Shuttle Hotel Presents:ヒマの過ごし方 酒とレコードを掘る(福井編)の続編。
今回はShuttle Hotelに乗って金沢へ。

福井 ― 金沢間は車で1時間半、電車だと40分、東京から湘南にいくような感覚。
金沢は第二次大戦時に空襲を受けなかった町ということで市内には古い建物が並ぶ。
ダウンタウンには小さな石造の水路が歩道の横を流れていたり、街灯が暖色だったりタイムトリップしたような雰囲気。

金沢到着の夜はローカルの若いオーナー田川シェフが営んでいるFIL D’ORにて特別に今回のテーマでもある日本酒と共に楽しめる料理を振る舞ってもらった。田川シェフはカナダ、アメリカ、フランスで修行を重ね、金沢市片町に自身の店舗をオープン。今回は地元野菜の天ぷらなどをアレンジした、フレンチ出身のシェフが考える日本酒と洋食の融合を満喫。料理をしながら、せかしく iPhoneでナイスチューンを選曲する姿が微笑ましかった。ほろ酔いの中街を散策しながら早々に金沢マジックに入り込んでいった。

サスティナブルな酒造り・当たり前をもう一度

株式会社吉田酒造店 吉田泰之氏、吉田まりえ氏

本題の酒蔵訪問の日、金沢市内から車で30分ほどの白山方面に。今回訪問するのは白山手取川ジオパークのエリア内で日本酒を製造・販売する株式会社吉田酒造店の代表取締役社長吉田泰之さんと、奥様の吉田まりえさんに今後の酒業界や未来について色々話を伺った。Webページを見る限りかなりモダンなことをやっているイメージがあったのでそこを詳しく聞いてみた。

クリストファー:世代交代をしてから大きく変わったことはありますか?

吉田泰之氏:そうですね、僕の代になって一番力を入れているのは自然と共存できる酒蔵であることです。共存するというのは地元のお米を使うことから、実際に再生可能エネルギーへのパワーシフトに取り組んだり、売り上げの一部を白山の自然保全活動に寄付したり。

クリストファー:モダンですね!世代交代という責任重大なタイミングで思い切ったきっかけは?

吉田泰之氏:実はイギリスに1年間留学し、NYでも研修をしていたことがありました。ヨーロッパは地続きでちょっとした休みがあると色々な国に簡単にいけるので、イベントごとがあるたびに旅行してました。ヨーロッパに住んでいた時に日本では100円ショップが流行ったり、大量消費、使い捨て、買い替えが当たり前の社会だという印象を持っていました。しかしヨーロッパでは良いものを長い間使うという概念が若い世代にも共通の認識として埋め込まれていることに心を動かされたのを覚えています。この経験のおかげで日本、そして石川という土地を客観視することができたと思います。

クリストファー:この業界では新しい考え方なんでしょうか?

吉田泰之氏:そうですね。酒蔵、酒屋は年配の方が多い業界ですので「サスティナブルな酒蔵にしたい」といったところで共感してもらえることはあまりないですね。やはり今までの業界では設備に投資してより美味しい酒造りを優先するという考えが主流だったと思います。未来に描くビジョンに少しずれを感じますね。

福井の常山の専務なども若い世代でヤングな考え方をしているイメージはあったがやはり業界全体としてみると彼らはパイオニアのような存在なんだろうか。

クリストファー:若い人から杜氏のビジョンへの反応はどうですか?

吉田泰之氏:若い人たちは共感とまでは言わなくとも、面白がってもらえているイメージですね。例えばバンナチュールのような不安定な味わいを楽しむという考えは進んでいると思います。以前は添加物を入れて安定した味、綺麗なお酒造りをしていました。しかし我々の世代は添加物に引っかかる部分があるので、どのようにしたら無添加で美味しいお酒が造れるかという研究も進んできた。石川県だと山廃造りがあります。
伝統的な造り方で味わいをモダンにするなど、より自然を感じたい世代なのかもしれないですね。

クリストファー:お酒造りの方向性を決めるのは杜氏だと聞いていますが吉田酒造さんはどうですか?

吉田泰之氏:基本的には私が大部分を決めています。しかし、メンバーにも自分のオリジナルのお酒を造る機会を作っています。酒造りに興味があって入ってきてくれたメンバー、彼らのアイデアや情熱が蔵をさらに成長させてくれる。選ばれたメンバーは設計、製造、価格、ラベルまでを全てを自分達で担当します。私も毎回、良い刺激をもらっています。メンバーがライバルって面白いですよ。

Shuttle Hotelの車内
Shuttle Hotelでレコードを聴きながら味わう日本酒は格別だ
手取川を注ぐ

クリストファー:奥様のお仕事は何ですか?

吉田まりえ氏:私の仕事はデザインがメインです。夫が造るお酒に合ったデザインを私なりにイメージして作っています。元々雑誌の編集、オウンドメディアの立ち上げや、広告関係の仕事をしていたんです。

クリストファー:FIL D’ORでラベルが黄色いドット柄のお酒を飲んだんですが、あれは奥様のデザインですか?

吉田まりえ氏:そうです!ジャケ買いじゃないですが、パッと見ておもしろそうだな、美味しそうだなと手に取ってもらえるようになったら嬉しいです。

日本酒のラベル

実は昨夜、微炭酸の冷酒のラベルデザインをサイズ違いのドットで表現するのは新しいと絶賛していた。

クリストファー:お酒造りに参加することはありますか?

吉田まりえ氏:お酒造り自体には参加することはないですが、こんな音楽と合うお酒が造りたいとか、アルコール度数を下げたいとかは言ったりします(笑)。

吉田社長:僕だけだと表現しきれない部分を一緒に造り上げてくれると、他人に任せるのと違い妥協をすることがなくなりました。

クリストファー:Eコマースには、力を入れていますか?

吉田社長:お酒の業界は特殊で酒屋さんを通してお店に卸す仕組みになっているのでそのステップを省くことはありません。また、自分もこの部分についてはクラシックな考え方というか、酒屋さんに行かないと見つからないお酒との出会いや、会話などを大切にしたいので急にオンライン中心にするという考えはあまりないですね。

時間の使い方で言うとレコードショップでディギングしている感覚に似ている。お酒も酒屋さんに行って色々会話しながら買うのも面白そう。
吉田社長の話はどれも世界中の企業や個人が取り組むSDGsの目標のように感じる。しかしそれをSDGsとして捉えているのではなく、当たり前の未来構想として平然と語る吉田社長。業界が目指していた100点満点の金賞の日本酒を作ることではなく、個性のあるお酒造りにフォーカスすることによって新しい考えやマーケットが広がっているのかもしれない。吉田社長の描く未来が当たり前になる日も遠くなさそう。

吉田酒造150周年記念動画

日常から離れる場所として

エブリデイレコード 堂井裕之氏

この後は金沢市内から少し外れた場所にある今回の旅の終着点である everyday recordsへ向かった。
ここはいくつかのお店で構成されている横丁のようなスタイルの建物。レコードストアはその正面に店を構えて外からもレコードが並んでいる様子が見える。
店内は倉庫のようなインダストリアルな天井に綺麗に並んだレコードボックスがずらりと。オーナーがカウンターで選曲をしながら迎え入れてくれた。

クリストファー:お店を見させてもらいました、ジャンルは色々のようですが特にワールドミュージックコーナーが気になりました。

堂井氏:ジャンルは問わずに色々な音楽を取り扱っています。ワールドコーナーは私の個人的な趣味もあって置いているんです。和物もあります。

クリストファー:ここは中心街から少し離れた場所ですが、どんなお客さんが来るのですか?

堂井氏:基本的には県内の人や近隣の県の方々が多いです。車で来る人がメインで、観光客より地元のお客さんが多いですね。地元のお客さんに喜んでもらえるお店というのはオープン当初から大事にしています。男女比で言うと男性が圧倒的に多いですが、女性も増えていて、お母さんと娘さんで一緒にレコードを買いに来るとか、ジャケ買いでアートとして購入されるかたなど様々です。
金沢は個人経営でやっているレコードショップが市内だけでも4店舗、近隣も入れると7~8店舗あるので、人口の割合にするとかなり多いと思います。しかもほとんどのお店がオールジャンルで10年以上やっているところばかりです。
金沢は(第二次大戦で)空襲を受けなかった場所なので、戦争の前からの流れで住んでいる人が今も多くいるので、東京と比べると時間の使い方に余裕があると思っています。レコードショップに行って音楽を聞く時間を持てる環境が揃っているのかもしれないですね。

レコードをディグる様子

クリストファー:ちょうどそのことについてお話を伺いたかったところでした。2021年にレコードというフォーマットで聴くことにどういう意味があるのでしょうか?

堂井氏:デジタルというフォーマットは間違いなく成長していくし、実際にお店で音楽をかけるときにspotifyを使ったりもします。しかしレコードで音楽を聴くというのは聴くという行為以外の部分を刺激してくれると思っています。例えばライナーを見る、触る、匂いや一つのアートピースとしても考えられる。音楽を聴くということ以外に必要とされるレコードの取り扱い、これに伴う所要時間が大切だと思います。今は特にコロナ禍だからこそ客観的にものを捉える必要性がある中で、ふと日常から離れる手段としてレコード、音楽はとても優秀なツールだと思います。

クリストファー:最後に旅先に持っていきたいレコードを教えてください。

堂井氏:80年代の Pat Methenyは全て好き。

Pat Methany Group – still life talking

堂井さん、レコードディグ楽しかったです。
パット・メセニーを聴きながら東京に帰ります~

Shuttle Hotelで東京へ

エブリデイ・レコード

エブリデイレコード 堂井裕之氏

〒921-8161 石川県金沢市有松5-10-27

アクセス方法 バス:北鉄バス33番金沢工業大学方面行き「上有松」下車徒歩3分
車:有松四丁目交差点、マクドナルド有松店ななめ向かい。金沢駅より約20分。駐車場あり。
TEL 076-200-9191 営業時間 12:00-20:30

石川 MUST GO

FIL D’OR

石川県金沢市片町2-13-24
18:00〜24:00(土日は11:00〜18:00) 定休日:日
TEL 090-9442-1324

Instagram

株式会社吉田酒造店

※吉田酒造店での試飲・販売は可能ですが、現在見学設備が整っておりませんので酒蔵見学はできません。
TEL 076-276-3311

HP

Photos : Kateb Habib
Words : オステアー クリストファー