数多くのヘッドホンとイヤホンが店頭に並んでいます。これらは、形状や発音方式、ハウジング構造などによって多彩なバリエーションがあり、大きく「オーバーイヤー」「オンイヤー」「インイヤー」の3つのタイプに分けられます。それぞれの特徴と音質について、オーディオライターの炭山アキラさんに詳しく解説していただきました。
3つのタイプは耳とドライバーの位置で分けられる
このジャンルはオーバーイヤー、オンイヤー、インイヤーの3種に大別されます。
オーバーイヤータイプは、まさに「ヘッドホン」というべき格好で、大半は頭上からツル(ヘッドバンド)で支えられた、耳を覆う形のイヤパッドとドライバー(発音体)、ハウジングを持つタイプで、オーディオテクニカでは「オーバーヘッド型」と呼ばれています。
オンイヤータイプはオーバーイヤーより小ぶりのハウジングを持ち、耳へ載せるような形状のものです。ヘッドバンドで支えられているものもありますが、短いカギ形のツルが装着されていて、耳たぶの裏へひっかけて使うものもあります。
インイヤータイプは、ドライバーと鼓膜をより近接させる形式で、耳穴の前へ小さなドライバーとハウジングを引っかける格好の「インナーイヤー型(セミオープン型)」と、より積極的に耳栓のように耳穴へ突っ込む「カナル型」があります。オーバーイヤーよりも小さなドライバーを持ちますが、鼓膜との距離が近いため、特に上級モデルは意外なくらいワイドレンジで解像度も高く、見た目の華奢さを覆すような音楽再生を聴かせてくれるものです。
「ドライバー」は振動板(発音体)と磁気回路を合わせたもの
ヘッドホン/イヤホンの発音方式は、大部分がフレミングの左手の法則で動く「ダイナミック型(動電型)」が採用されています。特にカナル型の高級機では、ダイナミック型をより高度に発展させた「バランスド・アーマチュア型」を採用することがあります。
さらに、動電型とは全く違う発音方式もあります。静電気を帯びた薄い膜の近傍で音楽信号を流すことにより、膜を振動させて音を発するという「コンデンサー型(静電型)」です。この方式は、高い電圧で音楽信号を流さなければならず、専用アンプが必要になるので、とてもプレミアムな方式といってよいでしょうね。
動電型が発展した形で、静電型と同様の樹脂製薄膜の表面に、導電性の迷路のような道筋を印刷してそれをボイスコイル代わりとし、強力な磁気回路で挟み込んで振動させる方式があります。「プリンテッド・リボン型」と呼ばれることが多いようです。
ダイナミック型ヘッドホン/イヤホンの振動板は、スピーカーの項で解説したトゥイーターと近いものです。非常に柔らかい樹脂製のものが一般的ですが、軟質樹脂に硬い被膜をコーティングしたものや、金属製などがあります。オーディオテクニカでは、ダイヤモンドに次ぐ強度を誇る炭素素材ダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)や、極めて堅いことで知られる金属のタングステンをコーティングした振動板が知られています。
振動板と磁気回路、そしてそれらを支えるフレームを合わせたものを、一般に「ドライバー」と呼びます。そのドライバーが固定されているのが、「ハウジング」です。ヘッドホン/イヤホンには「オープンエア型(開放型)」と「クローズド型(密閉型)」それぞれの形式でハウジングの働きは変わってきます。
オープンエア型は、ハウジングといってもドライバーを支える頑丈なフレームが主で、その後方は概してパンチング・メタルや金網のようなもので構成され、空気が抜けるように設計されています。そのせいで、密閉型よりも開放的でハイスピードな音になる傾向があります。
密閉型はその名の通り、ハウジングは後方へ向かって閉じられており、ドライバー背面の音が周辺へ漏れないようにすると同時に、ハウジング内の容積とドライバーの特性を合わせ込むことによって、低域の限界周波数や絶対的な量感などを設計し、それぞれにベストの特性をもたせることができるようになります。
全体の形状や振動板、ハウジングなど、いろいろな項目について大まかに語ってきましたが、実際のところ、それだけで音質が決定されるわけではなく、それぞれがヘッドホン/イヤホンの音質や品位の高さを決める、見逃せない要素の一つだ、という風に考えて下さい。
Words:Akira Sumiyama
Edit: Kosuke Kusano