数値の高さや低音の伸び、金額や精密で正確な音の再現性など、 ”いい音” について考えるとさまざまな指標があるように感じます。 しかしこれらはあくまでも見方のひとつに過ぎません。 ”いい音” を追求することについて、オーディオライターの炭山アキラさんに解説していただきました。

前編はこちら:追求したい「いい音」のお話【モニター・スピーカー編】

「いい音」は、あなたの中にあります

それでは、私たちが目指すべき “いい音” とは、一体どこにあるのでしょうか。 それは、皆さん一人ひとりの中にあるのです。 前編にて「音楽を聴く気分にはなれない」と書いたあの “究極 “モニター・スピーカーも、ご自宅へ導入された人が1人ではないと聞いていますし、私にとって最良の伴侶というべきバックロードホーン型スピーカーが、オーディオ業界全体を見回せば圧倒的な少数派であることも否定できません。

また、以前紹介しましたが、私自身は日頃慣れ親しんだ生楽器の音を基準として音を構築しているのに対し、仲良くさせてもらっている業界の大先輩は、生の音とは違う質感ながら、大変魅力的なサウンドを構築なさっています。 どうしてそんなことになるのかといえば、どちらも自分の心の中に響いている「いい音」へ向け、研鑽を積んでいった結果ということができるでしょう。

レビューや批評家の意見はどう受け止めるべき?

それでは、私たちオーディオ・ジャーナリズムの住人がよく用いる「穏やかな」「活発な」「明るい」「暗い」「ソフトな」「ハードな」といった評価用語は、一体どういう風に捉えればよいのでしょうか。

もうずいぶん前の話ですが、ある業界の先輩が薦めて下さったものですから、某社の定番カートリッジを購入したことがあります。 しかし、残念ながら私にとってそのカートリッジは音がソフトすぎ、あまり引っ張り出すことがなくなってしまっていました。

ところがある時、遊びにきた友人がそのカートリッジを聴きたがったものですから、プレーヤーへ装着して彼の持参したレコードを聴いてみたら、まぁ何とも瑞々しく潤いたっぷりの美音で鳴り響くじゃないですか。 「ツボにはまる」とはこのことかと、思わず唸りましたね。 その場で当該のカートリッジは友人へ譲り、今でも彼の宝物の1本となっているそうです。

このことで分かるのは、私にとってソフトすぎたカートリッジも、件の先輩や友人にとっては、好みの真ん中を射抜く「いい音」だった、ということです。 また、私が日頃聴くレコードよりも、先輩や友人の聴くジャンルの方が好ましい相性を示した、ということでもあるのでしょうね。

ということはつまり、ご自分の求める “いい音” が中点(これも決まったものはありませんが)からどの傾向へ寄っているか、それを認識されていれば、オーディオ誌やウェブマガジンの評価記事を読み解きやすくなるのではないか、ということがいえると思います。

その点でレコード再生の世界は、音を左右するパラメーターが多く、またその振れ幅も大変に大きいものがあります。 ずいぶん前に書いた「寛ぎの音」も「ハードでシャープな音」も、それがあなたにとって「いい音」であるならば、大いに目指して進んでいかれるのがいいと思います。 自分の音に関して他人の評価など、気にすることはありません。

お金をかけてもかけなくても、自分が気に入ればそれは「いい音」

“いい音” を追求するには、膨大なお金をかけなければならない。 この命題は、ある意味において “真” です。 オーディオマニアというのは、「薄紙一枚分の向上に全身全霊をかける」人種ですからね。 しかし、必ずそうしなければならないかといえば、私は決してそんなこともないと考えています。

あるアマチュア吹奏楽団のトランペット奏者で、かなりお金を貯めて自分の楽器を買いに行き、安いものから高いものまで虚心坦懐に試奏しまくった結果、中高生が使うようなクラスで、しかしちょっと特殊な立ち位置の楽器を購入した人がいます。 「本当に自分の求めている音がこの楽器から出たんだよ」と本人が語っていましたから、懐具合を気にして、といった事情では決してないと推測されます。

このことは、オーディオも同じなのではないかと思うのです。 40年前に比べればずいぶん縮小してしまいましたが、それでも日本のオーディオ界には、まだまだ手の届きやすいコンポーネントがたくさんあります。 そんな中からご自分の好みに合う製品を見つけ出すことができれば、そこそこの出費でひとかどのシステムを構築することが可能になることでしょう。 もちろんそれをゴールとする必要はありませんが、その段階でも結構長く楽しむことが可能だと思いますよ。

よろしかったら皆さんもご一緒に、自分の “いい音” を探す旅へ出かけましょう。 そう楽な旅路ではないかもしれませんが、旅の途中も面白いものだと思いますよ。

Words:Akira Sumiyama