ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ロンドン交響楽団、ニューヨーク・フィルハーモニック。よく耳にするオーケストラの名前には、様々なバリエーションがあります。そもそも、「フィルハーモニー」や「管弦楽団」とは、どのような由来があって、それぞれどのような意味合いを持つのでしょうか。音楽家、録音エンジニア、オーディオ評論家の生形三郎さんに解説していただきました。
オーケストラを日本語に訳したのが「管弦楽団」
そもそも「オーケストラ」とは、様々な種類の楽器、つまり弦楽器、管楽器、打楽器などを組み合わせた規模の大きな演奏形態を指します。そして、その演奏をする団体をオーケストラと呼びます。
語源は古代ギリシャ時代まで遡り、当時の円形劇場の舞台と客席の間に設けられた、歌や演奏、踊りを行なうための平土間状のスペースを意味する「オルケストラ(ορχηστρα)」に由来します。
そのオーケストラを日本語訳したのが「管弦楽団」で、雅楽用語である「管弦」を借用したものと考えられています。雅楽の「管弦」もまた、管楽器、弦楽器、打楽器による合奏形態を指すので、まさにオーケストラと同じですね。
なお「フィルハーモニー(英 philharmonic)」という言葉も、やはりギリシャ語を語源とした、「調和(harmony)」を「愛する(phil-)」という言葉に由来するようです。

交響楽団も管弦楽団も、オーケストラもフィルハーモニーも、基本的には同じ
クラシック音楽を演奏するオーケストラの名前は、例えばNHK交響楽団や日本フィルハーモニー交響楽団など、様々な名前がつけられています。これらは、 “名前によって演奏する楽曲やジャンルによって区別される” と思われるかも知れませんが、実は、ほとんど区分けがありません。交響楽団でも管弦楽団でも、オーケストラでもフィルハーモニーでも、演奏する曲に変わりはなく、やることは同じです。
ただ、例外的に、編成的な区分けが一部存在します。それは、「チャンバーオーケストラ」や「室内オーケストラ」、「ギターオーケストラ」などと言うように、限定的に編成や楽器を指定した前置きがつく場合です。
チャンバーオーケストラとは、「チャンバー(英 chamber)」、すなわち箱、室内で演奏される小規模な編成のオーケストラを演奏する団体のことです。この場合は、室内楽や小さなオーケストラによる楽曲の演奏を行うために結成されていますので、いわゆるフルオーケストラによる交響曲などは演奏できません。室内オーケストラも同様で、室内楽という編成の曲を演奏するための小規模な演奏団体を指します。

また、もうお分かりのように、ギターオーケストラも、ギターだけの大合奏にアレンジされた楽曲やその編成向けに作曲された楽曲だけを演奏しますので、こちらも限定的な楽曲向けの演奏団体ということになります。
例外的に、クラシック音楽は演奏しないけれども、様々な楽器編成によって大人数で演奏する、という意味合いのもと、ジャズのビッグバンドを「◎◎ジャズオーケストラ」と呼んだり、大所帯の演奏集団を、カジュアルに「△△オーケストラ」とか、「△△フィルハーモニー」(△△にはアーティスト個人名が入る)と命名される場合もあります。
Words:Saburo Ubukata