カバー曲とは、過去にリリースされたオリジナルの楽曲を、同じ歌詞、同じ曲の構成のまま別のアーティストが演奏、歌唱、編曲をして録音された楽曲のこと。歌い手や演奏が変わることでオリジナルとは違った解釈が生まれ、聴き手にその曲の新たな一面を届けてくれます。ここではジャンルや年代を超えて日々さまざまな音楽と向き合うオーディオ評論家の小原由夫さんに、曲の背景やミュージシャン間のリスペクトの様子など、カバー曲の魅力を解説していただきます。

ジョニ・ミッチェルの「A Case of You」

奇病のひとつといわれるモルジェロンズ病を患った後、2015年3月に脳動脈瘤破裂の手術を経てから懸命なリハビリテーションによって見事復活した、カナダ出身で北米フォーク/ポップス界のレジェンド・シンガーソングライター、さらには画家や写真家としても一流の才女、ジョニ・ミッチェル(Joni Mitchell)。2022年のNewport Folk Festival(ニューポート・フォーク・フェスティバル)にサプライズ出演し、20年ぶりにステージに立って演奏したことも記憶に新しい。御歳82歳にして、未だ創作活動を続けている。

彼女の代表作はいろいろあるが、やはり4枚目のリーダーアルバム『BLUE』収録の「A Case of You」が個人的には大好きだ。歌詞の内容には諸説あり、当時の恋人グラハム・ナッシュ(Graham Nash)との破局とか、レナード・コーエン(Leonard Cohen)との関係を綴ったとも言われている。

アルバムのリリースは1971年6月で、A&Mスタジオにて収録。同年10月にシングル「California」のB面としてもリリースされた。ここでジョニはアパラチアン・ダルシマーを弾き、ジェームス・テイラー(James Taylor)がアコースティックギターを担当している。

写真は米国オリジナル(Reprise Records)のタン色レーベル盤
Reprise Recordsから発表された米国オリジナル盤のジャケット(小原さんが所有しているものを撮影)。本作には1970年代頃の米国オリジナル盤に多く見られる、茶色(タン色)一色で印刷された「タン色レーベル盤」が採用されており、コレクターズアイテムとしても重要視されている

Lチャンネルからのアルペジオで弾かれるアコースティックギターの優しい調べと、Rチャンネルのダルシマーの繊細な響きが素晴らしい。ジョニの歌は克明にセンターに定位し、サビのヴィブラートが生々しい。楽曲が持つ澄んだ透明な空気感も相まって、なぜか冬に無性に聴きたくなる演奏である。

k.d.ラングの「A Case of You」

カバー演奏として今回採り上げたのは、ジョニと同じくカナダ出身の女性シンガー、k.d.ラングの1994年作『Hymns of The 49th Parallel』。カナダを代表するシンガー達に捧げたカバー集で、ジョニの他にレナード・コーエン、ニール・ヤング(Neil Young)、ロン・セクスミス(Ron Sexsmith)等の曲を演奏している。

k.d.ラングの「A Case of You」

180g重量盤LPでリリースされたのが2016年で、ボブ・ラドウィック(Bob Ludwig)がマスタリングを行なった。「A Case of You」の伴奏はピアノとベースのみで、ゆっくりとしたテンポの中で歌詞を慈しむように歌うラングの歌唱力の確かさと安定感、表現力が聴きどころのひとつ。まさに心に沁みるカバー集といってよい、アルバムコンセプト、演奏、選曲、いずれも最高の一枚である。

Words:Yoshio Obara

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