「全部観なくてもいい」「無理しなくていい」……フェスに何度も通ううちに、そんな境地にたどり着く人もいる。
お笑いコンビ・エレキコミックのやついいちろうは、芸人として、そしてDJとして長年活動を続ける一方、音楽・お笑い・ミュージシャン・文化人が交差する都市型周遊フェス「やついフェス(YATSUI FESTIVAL!)」を主催してきた。フジロックやサマーソニックといった4大フェスから各地の地方フェスまで、参加者として、演者として、数多くの現場に立ち続けてきた人物だ。
そんな彼に聞いたのは、失敗や偶然の出会いから学んだ “やつい流フェスの楽しみ方” 。持ち物、テント泊、他の参加者との交流、そして主催者として考える理想のフェス像まで。人との出会いを糧にしながら自分らしく楽しむための視点をひもとき、2026年のフェスをもっと楽しむためのヒントをお届けする。
気づけば20年以上。やついいちろうのフェス遍歴
いわゆる4大フェスのフジロック(FUJI ROCK FESTIVAL)、サマソニ(SUMMER SONIC)、ロッキン(ROCK IN JAPAN FESTIVAL)、そしてライジング(RISING SUN ROCK FESTIVAL)は全て参戦したことがあるとのことですが、今も毎年行かれてるんですか?
今も毎年行っているのはライジングだけです。ロッキンは、コロナ禍前の2019年まではずっと出てたのでそれで行ってたんですけど、出なくなってからは行ってないですね。サマソニは去年は行かなかったけど、ブラー(Blur)が出たときは大阪まで行ってきました。フジロックも去年は行かなかったけど、一昨年は行きました。自分のスケジュールと誰が出るかで、行ったり行かなかったりですね。
4大フェス以外はどうでしょうか?
いろいろと行ったことはあるんですけど、今はDJの仕事で行くことがほとんど……というか全部です。
唐津ドロップフェス(KARATSU Drop FESTIVAL)っていう宮崎ではじまって去年は佐賀で開催されたフェスとか、あとは北海道のフェスにはいっぱい呼ばれていて、新得町のガンケフェス(GANKE FES)には10年くらい出てます。それと千歳市でやってる野外フェスのソラオン(SORAON)にはずっと出てましたね。
北海道に縁があるんですか?
北海道にまったく縁はないんですけど(笑)、呼ばれて出てるうちに、いっぱい呼ばれるようになった感じですかね。ソラオンと同じ主催者の農道音楽祭(nouon)っていうフェスにも出ました。あと、島フェス(shima fes SETOUCHI)っていう、香川県の直島でやってるフェスがあるんですけど、これも毎年出てます。
本格的にDJとしての活動を開始されたのがだいたい20年前だと思いますが、DJを始める前はどうでしたか?
その頃は、今ほどフェスがなかったんですよね。たしかフジロックができた後にライジングができて、それからロッキンができたのかな? ライジングには最初、プライベートで行きました。20歳後半くらいだったかな。見たいライブがあったし、北海道にも行きたかったから。
野外フェスでは登山グッズが役にたつ
フェスの持ち物で、こだわっているアイテムはありますか?
僕は登山が好きなので、自然の中でやるフェスは登山だと思って行けば間違いないと思ってます。だから持ち物はとにかく軽いもの、洋服はレイヤーでいっぱい持っていくようにしてます。
ウィンドブレーカーはPatagoniaのやつなんですけど、薄いし小さくなるので、それ1枚を羽織るだけでほとんどの夏フェスは問題ないです。あとはメリノウールのインナーですかね。登山用のやつは2泊3日でも匂いもしないし、汗も大丈夫だし。それと、帽子とタオルとサングラスかな。
逆に都市型や屋内のフェスは、水分補給以外は何も要らないですよね。サマソニとか、中にいる分には快適ですから。外にいるときはちょっとしんどいけど。
防寒着は必ず持って行ってますけど、ライジングに関してはここ2年くらいは要らなかったなぁって僕は思いました。20年くらい前は防寒着がないと絶対に無理だったんですけどね。昼間はTシャツと短パンで大丈夫でも、夕方になると冷えてくるから。
今だと事前にスマホで気軽に調べることもできますが、20年くらい前だと、参加してみないとそういった事情もわかりづらかったんじゃないですか?
そうでしたね。行ってみて、周りを見て「ああいうの便利だな」とか「夜は寒いな」とか気づくことが多かったです。今は規制が入ったのでおすすめはしづらいですけど、フジロックなら椅子はあったほうが絶対に便利だなって思ったり。
足元はどうですか?
僕は本当は草履が好きなんですけど、Keenのサンダルを履いてます。いつでも脱げて、汚れてもいい靴で行くのが夏フェスは一番いいんじゃないかな。
ライジングやフジロックみたいなフェスは雨で地面がぐちゃぐちゃになって、場所によっては沼みたいになるから、長靴は持って行けば良かったなって思ったときはありました。「長靴じゃなくて、ビーサンでいいだろ!」ってノリで行くと、ビーサンが壊れちゃいますから。
自然の中で開催されるフェスの場合、雨対策は大事ですよね。
特にフジロックは開催中どこかで絶対に雨が降るから、レインコートは必要ですね。ずーっと降っている年もありますから。いつだったか、ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)が出演したときは土砂降りで、出てきた瞬間に雷がドーンと落ちてきて、演出みたいですごくかっこよかったです。
あとは、テントに泊まるならライトかな。夜になると真っ暗になる場所もあるので。僕は頭につけるライトを持ってます。灯りがないとテントまで帰ってこれないですからね。
楽しむ秘訣は、“コミュニケーション”
テント泊でこだわっているアイテムはありますか?
僕は恵まれてると思うんですけど、フジロックやライジングだと友達のテントが空いてたらそこで寝るんで、自分では持って行ったことはないんです。
親しいご友人だからこそできることですね。寝袋も借りるんですか?
全て借ります(笑)。自家用車で行くから、ダメなら車で寝ればいいやと思って行くんです。もちろんキャンプサイトの入場券は買う必要はありますけど、それがあればサイトに入って泊まっても大丈夫なので、友達も「寝てけば?」みたいな。フジロックに行っているうちにそういう、いわゆる ”ガチ勢” の友達ができました。だから野外フェスを楽しむコツは、ガチ勢と仲良くなることですかね。
なにか友達になるきっかけがあったんですか?
最初は誰も知り合いがいないから、話しかけました。
知らない方に声をかけるのは少し勇気もいりますよね。ガチ勢を見分けるポイントはありますか?
ないです。とにかく話しかけることですね、数です(笑)。都市型のフェスだと難しいかもしれないけど、アウトドア系のフェスはそういう人に出会えるチャンスがあるので、やっぱり大事なのはコミュニケーションじゃないですかね。
最初からひとりでなんでもやろうとすると上手くいかないんで、人に話しかけて助けてもらったり、教えてもらうのが一番だと思います。たとえばフジロックって、苗場まで車の相乗りできる人を自分で探して行く人もいるじゃないですか。僕もそこまで深い仲じゃない知り合いを乗せて行ったこともありますし。
安全面や距離感は大事にしつつ、楽しむためのコミュニケーションということですね。
ライジングだと、ほとんどのステージは見ないで2日間ただひたすらキャンプサイトでずーっとご飯を作ってる人とかいますよ。海外のフェスっぽい雰囲気というか、それぞれが思い思いに楽しんで過ごしている感じがあって、面白いんですよね。
ほかには、インパクトのある出会いはありましたか?
歩いてたら急に「餃子食べたいですか?」って聞かれて、「はい」って答えたら餃子をくれた人がいました。それはよくわからなかったから、怖かったけど(笑)。「餃子とカレーを配る活動をしてて……」って言ってみんなに配ってましたね。
しかも、自分で作ったやつじゃないんです。有名なお店が屋台で出てて、その美味しさをみんなに伝えるために自腹で買って配ってるんですよ。自分で出前のオカモチみたいなのを持ってきて。
見知らぬ方から食べ物を受け取るのは少し怖さもありますよね。そのときは、食べたんですか?
食べましたよ。美味しかったです。
どれを見るかより、どう過ごすか
日本各地でフェスが開催されている昨今ですが、特に気候が良い時期は行きたいフェスやイベントが被って悩む人もいるのではと思います。やついさんはそのようなシチュエーションになった場合、どうやって行き先を決めますか?
やっぱり、見たいアーティストで決めるんじゃないですかね? ビッグフェスではなかなか被らないと思うけど。
自分が出演するっていう意味でお答えするなら、偶然同じ日程のオファーが同時に2つきたら、シチュエーションや行きたい場所で選びますね。もちろん両方に出演する方法はまず模索しますけど、どれだけ縁があるかとか、そういう状況も含めて全て同じオファーだった場合はシチュエーションで選びます。
シチュエーションですか?
たとえば島フェスは大きいフェスではないんですけど、毎年1回直島に行って、島の人たちとゆったり盛り上がるっていうのは面白いなって。そういう経験があるほうを選んでます。
北海道のガンケフェスでいうと、「ガンケ」はアイヌ語で「崖」っていう意味があって、そこにはアイヌの神様がいる崖と湖があるんです。十勝の内陸エリアでカヌーに乗れて、サウナや温泉もあって、のんびりしてていいんですよね。一回行くと、また行きたいなって思えるんです。だから楽さよりも、そういうシチュエーションとか、そこにしかない何かがある行き先を僕は選んじゃうかも。地方フェスならではの良さですよね。フェスがあるから行ってみたらいい街だったり、ご飯が美味しかったりで、また行きたいなって思う人が多いんじゃないかなって思います。
フェスに行くのにアーティストで選ぶのは基本というか、みんなそれでしか選ばないとは思うんですけど、もしもそれが全く一緒だったら、シチュエーションで選んでみたらいいんじゃないですかね。
どっちに行こうか悩むシーンはフェスのタイムテーブル上でも起こると思いますが、そういう場合はどうしますか?
僕は「もう見れないかもしれない」とか「年齢的な大御所」とかそういう基準で選んでます。あとは友達を観たり。でも、かれこれ20年以上フェスに行ってますし、もう51歳ですから、そんなに全部観たいって思わなくなってきちゃいましたね。下手したらもう「観ない」っていう選択に進んでて、フジロックだったら外のサーカスとか観てます(笑)。
フジロックに来ているガチ勢の人たちも、もはや全然ステージは観ないんですよ。みんな「フジロック」を楽しんでいるんですよね。だから、誰が出ようが行くんですよ。
歩いて回れるやついフェスに込めた、”参加者目線”
やついフェス主催にあたり、これまでのフェスでの経験から取り入れたことはありますか?
以前どこかのイベントに呼ばれたときにネタをやったんですけど、その間、次に演奏するバンドがずっとリハをやってて音が邪魔だったんですよね。お客さんも、音でネタが聞こえないから笑えないし。これは良くないなと思ったので、やついフェスではお笑い芸人がネタをやっている間は、バンドのリハはさせないように徹底しています。
それと、都市型周遊フェスは各地でやっているのでいくつか参加してみたんですけど、ライブハウスとライブハウスの距離が遠すぎるのは嫌だなって思ったんです。
広い自然の中でやる野外フェスとは違って、都市型周遊フェスはライブハウスの中で演奏するから、ひとつのステージに入れる人数がどうしても限られるんですよね。だいたい100〜300人くらいのキャパが多いですが、そうすると、みんなが観たいアーティストの場合は入場規制がかかって入れないこともあります。そうなった場合の徒労感って、尋常じゃないんですよね。
たしかに。そこから切り替えて違うステージに行こうとして、遠いと余計に疲れますよね。
だからやついフェスは15年前の第1回から、全部のライブハウスが歩いて5分以内の場所にあるように作っています。渋谷にはライブハウスがいっぱいあるので、「エリアを広げてここもどうですか?」っていう提案もあったんですが全部断って、歩いて回れる、入れなくてもすぐにリカバーできる距離にあるライブハウスだけでやってます。
今年初めてやついフェスに参加する人へのアドバイスがあれば教えてください。
渋谷の真ん中でやってますから、疲れたら一回帰って休んでください。
帰っていいんですか?(笑)
周遊型フェスなので、会場内に休める椅子や休憩スペースがないんです。だから疲れたら無理せず、帰っていいと思います。で、また来たらいい。
帰らないとしても、カフェとか飯屋とか、漫画喫茶とかいろいろあるから、そういう場所で各自休んでもらえたら嬉しいですね。お店にも協力してもらっているので、やついフェスのリストバンドを見せると受けられる割引きもありますから、そうしたサービスを使いながら楽しんでもらえればと。もしくはVIPチケットを買えば、椅子席を確保できます。
2026年はやついフェス開催15周年となりますが、今後のビジョンがあれば教えてください。
たとえばフジロックでいうと川の中で遊ぶとか、音楽以外での「体験として面白い」ところを渋谷という場所でどう展開していくかを模索しています。ヒューマンビートボックスをやってた時期があったり、一昨年くらいから怪談を入れたり。その時々で興味がある、いろんなジャンルのものを取り入れるようにしています。それを楽しみにして、何も発表していなくてもチケットを買って来てくれる人がもっと増えてくれると嬉しいですよね。
ブッキングは進めていますが、豪華な顔ぶれになりそうなので、ぜひ楽しみにしていてください。
やついいちろう
1997年にお笑いコンビ・エレキコミックを結成し、作・演出・ボケ担当。 DJやついいちろうとして音楽業界にも精通。自身の名前を冠したエンターテインメントフェスティバル「YATSUI FESTIVAL!」を主催し、2016年には出演者285組、観客1万人を動員するなど、やついブランドを確立。 味のある俳優を目指し、ドラマを中心に本格的に始動。
YATSUI FESTIVAL! 2026
開催日時:2026年6月20日(土)・21日(日)
会場:Spotify O-EAST/Spotify O-WEST/Spotify O-nest(5F)/Spotify O-nest(6F)/Spotify O-Crest/duo MUSIC EXCHANGE/clubasia/LOFT9 Shibuya/WOMBLIVE/shibuya 7thFLOOR
Photos:Soichi Ishida
Words & Edit:May Mochizuki