ブルースやゴスペルをルーツに持つR&B/ソウル・ミュージックは、ロックやポップスに大きな影響を与えてきた。その魅力に迫る映画をセレクト。人種差別のなかで歌われてきた黒人音楽には、深い悲しみと怒り、そして、それを音楽で表現する喜びが詰まっている。そんな熱い想いが映画から伝わってくるはずだ。

『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』

2018年に惜しくもこの世を去ったソウル・ミュージックの女王、アレサ・フランクリン。彼女が遺した名盤の1枚であり、「史上最高のゴスペル・アルバム」と高い評価を得ているのが『至上の愛〜チャーチ・コンサート〜』だ。72年にLAの教会で行われたゴスペル・ライブを収録したアルバムだが、その様子を、のちにハリウッドを代表する監督となるシドニー・ポラック監督が記録して映画化する予定だった。ところが技術的な問題で完成できずお蔵入りに。その素材を半世紀の月日を経て編集したのが『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』だ。当時29歳だったアレサはすでにグラミー賞を何度も受賞。若くしてソウル・ミュージックの頂点に君臨していた。しかし、牧師の娘として生まれたアレサにとってゴスペルは特別な音楽。彼女の張り詰めた表情からは、歌にかける意気込みが伝わってくる。“至上の愛”“尊き主よ我が手を”といったゴスペルや賛美歌の名曲の数々に混じって、発表されたばかりのマーヴィン・ゲイ“ホーリー・ホリー”やキャロル・キング“君の友だち”といったポップスも披露するが、アレサが歌うと荘厳なゴスペルになる。アレサを支えるコーネル・デュプリー、チャック・レイニー、バーナードパーディーなど名プレイヤーによる演奏も素晴らしいが、聖歌隊のコーラスも迫力たっぷり。なぜ、アレサがソウルの女王と呼ばれるのか。異様な熱気に満ちたパフォーマンスを見れば、その理由がわかるだろう。本作のサウンドトラック『至上の愛 ~チャーチ・コンサート~ 完全版』もぜひチェックしてみてほしい。

ソウル/R&Bをテーマにした映画5選

ソウル/R&Bをテーマにした映画5選

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『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』

ソウル/R&Bをテーマにした映画5選

5月28日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国ロードショー

撮影:シドニー・ポラック『愛と哀しみの果て』
映画化プロデューサー:アラン・エリオット
出演:アレサ・フランクリン、ジェームズ・クリーブランド、コーネル・デュプリー(ギター)、チャック・レイニー(ベース)、ケニー・ルーパー(オルガン)、パンチョ・モラレス(パーカッション)、バーナード・パーディー(ドラム)、アレキサンダー・ハミルトン(聖歌隊指揮)他
原題:Amazing Grace/2018/アメリカ/英語/カラー/90分/字幕翻訳:風間綾平/
配給:ギャガ
2018©Amazing Grace Movie LLC

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『マ・レイニーのブラックボトム』

Netflix配信映画ながら、今年のアカデミー賞で5部門にノミネートされた話題作。物語の舞台は20年代のシカゴで、蒸し暑い夏の昼下がりに黒人の人気ブルース歌手
、マ・レイニーが録音スタジオにやって来る。彼女は白人に対しても言いたいことを言うプライドが高くてタフな女性。そんな彼女を待っていたバンドの間では、独り立ちして有名になりたいという野心を抱くコルネット奏者、レヴィーと他のメンバーが対立していた。レコーディングが始まると様々な思惑がぶつかり、やがて思わぬ悲劇が起こる。アメリカの演劇界を代表する劇作家、オーガスト・ウィルソンの戯曲を映画化した本作は、実在した歌手で「ブルースの母」と呼ばれたマ・レイニーが登場するが彼女の伝記映画ではない。レコーディングの主導権を巡って、マ・レイニーと白人スタッフの間で繰り広げる熾烈な駆け引き。バンド・メンバーが抱く社会に対する絶望や反発、そして宗教観を通じて、アメリカでアフリカ系アメリカ人がどんな風に生きてきたかが様々なアングルで描かれていく。それは彼らが生み出したブルースがどういう音楽なのかを描くことでもあるのだ。

ソウル/R&Bをテーマにした映画5選

ソウル/R&Bをテーマにした映画5選

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『マ・レイニーのブラックボトム』

Netflix映画『マ・レイニーのブラックボトム』独占配信中

監督:ジョージ・C・ウルフ
製作:デンゼル・ワシントン、トッド・ブラック、ダニー・ウルフ
製作総指揮:コンスタンザ・ロメロ
原作:オーガスト・ウィルソン
脚本:ルーベン・サンチャゴ=ハドソン
音楽:ブランフォード・マルサリス
出演:ヴィオラ・デイヴィス、チャドウィック・ボーズマン、グリン・ターマン
2020年製作/94分/アメリカ 原題:Ma Rainey’s Black Bottom

Netflix

『ソウル・パワー』

1974年、アフリカのザイールで、「世紀の対決」と言われたモハメド・アリとジョージ・フォアマンのボクシング試合が予定されていた。その試合を盛り上げるために現地で開催されたのが、黒人ミュージシャンだけのコンサート、「ザイール’74」だ。モハメド・アリのドキュメンタリー映画、『モハメド・アリかけがえのない日々』を手掛けた監督、ジェフリー・レヴィ=ヒントは、映画の撮影中に「ザイール’74」の模様を撮影した未編集フィルムを発見。それを1本の映画にまとめあげた。ジェイムズ・ブラウンを筆頭に、B.B.キング、ビル・ウイザース、スピナーズ、セリア・クルスなどアメリカから人気ミュージシャンがザイールに集結。当時、アメリカではブラック・ミュージックの人気が絶頂期を迎えていただけに、自分たちのルーツであるアフリカで演奏することは晴れがましかったに違いない。そんな彼らを迎えるフランコ・ルアンボ・マキアディ、ミリアム・マケバ、マヌ・ディバンゴなどアフリカのミュージシャンたちの演奏もすごい。エンターメイントとして磨き上げられたアメリカ勢とは対照的に、プリミティヴで猥雑なエネルギーに満ちている。ファンク、ラテン、ブルース、ソウル、アフロ・ミュージック……あらゆる黒人音楽の坩堝のような「ザイール’74」は、この時代、この場所だからこそ、生まれたブラック・パワーの貴重な記録だ。

ソウル/R&Bをテーマにした映画5選

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『ソウル・パワー』

監督:ジェフリー・レヴィ=ヒント
出演:ジェイムズ・ブラウン、ビル・ウィザース、B.B.キング、ザ・スピナーズ、セリア・クルース&ザ・ファニア・オール・スターズ、クルセイダーズ、モハメド・アリ、ドン・キング、スチュワート・レヴァィン 他
プロデューサー:デヴィッド・ソネンバーグ、レオン・ギャスト
原案:スチュワート・レヴァイン
音楽祭プロデューサー:ヒュー・マセケラ、スチュワート・レヴァイン
編集:デヴィッド・スミス

アメリカ/93分/2008年/カラー/ドルビーSRD/英語、フランス語 他
字幕:望月美実
字幕監修:中田亮
字幕翻訳協力:ヒルトン・ムニシ、南アフリカ大使館、上川大助

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『ジェイムズ・ブラウン/最高の魂を持つ男』

ファンクの帝王、JBことジェイムズ・ブラウンの人生を描いた初めての伝記映画。貧しい家庭に生まれて親戚に引き取られたJBは、少年時代にゴスペルと出会って音楽に夢中になる。そして、彼の才能に惚れ込んだ親友、ボビー・バードと音楽の道に進むことに。ベトナム戦争の真っ只中に降り立った命がけの慰問ライブ。キング牧師が暗殺された翌日、一触即発の緊張感の中で行ったボストン公演など、JBはアメリカの歴史の最前線で歌って「ファンク」という新しい音楽を生み出し、ソウル・ミュージックの頂点へと駆け上がって行く。JBは才能と魂(ソウル)だけではなく、強烈なエゴの持ち主だった。バンド・メンバーだけではなくバードにも自分を「ブラウンさん」と呼ばせ、妻には暴力を振るって周囲の者を自分に従えようとしたが、そんな強引さが彼を孤独に追い込む。常にトップでいることの重圧、人種差別への抵抗、白人にすり寄っている、という黒人社会からの非難など、様々なプレッシャーをはねのけるために「帝王」を演じ続けたJBを、惜しくも昨年亡くなったチャドウィック・ボーズマンが熱演。2ヶ月かけてマスターしたダンスも見どころだ。

ソウル/R&Bをテーマにした映画5選

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『ジェームス・ブラウン 最高の魂(ソウル)を持つ男』

ソウル/R&Bをテーマにした映画5選

『ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』
Blu-ray&DVD 発売中
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2021年6月の情報です。

監督:テイト・テイラー
製作:ミック・ジャガー、ブライアン・グレイザー
音楽:トーマス・ニューマン
音楽監修:バド・カー マーガレット・イェン
出演:チャドウィック・ボーズマン、ネルサン・エリス、ダン・エイクロイド、ヴィオラ・デイヴィス
2014年製作/139分/PG12/アメリカ
原題:Get on Up
配給:シンカ/パルコ
(C) 2014 Universal Studios. All Rights Reserved.

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『キャデラック・レコード 音楽でアメリカを変えた人々の物語』

シカゴで生まれたブラックミュージック専門のレーベル、「チェス」。マディ・ウォーターズ、チェック・ベリー、ハウリング・ウルフなど様々なミュージシャンを送り出した「チェス」は、ソウル・ミュージックの歴史に大きな役割を果たすことになる。『キャデラック・レコード 音楽でアメリカを変えた人々の物語』は、そんな伝説的なレーベルをめぐる物語だ。ポーランド系移民の青年、レナード・チェスはシカゴでナイトクラブを経営しながら成功することを夢見ていた。そして、そこで出会った黒人ミュージシャン、マディ・ウォーターズとリトル・ウォルターの音楽を世に出すために「チェス・レコード」を設立。マディたちのレコードは売れてチェスは幸先のいいスタートを切るが、チェスは黒人シンガーのエタ・ジェイムズに恋してしまう。差別を受ける黒人。貧しい移民。社会の底辺にいる両者が手を取り合って成功を手に入れるが、それでも人種の溝を埋めることはできない。チェスのエタに対する片思いは、ブルースを愛しながらも、その魂に触れることができない苦しみでもあるのかもしれない。本作のプロデューサーでもあるビヨンセがエタを演じて歌も披露。チェスに秘めた想いを伝えるように歌い上げる“I’d Rather Go Blind”が胸を打つ。

ソウル/R&Bをテーマにした映画5選

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『キャデラック・レコード〜音楽でアメリカを変えた人々の物語』

ソウル/R&Bをテーマにした映画5選

『キャデラック・レコード』
デジタル配信中
Blu-ray 2,619円(税込)/DVD 1,551円(税込)
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
© 2008 Sony Music Entertainment. All Rights Reserved.

監督・脚本:ダーネル・マーティン
製作:アンドリュー・ラック、ソフィア・ソンダーバン
製作総指揮:ビヨンセ・ノウルズ、マーク・レビン
音楽:テレンス・ブランチャード
出演:エイドリアン・ブロディ、ジェフリー・ライト、ビヨンセ・ノウルズ、コロンバス・ショート、モス・デフ
2008年製作/108分/PG12/アメリカ/原題:Cadillac Records

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Words:村尾泰郎

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