カバー曲とは、過去にリリースされたオリジナルの楽曲を、同じ歌詞、同じ曲の構成のまま別のアーティストが演奏、歌唱、編曲をして録音された楽曲のこと。歌い手や演奏が変わることでオリジナルとは違った解釈が生まれ、聴き手にその曲の新たな一面を届けてくれます。ここではジャンルや年代を超えて日々さまざまな音楽と向き合うオーディオ評論家の小原由夫さんに、曲の背景やミュージシャン間のリスペクトの様子など、カバー曲の魅力を解説していただきます。

ジョン・コルトレーンの「至上の愛」

2026年はジョン・コルトレーンの生誕100年という大きな節目に当たり、しかも来年は没後60周年となる。おそらく今ジャズ界隈では、コルトレーンに纏わる様々なアニバーサリー作業が行なわれているものと察するが、今回は彼の代表作「A Love Supreme」(以下、邦題の「至上の愛」と表記)のカバー演奏を採り上げたい。

ジョン・コルトレーンの「至上の愛」

「至上の愛」は、コルトレーンがフリージャズに大きく舵を切ったきっかけの作品といわれている。全体は4つの楽章から成り、パート1〈承認〉、パート2〈決意〉、パート3〈追求〉、パート4〈賛美〉という構成である。メンバーは、ピアノ/マッコイ・タイナー(McCoy Tyner)、ベース/ジミー・ギャリソン(Jimmy Garrison)、ドラムス/エルヴィン・ジョーンズ(Elvin Jones)というカルテット編成。オリジナル・リリースは Impulse Records。

収録は1964年12月9日、米ニュージャージー州イングルウッド・クリフスの Rudy Van Gelder Studioにて、たった一晩のセッションにてパート1からパート4まで順番通りに録音された。原則として多重録音は行なわれず一発録りだったが、パート4のエンディングにサックスのフレーズがオーバーダビングされている(ステレオ版では左チャンネルがオリジナルのサックス、重ねられたのは右チャンネル)。また、パート1の冒頭の詠唱は、コルトレーン自身がマウスピースから口を外し、マイクに向かって唱えたという。

本盤は内容/曲調がやや難解なだけに、万人にお薦めできるジャズアルバムとは言い難い。しかし、それでも名盤に数えるに相応しいのは、4人のメンバーが演奏を通じてまさしく一丸となって神の領域へと突き進む、その求道的姿勢と精神性(スピリチュアリティ)、エネルギーに圧倒されるからである。

マーク・ジョンソンの「至上の愛」

「至上の愛」のカバー演奏は、4つの楽章全曲というものは少ないものの、ひとつの章を単独で演奏しているものは枚挙に暇がない。そんな中から今回採り上げたのは、パート2〈決意〉(原題「Resolution」)を演奏しているベーシスト、マーク・ジョンソン(Marc Johnson)の1986年発表のアルバム『Bass Desires』である。

マーク・ジョンソンの「至上の愛」

録音は1985年5月、米ニューヨークの The Power Station(現 Avatar Studios)。メンバー編成はジョンソンの他、ジョン・スコフィールド(John Scofield)とビル・フリーゼル(Bill Frisell)のツインエレキギターに、ピーター・アースキン(Peter Erskine)のドラムスというカルテットである。

スコフィールドのディストーション・ギターとフリーゼルの浮遊感のあるギターシンセがメロディーをぶつけ合い、オリジナルのテーマとスピリットを見事昇華させているのが素晴らしい。アースキンのポリリズミックなドラムも白眉だが、曲の前後に配されたジョンソンのインプロビゼーションによるアグレッシブなベースソロも大きな聴きどころ。入手が難しい盤かもしれないが(特にレコードは)、「至上の愛」がお好きならば是非リサーチしてほしい。

カバーがつなぐ、名曲の旅 その他の記事

Words:Yoshio Obara

SNS SHARE