オーディオ機材を揃えるにあたって、さまざまな選択肢があります。 たとえば、最新の機能を備えた新品機器を買うか、はたまた唯一無二の魅力があるヴィンテージの機器を買うか。 「オーディオライターのヴィンテージ名機紹介」では、オーディオ界隈で “名機” と呼ばれるスピーカーやアンプ、レコードプレーヤーなどのオーディオ機器について解説していきます。

店舗やオンラインストアに並ぶヴィンテージオーディオ機器は、必然的にいくつかの時代と人の手を経てそこにあるもの。 今回はそんなヴィンテージ機器を購入するにあたってまずは知っておいてほしいことを、オーディオライターの炭山アキラさんに解説していただきます。

ヴィンテージの魅力と心構え

私たちが音楽を聴く手段として、オーディオ機器というものが存在します。 もともとはレコードやラジオを聴く道具として生まれ、電気再生の時代になってからでも、もう100年が経過しようとしています。

そういう生まれの機器ですから、本来は音楽が主役で、それを上手くリスナーへ届けるための道具という側面が強いものですが、電気再生100年の中で星の数ほども存在する機器群の中には、時代を超えて愛される存在もまた、数え切れないほどの数があります。 つまり、もともと道具として開発された製品に魂が宿るというか、装置そのものが趣味・愛玩の対象になったということです。

陳列されたレコードプレイヤー

特に、多くは半世紀以上も前に発売され、それが今もなお世代をまたぎ愛好家によって音楽が奏で続けられている、いわゆるヴィンテージ・オーディオという世界が存在します。

それらの多くは、例えばS/N比や歪率といったカタログデータでは、現代の機器に全く太刀打ちできませんが、ひとたび音楽をかけると、現代の機器ではともすれば稀薄になりがちの音楽の魂や情熱といったものを、濃厚に眼前へ現出させてくれることがあります。 現代の機器に比べれば、もちろん壊れやすくて修理も大変で、とかく手のかかるヴィンテージ・オーディオを愛する人が少なくないのは、その音楽性というか、世界観あってのことなのでしょう。

それじゃ私も、一度ヴィンテージの世界をのぞいてみようかな。 そうお考えのあなたに、ヴィンテージとともに暮らすに当たって必要な心構え、というと大げさですが、気を付けておきたいことをいくつか書いておきましょう。

信頼できる業者の重要性

まず、ヴィンテージ機器は100%のコンディションが得られるわけではない、ということをご理解下さい。 新しい製品でも、使っていれば徐々に劣化が進むものです。 まして多くのヴィンテージ製品は発売から何十年も経過し、大規模な修理も1度や2度ではない可能性がありますし、後述しますがどんな修理をされたかによっても、大幅にコンディションが違ってしまうものです。

もう一つは、必ず信頼できる修理業者を確保しておくことです。 いつ壊れるか分からない製品群ですから、すぐに面倒を見てくれる職人がいるといないとでは、もう安心感に天地の差があります。 この辺は、クラシック・カーに乗る人たちと同じことですね。

修理業者の選択、音質とコストのバランス

ちなみに、修理といっても業者によって、いろいろな方法論があります。 それぞれの製品がデビューの時に使われていたパーツを世界中からかき集めて修理している業者もあれば、しっかり特性を出しつつ長持ちさせるために、現代のパーツを使う業者もあります。

後者はさらに2つへ大別されます。 特性が出ればOKと普通の現代パーツを使う業者と、数ある現代パーツを膨大に試行錯誤することで、それぞれの機器の元の音へ近づける努力をしている業者です。

修理の結果、元の音に一番近く仕上げられるのが、1番目の業者であることは言うを俟たないでしょう。 続いて3番目、2番目の順になります。 修理費用に関しては、まぁその逆になっても仕方ありませんね。

ビンテージオーディオ機器は修理後の再生音に大きな違いが出るもの

長いヴィンテージ機器の履歴で、一体どんな修理がどれくらいの頻度でされてきたか。 特にこういった修理では、実際に作業をする職人さんの腕前でも、修理後の再生音に大きな違いが出るものですから、ヴィンテージ機器がコンディションによって1台ずつ全然違う音になっていても、もう致し方ないのかなという気がします。

ヴィンテージ・オーディオを愉しもう

というような状況ですから、もし本腰を据えてヴィンテージへ取り組みたいとお考えなら、ネットオークションなどで買い求めるのではなく、できるだけ信頼の置ける販売店から購入されることを薦めます。

日本国内では長く不況が続いていることもあり、また近隣の国々が経済力をつけてきたこともあって、日本で長年愛用されてきたヴィンテージ機器の多くが、海外へ流出しています。

この流れはある程度避けられないものですが、ここ日本でも着実にヴィンテージ機器やレコードが次の世代へと受け継がれる、そんな世の中になることを私は望んでいます。 ヴィンテージ・オーディオ、手はかかりますが本当に楽しい音楽再生の世界ですよ。

Words:Akira Sumiyama