ぜひともアクセサリーを駆使して、さらに飛躍的な音質向上を目指してほしいと願います。

それでは、具体的に何をやればいいのか。まずご紹介したい一番簡単な音質飛躍の策は、カートリッジの針先交換です。AT-LP8Xの付属カートリッジは『AT-VM95E』のBK(ブラック)で、接合の楕円針が装着されています。AT-VM95シリーズは針先を交換することによって自分の好む音へ近づけることが可能で、接合楕円針はある種のオールラウンダーなのですが、もっとジャズを太い音で聴きたければ接合丸針の『AT-VMN95C』、さらなるハイファイを求めるなら無垢楕円針、マイクロリニア針、シバタ針と、非常に高度な針先へ交換することも可能です。

好みに合わせて音を変える。カートリッジとケーブルの工夫

個人的な印象を申し上げるなら、やや穏やかめでオールラウンダー的な存在感を持つ無垢楕円針、一気に俊敏で切れ味鋭い高解像度が楽しめるマイクロリニア針、高解像度とどっしりとした低音を両立したシバタ針、といったキャラクターの違いがあります。皆さん一人ひとりの好みに応じて、いろいろな音が選べるのが嬉しいですね。

もちろん、AT-LP8Xはユニバーサル型のトーンアームが装着されていますから、カートリッジを交換して全然違うキャラクターの音を楽しむこともできますし、例えば純正カートリッジをそのまま使い、ヘッドシェルやシェルリード線を交換して音のキャラクターを変えることだって可能です。ただし、ヘッドシェルにはとても重い製品があり、それらを導入するとトーンアームの許容範囲から外れてしまう場合もありますから、購入前に組み合わせるカートリッジとの自重の合計を確かめなければなりません。

AT-LP8Xはユニバーサル型のトーンアームが装着されていますから、カートリッジを交換して全然違うキャラクターの音を楽しむこともできます

AT-LP8Xの純正フォノケーブルは、とてもこのクラスに付属してくるものとは信じられない、コストと開発の手がかかったものです。しかし、あくまでわが家のシステムへ組み合わせた際の相性の問題ですが、ちょっと寄生容量が大きいような気がします。詳しい解説はまた別の機会に譲りますが、容量というのはMMやVMのカートリッジを再生する際に重要な音質変化の要素となるもので、メーカーや製品ごとに最適の値が違うものです。

とりわけVM型のカートリッジは、概ね100〜150pF(ピコファラッド)という小さな容量の値が推奨されていて、それより大幅に大きな容量で受けると、高音が少しザラついて耳障りになってしまいがちなのですね。わが家で純正組み合わせの音は、まさに若干そういう傾向が聴き取れるものでした。

容量はケーブルだけでなく、プレーヤーそのものやフォノイコライザーなどでも付加されますから、わが家の場合ではトータルの容量が150pFを大幅に超過してしまっていたのでしょうね。それで、メーカー製の低容量ケーブルを試したりフォノケーブルを自作したりした結果、今は極細のケーブルで使った自作品で落ち着いています。

ただし、これはわが家の装置における個別事情と考えて下さい。純正のフォノケーブルで上手くマッチングする装置も少なくないと思いますし、わが家でも受け容量400〜500pFを要求するMMカートリッジをかけると、純正フォノケーブルは実に情報量が多く、高品位な音を奏でてくれるものですからね。

電源ケーブルで音が変わる?

AT-LP8Xの電源ケーブルは取り外し可能なもので、しかも俗にいう「IECインレット・タイプ」のものです。ということはつまり、オーディオ各社の高級電源ケーブルに取り替えられる、ということです。

こちらも純正ケーブルは実にしっかりとしたもので、そのまま聴いても何ら問題を感じることはありません。しかし、実験してみると電源ケーブルで少なからず音の表情が変わる、ということがお分かりになると思います。思えば、消費電力僅か8Wでごく低トルクのモーターを定速回転させているだけなのに、電源ケーブルでなぜここまで大きな音の違いが生ずるのか、私にも原理は理解できていないところがあるのですが、空耳と片づけられるほど小さな音の違いでもありません。

わが家には長期テスト品のメーカー製電源ケーブルが何本かあって、プレーヤーの価格を超えるほどの高級ケーブルも試してみましたが、はっきりとその器の大きさと好ましきキャラクターを表現してくれました。私がAT-LP8Xをわが伴侶に迎えたのは、こういった反応の良さ、アクセサリーやセッティングの変更に打てば響く変化を返してくれるところを高く評価した結果です。

いろいろ実験した結果、あまり高価なものを導入するのも気が引けて、1万円台で作ることができる、電力線を使った自作の電源ケーブルを組み合わせることにしました。亡くなられて25年になるオーディオ評論家の長岡鉄男さんが晩年に発表された電源ケーブルとほぼ同じ素材と構造です。今となっては特別な音というわけではないかもしれませんが、20世紀の終わり頃にはメーカー製品も少なかったし、画期的な高音質ケーブルだったものです。

ターンテーブルシートひとつで変化。AT-LP8Xと音づくりの深みへ

AT-LP8Xの付属ターンテーブルシートは、ゴム製です。どちらかというとしっとりたおやかな音がする傾向の個体で、それが構築する音の世界を愛される人もおいでのことと思います。しかし、私はもう少し積極的で活発な音を好むものですから、シートも交換しました。

私はごく薄いすり鉢型になったゴム製のシートにオーディオテクニカのスタビライザー『AT6274*』を組み合わせ、まさにわが好みへジャストフィットさせることができました。金属製の『AT677*』シートを使い、特殊な制振材の薄いシートをプラッターとの間へ挟んでAT6274を載せると、より好ましい傾向になることも確認していますが、先のゴムシートは現行商品なので、再現性の面からもできるだけそっちを使ってやろうと考えています。

*AT6274とAT677はどちらも生産完了品のため、現在は販売しておりません。

AT6274とAT677はどちらも生産完了品のため、現在は販売しておりません

ターンテーブルシートは、本当に音の違いが顕著な部分なので、ご自分の音を探索し、実現するための大きな伸びしろとなってくれることでしょう。商品の数も多いですし、ちょっとしたお小遣い程度で購入できる製品も少なくありません。いろいろ試してみられることをお薦めします。

一方、ターンテーブルシートはプラッターの素材で顕著な相性の違いがあるものです。ここで発信したシートの印象は、あくまでAT-LP8Xのアルミ合金製プラッターと組み合わせてのもので、例えばアクリル製のプラッターでは全く違う音の傾向になることを確認しています。くれぐれもご注意下さい。

こうやって、私はAT-LP8Xを「自分のもの」としてきました。実のところ、まだまだやりたい音質向上策はいろいろあり、これからどんどん投入していこうと考えています。もちろんこれは、自分が気に入った音を出すプレーヤーを仕立てるための方法論ですから、皆さんにそのまま薦めて上手くいくとは限りません。

しかし、これだけいろいろいじることができるプレーヤーであること、いじればいじっただけ音質変化として表現してくれること、それらの要素をAT-LP8Xが有していることは、間違いないといってよいでしょう。価格からしたら信じられない器の大きさを有するプレーヤーだなと、常々感じ入りながら愛用している次第です。

AT-LP8X

セミオートダイレクトドライブターンテーブル

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Words:Akira Sumiyama

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