ジャケットの大きなアートワークやライナーノーツや帯が教えてくれる文字の情報は、デジタル配信サービスには無い “レコードならでは” の魅力です。 その愉しみ方について、オーディオライターの炭山アキラさんに解説していただきました。

「LPレコードのジャケットは31.5cm角の正方形です。 それに対してCDジャケットは12cm角、配信音源ではスマホやDAPの画面に表示される小さな図形ということになりますね。 実際にLPジャケットほどのサイズになると、アートワークのキャンバスとしてもかなり有効で、凝ったデザインのレコードを探すことはそう難しくありません。 」

ジャケットデザインの芸術

レコードも生産国によっていろいろな仕様がありますが、特に国内盤は “帯” と通称される内容を解説するシートが付いていて、それを読めばどんなレコードかがほぼ分かります。 しかし輸入盤にはそういう解説はほとんど望めず、英米の盤ならまだ英語をある程度読むことができれば中身が判別できますが、北欧やアジアなどの盤ではほとんど絶望的です。

そんな時、一部のレコードマニアが行っていたのが「ジャケット買い」です。 ショップの棚から抜いたレコードをじっと見つめ、何かひらめくものがあったらそのまま購入する。 達人になると、例外はあるもののそれで大体好みのレコードが入手できたそうです。

また、そうやって引き抜いたレコードがもし音楽的な好みと違っていても、ならばジャケットをアートとして扱ってやればよいじゃないですか。 世の中にはジャケットが入れられる額縁がいくらでも売っていて、しかもレコード1枚とそう価格は変わりません。 ちょっとした絵画みたいな感覚でレコードを飾る。 いい趣味だと思います。

同じ楽曲を擦り切れるまで

最近は私自身、ハイレゾを中心とした配信音源を購入することが増えましたし、いわゆるサブスクにも加入しています。 それらは何といっても気軽なのがいいですね。

確かに、あるアーティストが好きになったら、その人のアルバムを片っ端から聴いていくことが可能なサブスクは、とても魅力的です。 でも自分自身を振り返って、乏しい小遣いやバイト代を握りしめ、月に1~2枚のレコードを買っていた頃と、ずいぶん音楽の聴き方が変わってしまったなと思います。

あの頃は何といっても手元に数えるほどしかレコードがないものですから、とにかく何回も何回も針を落とし、1枚のレコードを聴きまくったものでした。 「擦り切れるほどレコードを聴く」という言い回しがありますが、本当に音溝がダメになるくらい繰り返し聴いたレコードが、私にもあります。

もっとも、当時の愛聴盤が擦り切れてしまったのは、私がレコードも針先もろくすっぽ掃除をしていなかったからです。 きれいな盤面と針先でかける限り、レコードは100回や200回かけたくらいで擦り切れることはありません。

こういう音楽への入れ込み方は、レコードだからできる、サブスクだからできないというものではないのかもしれません。 しかし、目の前へ無限に湧き出す音楽より、自分が「これ!」と狙って入手したレコードの方が、おのずと愛着も深いものになる。 そんな風に感じられませんか?

レコードの楽しみ方、癒され方 〜オーディオライターのレコード講座〜

ライナーノーツでより深く知る

レコードの特に国内盤には、ライナーノーツと呼ばれる解説書が入っていることが多いものです。 アーティストのプロフィールと近況、総論と楽曲ごとにわたるアルバムの解説、詳細なものには録音期日や場所、エンジニアの名前まで書いてあるものがあります。 また、2つ折りになったフォールデッド・ジャケットは内側にライナー代わりの情報が載っているものがありますね。

特に帯とライナーノーツはほとんど日本の国内盤に唯一といってよいものですから、その情報的価値に加え、コレクション的な意味合いからも、大切にしたいものです。

十人十色のセッティング

他のメディアにないレコードならではの音楽の楽しみ方として、再生音を自分好みに整える調整シロが圧倒的に大きいことを挙げてよいでしょう。 具体的には、プレーヤー、カートリッジ、フォノイコライザーといった機器に何を選ぶか、またそれらをどう調整して自分好みの音へ近づけていくか。 レコードで聴く音楽は、リスナーの腕前がそのまま音になって表れるものでもあります。 私自身、レコードで音楽を聴き始めて40年以上になりますが、それでも年々レコードの音は良くなり続けています。

例えばカートリッジの針圧を推奨範囲内で少し重めに、あるいは軽めに合わせるだけで、レコードの音は微妙に変わってきます。 また、トーンアームの高さをほんの1~2mm変えてやると、さらに劇的な変化が起こります。 高級なフォノイコライザーをお使いになるとすると、MCカートリッジならカートリッジの負荷インピーダンス、MMやVMなら負荷容量を調整すれば、これもまた大幅な音質変化を味わうことができます。

昔、「音は人なり」といったオーディオ評論家の先生がおられました。 特にレコードで聴く音楽は、その人ごとのキャリアやお人柄が色濃く再生音に乗ってくるように感じています。 皆さんもぜひ、自分にとって最高のレコード再生を目指して下さいね。

Words:Akira Sumiyama