迫力に満ちたパフォーマンスを記録したドキュメンタリー、ミュージシャンの苦悩を描いたドラマ、サントラにこだわりを感じさせる作品など、5月に公開される新作映画のなかから音楽に注目したい作品をセレクト。ロック、ソウル、ワールド・ミュージックなど、映画を通じて様々な音楽を楽しもう。

1. 『アメリカン・ユートピア』

スパイク・リー、ハーモニー・コリンの新作など音楽作品満載の5月。劇場で観たい映画5選

今年、グラミー賞の生涯業績賞に選ばれたロック・バンド、トーキング・ヘッズの中心人物、デイヴィッド・バーン。写真家、映画監督、文筆家など、様々な顔を持つバーンが久しぶりに映画を製作した。『アメリカン・ユートピア』は、バーンがブロードウエイで上演したショーを記録したドキュメンタリー。バーンが監督に指名したのは、80年代から交流があるスパイク・リーだ。バーンは2018年に新作アルバム『アメリカン・ユートピア』を発表。その際に行ったコンサートを2019年にブロードウエイのショーに再構成した。2人のダンサーを引き連れたバーンは、歌うだけではなくダンスも披露。総勢11名のバンド・メンバーは全員が楽器を身体に装着してステージを自由に動き回り、時には隊列を組んでパレードのように行進する。それをスパイクは巧みなカメラワークでミュージカルのように撮影。曲のグルーヴを捉えた歯切れのいい編集に、スパイクの音楽的な感性が光る。演奏の合間に、多様性、人種差別、選挙など様々な社会問題を、ユーモアを交えながら観客に語りかけるバーンの語り口も絶妙で、アートとエンターテイメントを融合させた素晴らしいライブ映画だ。

スパイク・リー、ハーモニー・コリンの新作など音楽作品満載の5月。劇場で観たい映画5選

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『アメリカン・ユートピア』

スパイク・リー、ハーモニー・コリンの新作など音楽作品満載の5月。劇場で観たい映画5選
近日公開
監督:スパイク・リー
製作:デイヴィッド・バーン、スパイク・リー
出演:ミュージシャン:デイヴィッド・バーン、ジャクリーン・アセヴェド、グスタヴォ・ディ・ダルヴァ、ダニエル・フリードマン、クリス・ジャルモ、ティム・ケイパー、テンダイ・クンバ、カール・マンスフィールド、マウロ・レフォスコ、ステファン・サンフアン、アンジー・スワン、ボビー・ウーテン・3世

2020年/アメリカ/英語/カラー/ビスタ/5.1ch/107分
原題:DAVID BYRNE`S AMERICAN UTOPIA/字幕監修:ピーター・バラカン
©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED
ユニバーサル映画/配給:パルコ/宣伝:ミラクルヴォイス

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2. 『ビーチ・バム まじめに不真面目』

スパイク・リー、ハーモニー・コリンの新作など音楽作品満載の5月。劇場で観たい映画5選

フロリダで暮らす詩人、ムーンドッグ。デビュー作が絶賛されて天才詩人として注目を集めたものの、それ以降、本を出版することなく、毎日酒を飲んで自由気ままに暮らしていた。なにしろ、愛する妻は大富豪なのでお金の心配はいらない。と安心していたら、妻が事故で急死。妻の遺言で小説を発表するまで遺産はもらえないことになり、ムーンドッグは無一文で家を出ていくことに。そして、奇妙な浮浪者生活が幕をあける。監督は『ガンモ』(97年)で鮮烈なデビューを飾った鬼才、ハーモニー・コリン。ムーンドッグを演じたのはマシュー・マコノヒーで、天然なのか計算なのかわからないムーンドッグの不思議な魅力を絶妙なさじ加減で演じている。そのほか、ラッパーのスヌープ・ドッグやザック・エフロン、ジョナ・ヒルなどが強烈なキャラクターを怪演。映画に出演しているジミー・バフェットをはじめ、スティーヴン・ビショップ、ヴァン・モリソン、キュアーなど、多彩なナンバーが物語を賑やかに彩る。ポップでシュール、時にはファンタジックに展開していく物語のなかで、ムーンドッグのアナーキーな能天気さが自由の意味を問いかける。

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『ビーチ・バム まじめに不真面目』

スパイク・リー、ハーモニー・コリンの新作など音楽作品満載の5月。劇場で観たい映画5選
4/30(金)よりキノシネマみなとみらい・立川・天神ほか全国順次公開
監督・脚本: ハーモニー・コリン
撮影: ブノワ・デビエ
出演: マシュー・マコノヒー、スヌープ・ドッグ、アイラ・フィッシャー、ステファニア・オーウェン、ザック・エフ ロン、ジョナ・ヒル、マーティン・ローレンス、ジミー・バフェット
2019 年/アメリカ/95 分/カラー/シネスコ
原題: The Beach Bum/字幕翻訳:平井かおり
提供:木下グループ/配給:キノシネマ
(c)2019 BEACH BUM FILM HOLDINGS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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3. 『カリプソ・ローズ』

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カリブ海に浮かぶトリニダード・トバゴで、カリプソ歌手として1950年代から活躍してきた「カリプソの女王」、カリプソ・ローズ。本作は80歳にして今も世界中を飛び回っているローズの素顔に迫ったドキュメンタリーだ。子どもの頃に里子に出され、10代の頃に性的暴行を受けたりと、人生の苦難を乗り越えて開花した歌手としての才能。しかし、牧師だった父親にとってカリプソは「悪魔の音楽」であり、男性優位のカリプソの世界ではコンテストで勝ち抜いても、優勝者の称号は「キング」なので女は受賞できない、とトロフィーは奪われてしまう。それでもローズは歌い続け、ついには「キング」の称号を、女性でも受賞できる「モナーク」に改めて受賞することに。そんな波乱に富んだ人生が彼女の口から語られていくが、どんな時も彼女は前向きで茶目っ気たっぷり。喋っているうちに、いつしかメロディーが生まれて会話が歌になる。彼女は生まれながらのシンガーなのだ。演奏シーンも多く、なかでもローズが自分のルーツを探して向かったベニン(アフリカ)の楽団、オルケストル・ポリ=リトゥモ・ド・コトヌーとの熱気溢れる共演が圧巻だ。

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『カリプソ・ローズ』

スパイク・リー、ハーモニー・コリンの新作など音楽作品満載の5月。劇場で観たい映画5選
4/23(金)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
監督・脚本:パスカル・オボロ
出演:カリプソ・ローズ、マイティ・スパロウ、キム・ジョンソン、デス トラ・ガルシア、オルケ ストル・ポリ=リトゥモ・ド・コトヌー、ウィンストン・“ジプシー”・ピーターズ 他
配給:LIME Records /PR:KONTACTO EAST, LTD/特別協力:jitto.inc
原題:LIONESS OF THE JUNGLE
(C) Maturity Music / Dynamo Productions / TTFC
2011年/トリニダード・トバゴ、フランス/英語/カラー/85 分/16:9

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4. 『グンダーマン 優しき裏切り者の歌』

スパイク・リー、ハーモニー・コリンの新作など音楽作品満載の5月。劇場で観たい映画5選

まだベルリンに壁があった頃、東ドイツに1人のシンガー・ソングライターがいた。ゲアハルト・グンダーマンは80年代にデビュー。常に労働者の目線で曲を書き、人気が出てからも音楽がビジネスにならないように炭鉱の仕事を続けた。そんな真面目な男が東ドイツの秘密警察=シュタージに協力して仲間を監視する仕事をしていた、という驚きの事実をドラマ化。社会主義を信じていたグンダーマンは、理想の社会を作るため、と信じてシュタージに協力するものの、やがて上層部と衝突して睨まれるようになる。そして、東西ドイツが統合後、一時期でもシュタージの仕事をしていたことに悩むグンダーマン。シュタージに協力していた文化人が次々と告発されていくなか、グンダーマンは大きな決断を迫られる。市民がお互いを監視しあった東ドイツ社会の歪んだ過去。その負の遺産をどう清算するのか。そして、政治と音楽の関係を考えさせる重厚な人間ドラマだ。グンダーマンそっくりのアレクサンダー・シェーアのリアルな演技が本国で話題を呼んでいて、シェーアは劇中で歌も披露。東ドイツの知られざる音楽シーンを知ることもできる。

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『グンダーマン 優しき裏切り者の歌』

スパイク・リー、ハーモニー・コリンの新作など音楽作品満載の5月。劇場で観たい映画5選
5月15日(土)より渋谷ユーロスペース他全国順次公開
監督:アンドレアス・ドレーゼン
脚本:ライラ・シュティーラー
音楽:イェンス・クヴァント
出演:アレクサンダー・シェーア/アンナ・ウンターベルガー
提供:太秦/マクザム/シンカ
後援:ゲーテ・インスティトゥート大阪・京都 
配給・宣伝:太秦
原題:GUNDERMANN
字幕・資料監修:山根恵子
2018年/HD/シネマスコープ/5.1ch/128分/ドイツ
(C)2018 Pandora Film Produktion GmbH, Kineo Filmproduktion, Pandora Film GmbH & Co. Filmproduktions- und Vertriebs KG, Rundfunk Berlin Brandenburg

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5. 『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』

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ソウル・ミュージックの女王、アレサ・フランクリンがゴスペルを歌った名盤『Amaging Grace』は、72年にLAの教会で行われたライブを収録したもの。当時、そのライブを撮影して映画として公開する計画があったが、技術的な問題でプロジェクトは中止になり長らくフィルムは倉庫の中で眠っていた。そのフィルムを再編集して、最新テクノロジーで完成させたのが本作だ。撮影に挑んだのは、後に『愛と哀しみの果て』(85年)でアカデミー賞を受賞してハリウッドを代表する巨匠となるシドニー・ポラック。教会には黒人信者が詰めかけたが、そこにはローリング・ストーンズのミック・ジャガーやチャーリー・ワッツの姿もあった。牧師の娘として育ったアレサにとってゴスペルは大切なルーツ。通常のコンサートとは違った気迫が歌声から伝わってくる。コーネル・デュプリーやチャック・レイニーなど腕利きのミュージシャンによるバンドが演奏するなか、アレサの神がかった歌声に聖歌隊や信者たちはトランス状態になっていく。特にタイトルになった“アメイジング・グレイス”の熱唱は鳥肌もので、黒人音楽の真髄に触れる貴重な映像だ。

スパイク・リー、ハーモニー・コリンの新作など音楽作品満載の5月。劇場で観たい映画5選

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『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』

スパイク・リー、ハーモニー・コリンの新作など音楽作品満載の5月。劇場で観たい映画5選
5月28日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
撮影:シドニー・ポラック
映画化プロデューサー:アラン・エリオット
出演:アレサ・フランクリン、ジェームズ・クリーブランド、コーネル・デュプリー(ギター)、チャック・レイニー(ベース)、ケニー・ルーパー(オルガン)、パンチョ・モラレス(パーカッション)、バーナード・パーディー(ドラム)、アレキサンダー・ハミルトン(聖歌隊指揮)他
原題:Amazing Grace/字幕翻訳:風間綾平
/2018/アメリカ/英語/カラー/90分/
2018©Amazing Grace Movie LLC 配給:ギャガ

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Words:村尾泰郎