ターンテーブル上でくるくる回るレコード。
「今それが鳴っている」という実在感。これがレコード再生の何ともいえない魅力。CDやダウンロード音楽とは違った面白味がそこにあります。

時間芸術を閉じ込めておきたい。レコードは、そう熱望した先人たちの努力のたまものです。エジソン以来約140年、LPレコードが生まれて約70年。長い間の創意と工夫の積み重ね。CD登場で消え去るかと思われたそのレコードが、今見直されています。

サイズ、回転数、色。CDとは何から何まで違うレコード。戸惑うあなたのために、レコードの素顔を解説。

オモテとウラがあっていい。

レコードをケースから出す様子

レコードとCDの異なる点は様々ありますが、まず忘れてならないのはレコードは表裏の両面に音溝が記録されているという点です。
CDの記録面は片面のみなのでプレイヤーにセットすれば全曲聴けますが、裏返して再びセットして聴くというのがレコードなのです。

A面・B面という表現があるのがレコード。
10〜12曲あるアルバムでは、A面・B面に分かれて収録されます。
シングルなら売り出す曲はA面。B面のほうは今で言うカップリング曲。テレビやラジオで紹介されることはほとんどなく、レコードを購入したファンのみに知られる隠れた名曲として扱われることもありました。
まれにB面曲のほうに思わぬ人気が集まって話題となり、あらためてA面曲として再発売ということも起こりました。

レコードはサイズと回転スピードが2種類。

レコードにレコード針を落とす様子

レコードは大きく分けて30センチと17センチのものがあります。
それぞれ回転スピードが設定されています。

LPレコード

現在、レコードで最も一般的なものは「LP」と言われる12インチ盤(約30センチ)。戦後登場ですから、70年もの歴史があります。
「LP」は「Long Play」の略。戦前からある旧式の「SP」(Standard Play))レコードは5分程度しか収録できなかったのに比べ、最大30分の長時間収録に対応しました。クラシック音楽など演奏時間が長い曲も楽しめるようになったのです。
クラシックの組曲全体や、10曲程度を収録したアルバム形式をとる際にLPレコードが使われます。
回転スピードは「33回転」。正確には、1分間に33と1/3の回転数です。

シングルレコード

直径7インチ(17cm)のレコードです。LPに対しEP(Extended Play)とも呼ばれました。
中央の穴が4センチ弱と大きいので、その見た目から「ドーナツ盤」という愛称もついています。
これは昔のジュークボックス(機械式の自動演奏装置)で使用することを前提に作られた名残です。穴が大きいことで機械内での保持操作が安定したのです。
家庭のプレイヤーで再生するときには穴を小さくするEPアダプターを使います。通常、プレイヤーに付属しています。
収録時間は片面5分程度。オモテに1曲、ウラに1曲収録が基本になります。
LPアルバムから1曲をシングルレコードとして売り出したい時、それを「シングルカット」と呼びました。
回転スピードは「45回転」。LPよりハイスピードです。

音質を追求した12インチ(30センチ)シングル

LPとEP。この2つの規格が市場のほとんどを占めるのですが、音質を追求した規格「12インチ(30センチ)シングル」レコードも存在します。
LPレコードの再生回転数33回転を45回転に引き上げて収録したレコードを指します。
再生時間は短くなりますが音質向上を図ったものです。

回転数が高いと再生できる情報が増えるので音質的に有利となります。
また、LPサイズの広い盤面なら隣り合う音溝の間隔に余裕を持たせることができます。
すると、収録時に音のダイナミックレンジ(音の大小の差)を拡大できます。
溝の幅が特に必要となるのは低音成分。音楽を支える低音の迫力を犠牲にすることなく収録ができるわけです。

シングルといいながらも片面2曲・両面4曲収録のものがよく見られます。

戦前からの規格、SPレコードのノスタルジー

レコードの種類

「SPレコード」はまだ蓄音機と呼ばれていた時期のレコード盤。再生には鉄針を使うといったノスタルジックさ。1950年代にLPレコードにとって代わられて、現在は生産されていません。
博物館や研究者の下で文化遺産として保存され、実働機器の鑑賞会も開かれています。

「SP」は「Standard Play」の略。収録時間は5分程度だから歌謡曲なら1曲分です。
サイズはLPと似通った直径12インチ(30cm)または10インチ(25.4cm)ですが、材質は全く違います。
シェラックという樹脂製で硬度はありますが、誤って落とすと簡単に割れてしまいます。
だからこそ希少価値もあり、名盤といわれているものは大変な高値がついています。

レコード盤を象徴する「黒」。それはタイヤにも使われるある材料の色。

カーボンブラック

レコードが黒いのは主たる材質である塩化ビニルに「カーボンブラック」を混ぜているからです。
「カーボン」とは「炭素」のこと。比重が鉄の4分の1に対して、10倍もの強度を持つという長所から、様々な工業製品の材料として使われています。

自動車のタイヤが黒いものばかりなのも、カーボンブラックを混ぜているから。耐摩耗に欠かせない原料なのです。
レコード再生に欠かせない針(スタイラス)も、その耐摩耗性を買われてダイヤモンドがよく使われます。ダイヤモンドはカーボン(炭素)100%の物質です。
この針でこすられ続ける運命にあるレコード。カーボンが選ばれたのも、耐久性への貢献を買われてのこと。レコードの長寿命を追求した故のカーボンなのです。

また、カーボンブラックの持つその漆黒の黒もレコードならではの理由があります。
黒は光とのコントラストが最大。ホコリや傷などの異物・異常が見分けやすくなるのです。
黒い車は汚れが目立つのと同じ原理。目立つゆえに汚れに敏感になれ、美しさを維持できますね。

ないものねだりの「カラーレコード」

耐久性を一番の理由としたレコードの「黒」。でも、黒ばかりじゃ面白くない。そう考えるのも人情。

レコードの初登場から時が経つほどに、レコード針の加工精度やプレイヤーのトレース能力が良くなりました。当初よりレコードを傷めにくくなってきたことから、やがてカーボンを入れずに鮮やかな色の顔料を入れたカラーレコードも許容されるようになりました。

カラーレコードのビジュアル的魅力を一気に知らしめたのが、1973年に発売され、通称「赤盤」として親しまれた『ザ・ビートルズ1962年〜1966年』(LP2枚組)と、「青盤」の『ザ・ビートルズ1967年〜1970年』(LP枚組)。

赤だの青だのとかわいらしく回る姿に、気持ちもウキウキ。
「今、音出してるよ」というポールやジョンの楽しげなささやきが聞こえてきそう。

見えるからこそ堪能できるレコード再生の魅力。

漆黒の音盤から聴こえてくるクラシック音楽。カラーレコードでビジュアルも楽しめるポップス音楽。いずれにしても、そこにあるのは音が蘇る現場を目撃している生々しさ。見えるからこそ堪能できる。
これが、レコード再生が持つリアリティの正体のひとつなのです。

Words: Kikuchiyo KG