この夏も例年以上に厳しい暑さが続きました。レコードにとって高温は大敵で、反りや内袋の劣化など、取り返しのつかないダメージを与えてしまうこともあります。今回は、オーディオライターの炭山アキラさんが、夏を中心に気をつけたいポイントを解説しながら、室温による音質変化など、これからの季節も役立つ知識を紹介します。

レコードを守るために知っておきたい夏の保管対策

レコードにとって最も厄介な季節は、何といっても夏です。レコードの塩化ビニールという素材は熱に弱く、例えば炎天下の車内に放置などしようものなら、たちまち回復不能なまでにグニャグニャと反ってしまう、という事故が後を絶ちません。

まぁこれは夏に限りませんが、レコードは直射日光に当てないこと、あまり大きな角度の斜めにして置かないこと、熱のこもる部屋に保管しないこと、こういったことは基礎的な知識として頭へ入れておきたいところです。

レコードの反り以外に、夏場のレコード保管で気を付けるべき点はあるでしょうか。これは意外と知らない人が多いようなのですが、特に国内盤のレコードを買うとほぼ全数、薄いビニール製の内袋に盤が入れられているものです。このビニール製内袋が、時に大変な厄介ごとを引き起こすことがあり、注意が必要です。

ビニール製内袋が、時に大変な厄介ごとを引き起こすことがあり、注意が必要

とても暑い日に、しかもレコードラックへぎゅうぎゅうにレコードを押し込んで保管していたとします。そうすると、レコードにビニールの内袋が張り付いてしまうことがあるのです。そうなってしまったら、ベリベリと剥がしてももうレコードは元に戻りません。

わが家にも中古購入したレコードの中に、そうなってしまっている盤が何枚かあります。実際にどういう状況になっているかというと、音溝に針は通るものの、ひどく情報量が痩せてノイズだらけの音楽となり、とても鑑賞に堪えるものではなくなってしまっている、という状態です。

でも、レコードを置いている部屋にはエアコンがない、あるいは家族の目もあって24時間つけっぱなしにするわけにはいかない。そういう場合にはどうすればよいでしょうか。

一つには、ビニール製の内袋を毎年交換するという方法があります。あの内袋は熱による劣化が早く、ひと夏を越えると翌年にはレコードに張り付く可能性が大きく増すからです。国産の一流メーカー品でも、さほどの価格ではありませんし、汚れたらこまめに取り替えたいものですから、皆さんもレコードの枚数がある程度溜まってきたなら、常備しておかれることを薦めます。

もう一つは、紙製の内袋に交換することです。特にアメリカ盤などを購入すると入っていることの多い、薄い紙製のものです。ビニール製より少々お値段は張りますが、これで夏場にレコードをダメにする確率はほぼゼロになりますよ。

アメリカ盤などを購入すると入っていることの多い薄い紙製の内袋に交換すると、夏場にレコードをダメにする確率はほぼゼロに

季節によって変わる音質と針圧調整の工夫

これは夏場に限りませんが、室温にレコードの音質は意外と大きな影響を受ける、ということも覚えておいた方がよいでしょう。「えっ、そんなことあるの?」とお思いかもしれませんが、先に述べた通りレコードの塩化ビニールは、車内の高熱でグニャグニャに歪んでしまいます。それと同じ原因で起こることが、ごく小規模にではありますが、レコードをかける現場でも起こっているということです。

また、カートリッジのダンパーも多くはゴムをはじめとする弾性材ですから、温度によって柔らかさが違ってきます。

ほとんどのレコードとカートリッジは、室温が摂氏20度の時に万全の性能を発揮するよう設定されています。しかし、冬場ならまだしも、夏場に室温を20度にすると、カーディガンでも羽織らなければ風邪を引きそうなくらい、寒く感じてしまいますよね。それに、そんなことをしようと思ったらエアコンをフル活動させなければならず、省エネにも反してしまいます。

ならばどうすればよいかというと、カートリッジの針圧を少し上下させてやればいいのです。夏場はレコードもカートリッジも柔らかくなっています。つまり、少し針圧を軽めにした方が本来の性能へ近づけやすい、ということですね。同様に、20度を下回る冬場のレコード再生では、少し針圧を高めにしてやるとよいでしょう。

夏場はレコードもカートリッジも柔らかくなっているので少し針圧を軽めに、20度を下回る冬場のレコード再生では、少し針圧を高めに

それでも、残念ながら全く同じ音にはなりません。夏場は概して音の表現が若干柔らかで太く、冬場はキリッと締まって高域までよく伸びた再生音になる傾向があります。まぁ、あまり神経質になるのも考え物ですけれどね。

もっとも、世の中には摂氏25度で本来の性能を発揮するカートリッジ、あるいは15〜17度くらいで持ち味の出るカートリッジといった製品が、ごく僅かではありますが存在します。知人に「夏場は前者、冬場は後者で音楽を楽しんでいるよ」という人がいて、なるほど合理的だな、などとも感じさせられたものです。

そうはいっても、摂氏30度で針を落とすと盤面が柔らかくなっているから音溝が傷む、というほどのことはありません。少しずつ工夫しながら音楽を楽しみ、一方でレコードを傷めない保存に努めましょうね。

Words:Akira Sumiyama

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