たとえば日本なら雅楽、韓国ならパンソリ、インドネシアならケチャ。”音楽” というものは、形は違えど世界中にある。そんな音楽と同じように、形は違うけれども世界中にあるもの。それは ”餃子(=皮で具を包み込んだ料理)” ではなかろうかーーそんなこじつけのもと、この企画では世界の餃子と音楽を紹介していく。今回取り上げるのは、ポーランド。
中央ヨーロッパに位置するポーランドは、歴史と文化が豊かな国。旧市街の歴史的建造物と近代的なビル群が共存する首都ワルシャワでは一年を通して、音楽をはじめとしたさまざまなイベントが開催されている。冬には各地でクリスマスマーケットが開かれ、伝統的な装飾やイルミネーションが街を彩る。食文化は肉料理やじゃがいもを使った料理が多く、保存食や発酵食品を取り入れるなど、寒冷な気候に適応した伝統的な食事が特徴だ。
そんなポーランドには、どんな餃子と音楽があるのだろうか? 駐日ポーランド共和国大使館員の桑原さんに、お話を伺った。

ポーランドの餃子について、教えてください。
ポーランドの餃子はピエロギ(PIEROGI)と呼ばれます。食べ方は、基本的には茹でて食べます。皮が餃子と比べて厚く、モチモチとした食感が特徴です。家庭や人によって多少の作り方の違いはありますが、ひとつの例としてご紹介します。
まず、じゃがいもを茹でて潰し、炒めた玉ねぎとカッテージチーズ、塩・胡椒を混ぜて中身を作ります。生地は小麦粉、塩、バターを溶かしたお湯、卵を混ぜてこね、しばらく寝かせます。だいたい20分ほどしたら、生地を伸ばして切り、中身を包み、形を整えます。沸騰したお湯にサラダ油かバターを少々入れ、ピエロギを数個ずつ茹で上げ、お皿に盛り付けたらお好みでバターやサワークリームを添えて完成です。
具材の種類の豊富さがピエロギの特徴で、今回ご紹介したレシピ以外にも、肉と野菜、複数種類のキノコなども代表的です。具材に味が付いているので、醤油のようなソースは使わずにそのまま食べます。ソースを付けるとしたら、サワークリームが添えられます。
文化的・地域的な特徴や、餃子にまつわる物語はありますか?
ピエロギは、日本人にとっての餃子以上に国民食と言える存在で、各家庭でも日常的に作るし、ポーランド国内のポーランド料理のお店では必ずメニューにあります。日本の餃子同様、手早く作れるものではないので、人をもてなす際や、休日などに手間をかけて作ります。
ご飯系だけでなく、デザート系ピエロギも一般的で、中にクリームやジャムが入っていたりします。どれも非常においしく、日本人の口には必ず合います。
都内で食べられるお店があれば、教えてください。
「Ani Mru Mru」は、家庭料理が楽しめる食堂スタイルではなく、高級店のようなおもてなしを楽しめるレストランです。内容に変更があるかもしれませんが、コース料理を中心に上質な食事を堪能できるお店のようです。
他の可能性としては、11月に行われる東京外国語大学の文化祭にて、ポーランド語専攻の学生が出す料理店でピエロギが出るかもしれません。(年によってメニューが違うので、今年がどうかは分かりません。)もしくは、毎年5月に都内でポーランドフェスティバルが行われており、そこでも様々な出店があります。
クラシックからポップまで、ポーランドの音楽に注目
餃子とともに注目したい、3人のアーティストと楽曲をご紹介しよう。
老若男女を問わず、今もポーランドの人々に大切にされているのがショパン(Frédéric François Chopin)の音楽だ。ワルシャワで5年に一度開催される「ショパン国際ピアノコンクール」は約100年の歴史を持つ世界最古の国際ピアノコンクールとして広く知られている。ちなみに今年はその開催の年であり、85名(うち日本人は13名)が2025年10月3日から開催される本選への切符を手にした。
ラファウ・ブレハッチ(Rafal Blechacz)は、その大会で2005年に優勝し、翌年には世界最古のレーベル Deutsche Grammophon(ドイツ・グラモフォン)と専属契約を結んだ。2014年には世界的なピアニストに贈られる「ギルモア賞」を受賞。現在もヨーロッパやアジア、アメリカの主要オーケストラと共演を重ねるほか、2026年には日本でのピアノ・リサイタル公演を予定している。
続いてご紹介するのは、ダビッド・ポッチャドゥオ(Dawid Podsiadło)。ワン・ダイレクション(One Direction)などを輩出したイギリスの音楽オーディション番組『Xファクター』のポーランド版で2012年に優勝したシンガーソングライターである。
翌年5月にリリースしたデビューソロアルバム『Comfort and Happiness』では、ポーランド国内でもっとも権威のある音楽アワード「フレデリック賞」で4部門を受賞(ちなみに同賞はショパンのファーストネームに由来している)。以降、数々の音楽賞を獲得している。また、今年は音楽フェス「ZORZA(ゾルザ)」を自身で初主催するなど、ポーランド国内で圧倒的な人気と注目を集めるアーティストだ。
そして3人目は、ポーランドを代表するバリトン歌手のクリシュトフ・クラフチク(Krzysztof Krawczyk)。1946年に芸術一家に生まれ、思春期はエルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)やビートルズ(The Beatles)に触発された彼は、1963年にポーランドのロックシーンを代表するバンド、トルバドゥルジ(Trubadurzy)を結成し、ロックンロールと東スラヴ民族音楽のスタイルを融合させた独特のサウンドを生み出した。
その後1973年にソロに転向、1980年代にはアメリカで音楽活動を試み、デヴィッド・ブリッグス(David Briggs)プロデュースのもとでのレコーディングや、エルヴィス・プレスリーとのセッションにも挑戦した経歴を持つ。2021年、新型コロナウィルスの合併症により74歳で逝去したが、現在もポーランド音楽界において強い存在感を放ち続けている。
実際に食べに行ってみた
今回は、日本を飛び出してニューヨークへ。ブルックリンのグリーンポイント地区はポーランド人街として知られており、ポーランド系の飲食店や雑貨屋が軒を連ねるエリアだ。
訪ねたのはPierozek(ピエロジェク)。ミシュランガイド・ニューヨークに掲載されており、 “高品質で良心的な価格の料理” に与えられる評価「ビブグルマン」を2021年から獲得している。皮から中身まですべて手作りの、本格的なピエロギを提供している名店だ。


種類が豊富なピエロギ。Pierozekのメニューには10種類以上が並んでいる。その中からいくつかを注文しよう。ちなみに、あわせるお酒はビールやワインが定番だが、ラズベリーやヘーゼルナッツといった甘いリキュールのショットをあわせるのが通の食べ方だとか。
まずは、ポーランドの家庭で最もよく出される定番の組み合わせの「ポテト&チーズ(Potato & Cheese)」。なめらかにマッシュされたポテトはクリーミーだが全く重くなく、塩味も控えめで優しい。トッピングにバターの風味をしっかり感じる飴色の玉ねぎが散らされている。
続いては「ザワークラウト&マッシュルーム(Sauerkraut & Mushroom)」。見た目はポテト&チーズとほとんど同じだが、中には刻んだキャベツの酢漬けときのこがたっぷりと包まれていて、酸味がクセになる。
皮はしっかり厚みがあり、茹でたピエロギはもちもちとした食感だ。具材自体に味付けがされているので、そのままでもしっかり美味しい。


こちらもポーランドでは定番のメニューで、ベジタリアンも好んで食べるそうだ。
Pierozekのオリジナル、「ピザ(Paulie Gee’s Pizza)」は中にマッシュポテトとピザソースが詰められている。ピエロギの定番の食べ方は茹でだが、これは両面焼きがおすすめ。表面がかりっとして油を吸うので、食べ応えがさらにアップする。
そしてお店で一番人気の一皿、「ハラペーニョ(Jalapeno)」。刻んだハラペーニョを混ぜ込んだマッシュポテトのピエロギに、トッピングとしてさらに刻んだハラペーニョとカリカリに焼いたベーコンがのっている。しっかりと辛い。


デザート系のピエロギもいただこう。
「ラズベリー&スイートチーズ(Raspberry & Sweet Cheese)」は、フレッシュチーズをベースに潰したラズベリーが包まれている。フレッシュチーズは甘すぎずさっぱりした味わいで、水気のないヨーグルトのような固めの食感。そこにラズベリーのしっかりした酸味が加わり、バランスが良い。
最後は「レモンゼスト(Lemon Zest )」。こちらはフレッシュチーズとレモンゼスト(レモンの皮すりおろし)、そしてハチミツの組み合わせ。ハチミツの自然なレモンの爽やかな酸味による、優しい味わいだ。デザート系も茹でられて提供されるが、ほんのり温かい温度なので食べやすい。

世界の餃子と音楽を探して、旅はまだまだ続く。次の目的地もお楽しみに。
Pierozek
住所:592 Manhattan Ave Brooklyn, NY 11222
OPEN:12:00 PM – 10:00 PM(平日・土曜日)
12:00 PM – 8:00 PM(日曜日)
Photos:Soichi Ishida (at the Embassy of the Republic of Poland in Tokyo)、Kohei Kawashima (at Pierozek in New York)
Cooperation:Heaps
Words & Edit:May Mochizuki