Creation Records(クリエイション・レコーズ)は、1983年にイギリスで設立されたインディーズレーベル。再結成の興奮が冷めやらぬオアシス(Oasis)をはじめ、プライマル・スクリーム(Primal Scream)、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(My Bloody Valentine)、ティーンエイジ・ファンクラブ(Teenage Fanclub)など、世界的なバンドを次々と輩出してロックシーンを塗り替えました。
今回はあまり語られることが少ないものを織り交ぜながら、〈お勧めしたいCreation Recordsのレコード〉をFace Recordsの薄田育宏さんがご紹介します。
パンクの衝動とサイケデリックの幻影
レーベル名を知らなくても、そこに所属していたバンドや音楽はロックファンならどこかで聞いたことがあるはず。
Creation Recordsがリリースした音楽は90年代のブリットポップ・ムーブメントをリードし、世界中のロックファンを熱狂させ、その後のロックシーンを変えたと言っても過言ではありません。
創設者であるスコットランド出身のアラン・マッギー(Alan McGee)は1983年にレーベルを立ち上げ、財政難により1992年にソニーと契約。その間の9年間は特にコアな活動を展開し、彼の鋭い嗅覚で多くの才能が見出されました。アラン・マッギーがたまたまスコットランドのグラスゴーでクラブに行き、そこに前座として出演していたオアシスを気に入って、その場で契約したという伝説は有名です。
Creation Recordsがリリースした作品の中でも、レーベルのコンセプトである「パンクとサイケデリックの融合」を象徴するようなレコードを選んでみました。
Biff Bang Pow!「Love’s Going Out Of Fashion」(1986年)
1983年、ザ・スミス(The Smiths)がイギリスのインディチャートを席巻する中、当時22才だったアラン・マッギー青年はCreation Recordsを設立させるのと同時に自身のバンド、ビフ・バン・パウ!(Biff Bang Pow!)をスタートしました。
レーベル名もバンド名も、1960年代後半に活躍していた伝説のUKビートバンド、ザ・クリエイション(The Creation)のグループ名であり彼らの代表曲でもある、「Biff Bang Pow!」に由来しています。
本作は1986年にリリースされた彼らの3rdシングルです。60年代風フォークロックを基調としたその甘美なギターサウンドは、その後のレーベルカラーを確立させていきます。
Primal Scream「Velocity Girl」(1986年)
Creation Recordsの名前が広く知られるきっかけとなったのが1986年に発表された本作、プライマル・スクリームの「Velocity Girl」です。
イギリスの代表的な音楽誌「NME」がロンドンパンク誕生から10周年を記念して「1986年に活躍が期待される有望アーティスト」を集めた伝説のコンピレーションアルバム『C86』をカセットでリリースしました。その1曲目を飾ったのがこの曲です。
レコードジャケットには前衛映画作家マヤ・デレン(Maya Deren)の代表作『午後の網目』(1943年)の画像を使い、歌詞はアンディ・ウォーホル(Andy Warhol)の映画に数多く出演した60年代のファッションアイコン、イーディ・セジウィック(Edie Sedgwick)をイメージしています。
Felt「Ballad Of The Band」(1986年)
1979年にデビューしたイギリスのポストパンク・バンド、フェルト(Felt)は、Creation Recordsから作品を発表する以前に4枚のオリジナルアルバムをロンドンの老舗インディレーベル、Cherry Red Recordsからリリースしています。
その繊細な音楽は新感覚なジャンルとして「ネオアコースティック・サウンド」という和製英語を冠し、日本でも話題を呼んでいました。それだけに、フェルトのCreation Records移籍第一弾となった本作には注目が集まりました。
後にプライマル・スクリームに加入するマーティン・ダフィー(Martin Duffy)のグルーヴィーなハモンドオルガンも心地良く、ベル&セバスチャン(Belle & Sebastian)のメンバーも彼らのファンだと公言しています。
My Bloody Valentine「You Made Me Realise」(1988年)
オアシスがデビューする前夜、Creation Recordsにとって大きな転機となったのは、何と言ってもマイ・ブラッディ・ヴァレンタインとの契約と、彼らが残した一連の作品でした。
当時アメリカでは、ソニック・ユース(Sonic Youth)やダイナソーJr.(Dinosaur Jr.)、そしてニルヴァーナ(Nirvana)へとつながるグランジブームが勢いを増しており、その流れと呼応するように、彼らもノイジーなギターとポップなメロディ、気だるいヴォーカルを掛け合わせたシューゲイザーサウンドで大きな支持を集めました。
それから5年後、レーベル設立10年目の節目に、ザ・スミスと同じマンチェスター出身のギャラガー兄弟率いるオアシスがインディチャートを席巻することになります。しかしちょうど同じ頃、その華々しい成功の裏側で、Creation Recordsは財政難へと追い込まれていったのでした。
Creation Recordsの残響
Creation Recordsは1992年以降、ソニーの支援を受けて活動を続けましたが、1999年に全資産をソニーへ売却し、その歴史に幕を下ろしました。しかし、レーベルが姿を消した後も、その存在感が薄れることはありません。2010年代には活動の軌跡を辿るドキュメンタリーや、創設者アラン・マッギーの波乱に満ちた人生を描いた映画が相次いで公開され、改めて注目を集めています。
彼らが世に送り出した音楽は今なお多くの人々に聴き継がれ、次の時代のロックにも確かな影響を与え続けています。その系譜を感じさせるバンドとしては、ザ・リバティーンズ(The Libertines)、ベル&セバスチャン、ザ・ストロークス(The Strokes)、ザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハート(The Pains of Being Pure at Heart)など、国内でも90年代からバンドを始めた渋谷系周辺のアーティストは大きな影響を受けたと思われます。
Face Records
”MUSIC GO ROUND 音楽は巡る” という指針を掲げ、国内外で集めた名盤レコードからコレクターが探しているレアアイテムまで、様々なジャンル/ラインナップをセレクトし、販売/買取展開している中古盤中心のアナログレコード専門店。 1994年に創業し、現在は東京都内に2店舗、札幌、名古屋、京都、福岡に各1店舗、ニューヨークに1店舗を展開。 廃棄レコードゼロを目指した買取サービスも行っている。
Words: Takayuki Ai