「レコードは音質がいい」「レコードの音には温かみがある」とはよく耳にしますが、いまの令和の時代において発売されたレコード、その音質はいかに?ここではクラシックからジャズ、フュージョン、ロックやJ-POPなど、ジャンルや年代を超えて日々さまざまな音楽と向き合うオーディオ評論家の小原由夫さんが最近手に入れたレコードの中から特に<音がいいにもほどがある!>と感じた一枚をご紹介いただきます。

四半世紀を越えて響くデュオの現在地

男女のヴォーカル・デュオは、古今東西、枚挙に暇がない。邦楽では、古くはヒデとロザンナ、近年ではYOASOBIが人気だ。洋楽では60年代から70年代にかけて、ソニー&シェール(Sonny & Cher)、アイク&ティナ・ターナー(Ike & Tina Turner)、カーペンターズ(Carpenters)などが広く知られるところ。80年代はユーリズミックス(Eurythmics)がポップス界を席巻したことが記憶に新しい。

90年代を代表する男女デュオとしては、英国のエヴリシング・バット・ザ・ガール(Everything but the Girl)を外すことはできないだろう。メイン・ヴォーカルのトレイシー・ソーン(Tracey Thorn)と、楽器演奏が主体のベン・ワット(Ben Watt)による、ネオ・アコースティックを代表するデュオである。

後にパートナーとなった2人だが、90年にはベンがチャーグ・ストラウス症候群という難病を患って一時的に活動休止。94年のベン復帰作『Amplified Heart』発表から、96年にVirgin Recordsに移籍して「Walking Wounded(邦題:哀しみ色の街)」をリリースし、2000年の解散まで精力的に活動した。2023年に活動を再開し、ほぼ四半世紀ぶりのスタジオアルバム『Fuse』をリリースしている。

今回紹介するのは、1999年までに発表した10枚ほどのオリジナルアルバムから抜粋した2枚組重量盤ベストの『The Best of Everything But The Girl』だ。全16曲が4面に4曲ずつ収録されている。リマスタリングに当たったのは、英EMI傘下のAbbey Road Studios所属のエンジニア、マイルス・ショーウェル(Miles Showell)。彼は近年数少ないハーフスピードマスタリングを得意とするエンジニアだが、本作に同手法が採り入れられているのか否か、クレジットに記載がないので不明である。

『The Best of Everything But The Girl』

オムニバス盤やコンピレーション盤の難しいところは、録音時期や録音場所(スタジオ等)が異なる多くの楽曲の音の質感や調子をどう整えるかにあるといって過言でない。もちろん敢えて揃えないというアプローチもあるが、マスタリングエンジニアの腕の見せ所という面もあるだろう。

まさしくネオアコースティックとダンスビートの融合といえるA-2「Nothing Left to Lose」は、シンセサイザーが奏でる漂うようなメロディーと、それを突き抜けるドラムンベース的なビートが刺激的だ。そして、どこか懐かしいムードを感じずにいられない。

B-3「Before Today」は、打楽器を模したシャッフル的なビートと深く沈むドラムンベースを背に、トレイシーの優しい歌声が響く。打ち込みのリズムと思われるが、クールに聞こえず、むしろウォームな質感さえ抱かせる。

米国録音のC-1「Driving」は、彼らのそれまでのスタイルとはやや趣きが異なる。腕っこきのスタジオミュージシャンのサポートを得た、タイトなリズムとリッチなアンサンブルが素敵だ。これはもうAORといっても通用しそうだ。

音がいいにもほどがある! その他の記事

Words:Yoshio Obara

SNS SHARE