NYを拠点に、世界各地のシーンを独自取材して発信するカルチャージャーナリズムのメディア『HEAPS Magazine(ヒープスマガジン)』が、Always Listening読者の皆さまへ音楽にまつわるユニークな取材記事をお届けします。

「アーティスト名でレコードを探すなんて、ぼくはそんな無粋なことはしません」。—— 高いレコードについて、教えてください。やっぱりビートルズの初版とかですかね? なんて質問、失礼しました。

米国ニューヨーク州に在住の大山栄作さん。現地でドクターとして働いているため、皆から “先生” と親しまれている。移住して以来、カリフォルニアで3年、ニューヨークで15年、合計18年間もの間、毎年少なくとも200枚ずつは買い足し、いまや3,800枚ほどのレコードを、自宅にレコード部屋をもうけて保有するレコード収集家だ(移住前、もちろん日本でも集めていた)。

大山さんに今回教えてもらうのは、レコードと値付けについて。なぜこのレコードがこの値段?というのが、ひとつわかっちゃいました。

ジャケットが白と黒のレコードは高い?

「白と黒のジャケットをみつけたら、とりあえず聴いてみます」。大山さんが見定めるのは、大手レコードレーベルから流通したものではなく、ミュージシャンが自費出版する「自主制作盤」だ。なぜ白と黒かというと、印刷費用をなるべく安く抑えるために、モノクロで刷ったジャケットが多いため。ワンポイントで1色足す、といったものも多い。

Mike Lane『Love Took Me Somewhere』
Mike Lane『Love Took Me Somewhere』

レコードの売値は基本的にそのレコードショップの店員が決めていくもの(現在はオンラインで相場のリサーチができるため、掘り出し的な値付けは少なくなった…)。だが、自主制作盤はそもそも制作数が少ない=希少性が高い、と判断されるため、だいたい1枚20〜40ドル(およそ3,000〜6,000円)が中央値となるそう。また各レコードの流通枚数が少ないために相場というものが存在しないため、「天井なしの言い値文化」も成り立っている。

ビートルズの有名盤よりも、名前を見たことも聞いたこともないアーティストのレコードの方が何倍も高い、なんてことはザラにある。

では「大手レーベルのマイナー盤」と「自主制作盤」を見分けるには?

「センターラベル(レコード中心部に貼付される円形のシール)上の記載情報を見てみてください」。通常はアーティスト名にくわえてレーベル、品番などが記載されているのだが、自主制作盤にはレコードレーベルが見あたらないことも多々ある。また、記載はされているものの、調べれば「リリースしている作品が1作品のみ」なんてことも。

これは、自費出版のためにレコードレーベルをたてはするが、複数アーティスト、または複数作品をリリースするわけではないため、自ずとそうなる。また、自主制作盤に刻印されるレコード番号も目印になる。001や010など、一定量が流通するレコードではなかなかお目にかからない小さい桁が並んでいる。

Discogsで、このレコードをみてみる。レーベルに飛んでみると...
Discogsで、このレコードをみてみる。レーベルに飛んでみると…
取り扱うアーティストは一人のみ(=Mike Lane)であることがわかる。
取り扱うアーティストは一人のみ(=Mike Lane)であることがわかる。
比較として、米ワーナー・ミュージックグループ傘下のレーベル、Parlophoneのページをみてみる。多くのアーティストがずらーっとでてくる。
比較として、米ワーナー・ミュージックグループ傘下のレーベル、Parlophoneのページをみてみる。多くのアーティストがずらーっとでてくる。

自主制作盤の質をあげた、ヨットロックブームの背景

「シティポップブームの火付け役となったヨットロック。これもいま、値段があがっていますね」。ヨットロックとは1970年代後半から80年代にブームの最高潮をむかえた音楽ジャンルで、簡単にいうと都会的で洗練された音が心地よく、富裕層がヨットに乗りながら気持ちよく聴くおしゃれなロック、といったところ。日本でいうAOR(Adult Oriented Rock)の一つ。大山さんいわく「リラクゼーションを提供し心に爽やかな風を残すような側面もあれば、ダンス音楽のように大勢が集まって歌い踊るディスコ音楽的な側面もある気がします」。

元祖代表的なアーティストとされるのは、トト(TOTO)、マイケル・マクドナルド(Michael McDonald)、ケニー・ロギンス(Kenny Loggins)、ドゥービー・ブラザーズ(The Doobie Brothers)、スティーリー・ダン(Steely Dan)等。近年アメリカで特集番組が組まれるなど、再び80年代のヨットロックへの注目が高まっている。

「1970年代の頃、黒人のミュージシャンが、白人のホワイトゴスペルコーラスを取り入れたり、一方で白人のミュージシャンが、黒人の独特なジャジーのメロディやリズムの粘りなどを取り入れたりと、自由な音楽の交差があったんですよ。ディスコブームもあって、クルージングにあう音楽を誰もが目指したというのが、共通項を生んだんですね」

そんな背景から、アルバム名とアーティスト名を知らなくても耳にしたことのある人も多いと思う。ここで、この名曲の「そうだったんだ!」なエピソードを一つ。

ボビー・コールドウェル(Bobby Caldwell)による、ヨットロックの代表曲「What You Won’t Do for Love」。全米でヒットしたこの曲、実はそのヒット初速は “勘違い” によるもの。マイアミのラジオ局で流れた際に、声質や歌い方から最初は「黒人の音楽」だと思われ、主に黒人の間で大ヒットに。それもそのはず、同レコードはマイアミの黒人音楽に特化したTKレコードからリリースされており、さらにジャケットにもこんなひねりが。

「これ、あえて白人である自身の写真を使わなかったと思うんですよね。これを見たら、聴いたまま黒人の音楽だと思いますよね」

実際のジャケット。
実際のジャケット。

このヨットロックの大ブームも、自主制作盤の凝り具合に貢献し、それらが通好みになった背景となっている。70年代といえば、素人が音楽を自由に始めていく気運があがってきた頃。もともとは「ギターを抱えてフォーク音楽」がいわゆる安牌だった。が、白人のアーティストが黒人の音楽性や技術を取り入れた音楽に取り組む例としてこのレコードが多くの人の手に届き、一般人がそれらを真似してみた結果、人種の垣根を飛び越えた音楽性に溢れる自主制作盤も生まれていく時代だった、と。

「だからこそ、この頃の自主制作盤が本当に面白いんですね。エンジニアを入れていないので音のばらつきなどはあるけれども、熱量があって『やってやるぞ』という勢いを感じる」。

事前情報ナシでレコードを買ってはじめてわかるのが、自主制作盤の面白さ。ゆえに、聴いてみてイマイチだった場合にはほかの自主制作盤コレクターと交換、なんてこともあるそう。

200万円?自主制作盤全般の値段を底上げする「サイケデリックレコード」

自主制作盤のうち、最も天井ナシといわれているのが「サイケデリック」音楽のレコードだ。とにかく希少性が高いことから、数十万円などの値付けはザラで、ものによっては200万円を超えるものまであるんだとか。60年代にリアルタイムでサイケデリックを聴いていた若者がお金をもって買い揃えるようになった80〜90年代には高価格化して相場が決まり、そこから上がり続けている。

この「サイケデリックの自主制作盤が高い」ということも、「とりあえず自主制作盤は高くしておく」文化を後押ししている。コレクターやマニア向けに、自主制作盤には一応ある程度の値段を高めにするのが定石、というお店が多いとのこと。

ローカル流通モノもお高い1枚に

明確な目的によって高値のつくレコードとして例をあげてくれたのが、ニューオリーンズのパンクバンド、エディ・ボー(Eddie Bo)のレコードたち。グルーヴ感が非常に強く、いま、DJの間で熱い視線が注がれている。が、ニューオーリンズ内だけで流通したレコードであるため、値段がとんでもなく釣り上がっているという。

「だいたい1枚、30万〜50万円まであがっているみたいですねえ」

大手レコード販売チェーンDiskunion USAのウェブサイトにすら載っていないので、在庫がないどころではなく、もはや幻のレコードになりつつある。そもそも同アーティストにおいては「知られていないアルバム」もまだあるといわれており、ローカルのレコードショップを漁るしか、とりあえず掘り出す道はない。

そして言わずもがな、そのレコードにはその店のオーナーか店員の裁量100パーセントの値段がつけられている。値段次第ではその目利きの力量もわかりそう。

「僕自身、レコードは、調べてオンラインで買うことが多くなりました。でもやっぱり、誰も聴いていない音楽を自分で見つけた時の喜びは、レコード収集ならではの楽しみです。ま、それによってお財布には大打撃なんですけどね」

なにが「アメリカのレコードの価値」を決めているのか?また別の観点からも、引き続き大山さんに聞いていきたいと思う。

Words: HEAPS

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