2020年にシアトルの名門インディレーベルSUB POP(サブ・ポップ)と契約し、 その後Ric Wilson(リック・ウィルソン)やMndsgn(マインド・デザイン)、 Superorganism(スーパーオーガニズム)など同時代のアーティストたちとのコラボレーションを繰り広げてきたCHAI。 ワールドワイドな活動が加速していたなかで行われた2022年の北南米ツアーは、 予想以上の熱狂で迎えられたという。 日本人らしい表現を日本人離れした方法で伝え、 ブレイクスルーしていく彼女たちに、 バンドの現在地と初の主催フェスティバル「NEO KAWAII FESTIVAL」について聞いた。

(取材日の前日にカナさんの結婚報告がされたことを受けて)
まずは、 カナさんご結婚おめでとうございます!

カナ:ありがとう!やっと報告ができて嬉しいです。 2年前の私の誕生日に彼がプロポーズをしてくれたんだけど、 当時はまだパンデミックが始まったばかりで、 このタイミングでハッピーな報告をするのは私たちらしくないなと思って。 ようやく世の中が開放的な雰囲気になって、 こういう知らせをみんなが素直に受け入れてくれる状況になってきたんじゃないかということで、 今年の誕生日のタイミングで公表したんです。
今は必ずしも結婚というかたちをとらなくてもパートナーと一緒に生きていくことはできるけど、 私は彼の苗字が好きで「彼と同じ苗字になりたい」という気持ちがあったので、 いわゆる結婚というかたちをとったという感じかな。

なるほど。 とてもカナさんらしい理由ですね。 CHAIは昨年初めての北南米ツアーを行って、 年明けからはジャパンツアーを回り、 そして4月27日にはフェスティバル「NEO KAWAII FESTIVAL 2023」を初開催します。 まずは、 北南米ツアーを振り返っていただきたいのですが。

ユナ:とにかくすごく嬉しかった、 というのが素直な感想ですね。 というのも、 それまではずっと日本で無観客配信ライブだったりお客さんにマスクをしてもらって声出しを控えてもらったりと色々な制限があるなかでライブをしていたから、 そういうものがほとんどない状態でライブができたことにとても感動した。
ライブのあり方がパンデミックによってこんなにも変わってしまうなんてことは全く予想していなかったから、 当たり前は当たり前じゃないんだと考えさせられるきっかけになったかな。 だから、 パンデミックを経てファンのみんなに会いに行けたことは本当に感慨深かったですね。

カナ:ライブで歓声が聞けるっていうのが一番嬉しくて。 歓声があるからお客さんとステージ上の私たちとの間にコミュニケーションが生まれる、 エネルギーの交換が行われるってことを改めて実感したツアーだったなと思いますね。

北南米ツアーを振り返るCHAIの二人

現地のファンたちの反応はどうでしたか?

カナ:初めてホテルの前までファンが来たの!出待ちみたいな感じで。 CHAIの旗を持って歌を歌いながら迎えてくれて。 地球の反対側でこんな体験ができるなんて……本当に嬉しかった。 スター体験を先取りしている気分でした(笑)。 なかでも特にチリのファンは熱狂的で。

ユナ:チリとかブラジルでは国旗に「NEO KAWAII」って書いてあったり、 ほかの町でも私たちへのメッセージを国旗に書いて振ってくれることが多くて。 私たちの音楽が北南米の人たちにどれだけ届いているのか、 行くまではすごく不安だったんですけど、 あの光景には感動しちゃいましたね。 技術的なことやパフォーマンスも、 自分たちがやってきたことが正しかったんだって思えました。

ツアー中に現地のアーティストとの交流することもあったんでしょうか。

カナ:うん、 たくさんのアーティストと出会ったけど、 特に印象深かったのは私たちが大好きなCSS(シー・エス・エス)のLovefoxx(ラヴフォックス)とたくさん話せたのが本当に楽しくて。 彼女は今ブラジルに住んでいて、 私たちに会いに都会まで出てきてくれたの。 超緊張したよね。

ユナ:緊張した…(笑)。 私たちにとって彼女からの影響は本当に大きいから。

Lovefoxxとどんな会話をしたんですか?

カナ:恋バナとか日本とブラジルの食の話とか、 いろいろ話したかな。 あとは一緒に音楽を作りたいねって話も。 彼女はSUB POPの人を経由してCHAIの音楽を知ってくれていたみたいで「あなたたちの音楽は本当にすばらしい!」って、 出会いに泣いて喜んでくれたんですよ。

確かに、 CSSとCHAIにはSUB POPという共通項がありましたね。 Lovefoxxとの共作、実現してほしいです。 ちなみに、 LovefoxxがCHAIに注目したように、おふたりが最近注目しているアーティストはいますか?

ユナ:The Pocket Queen(ザ・ポケット・クィーン)というニューオリンズ出身のドラマーなんですけど、 セルフプロデュースで自分でベースもギターもキーボードも歌もこなしちゃうタイプの人で。 プレイリストに彼女の曲が入っていて知ってからハマっていたんですけど、 この前Harry Styles(ハリー・スタイルズ)のライブに行ったらドラムのサポートメンバーが彼女だったんです!驚いてインスタにポストしたらThe Pocket Queen本人が反応を返してくれて(笑)。 いつかちゃんと会って挨拶したいですね。 ドスンと腰の据わったドラミングもかっこいいし、 歌も本当に素敵で。

CHAI カナとユナ

なるほど。 「NEO KAWAII FESTIVAL 2023」に出演するPhum Viphurit(プム・ヴィプリット)もしかりですが、 CHAIのみなさんは音楽に対するアンテナの張り方がとても鋭いなと思います。 音楽性も活動の仕方もすごくグローバルで感度が高く、それでいてCHAIらしさもブレない。 今、 日本のライブハウスシーンで活動しているバンドマンにとって、 CHAIのそういったスタイルは良きモデルになっているんじゃないかと思います。 自分に合ったスタイルを獲得するための秘訣って何でしょうか?

カナ:スタート地点の話をすると、 好きなアーティストから受けた影響を自分たちなりにミックスしたかっただけというか。 Basement JAXX(ベースメント・ジャックス)とCSSとGorillaz(ゴリラズ)を足して3で割ったようなものを作ろうとして、 それが私たちの個性が一番出せる音楽になると思っていたんだよね。 Basement JAXXの音楽をバンドサウンドでやってみたらどうなるんだろう、 っていうアイデアから出発してるところがあって、 まずはそういう「絶対にこれが自分の武器だ」というものを見つけることじゃないかなと思いますね。 その武器がどんなふうに活かされるかっていう見通しは関係なくて、 とにかくそれを追求して磨いていくことが大事な気がする。

ユナ:少しでも興味のあることを勇気を出して開拓していたら、 自分にフィットするものができてくるんじゃないかな。

今はレーベルやレコード会社に所属しなくてもアーティスト自身が作品や告知を発信できる時代ですが、 逆にアウトプットの選択肢がありすぎて迷ってしまうところもあると思います。 アウトプットのコツってありますか?

ユナ:ツールは身近なSNSを使い分ければいいと思うんだけど、 とにかく発信をし続けることじゃないかな。 やり続けていると誰かに目に留まるんじゃないかと思います。 私たちの場合だったら、 ひたすらGorillazが大好き大好き、 ってSNSの動画とかで発信し続けていたら本人たちに届いてGorillazの曲にフィーチャリングで参加できたりとか。 好きなことをぶらさずに継続することって勇気も必要なことだけど、 一番大事なのかな。

カナ:あとはとにかく言葉にしちゃうこと。 CHAIも結成当初から「職業はミュージシャンです」って言ってました(笑)。 誰に対しても、 バイトしててもそう言ってました。 今はライブハウスに出る前からバズっちゃうようなことも平気であるしね。 私たちも最初に話題に火がつくきっかけになったのはYouTubeだったよね。

発信し続けることが大事と語るCHAIの二人

ユナ:そうだね。 バンドの発掘のされ方もコロナ禍を挟んで変化が加速したと思う。 それまでは、 ライブハウスにたくさん出て影響力のある人に見つけてもらうって方法がまだ残っていたけど、 今はTikTokでバズった曲をきっかけに道が拓けていくみたいなことのほうが多いんじゃないかな。 面白い時代だなって思いますね。

カナ:最近知り合ったGinger Root(ジンジャー・ルート)も、 ほとんどライブしたことがないままバズって、 今年の「フジロック」にも出るっていう。 そういう人が周りにも増えてきた気がします。

CHAIがずっと発信し続けていることといえば「NEOかわいい」というテーマなわけですが、 ツアー中にはなにかNEOかわいい的な発見ってありましたか?

カナ:フェスで共演したことでArca(アルカ)のライブを初めて見たんですが、 Arcaのパフォーマンスと同じくらいフロアにいるお客さんたちを見てるのがめちゃくちゃ楽しくて。 Arca自身がすごくジェンダーニュートラルなアイコンだから、 お客さんもそういう感じで。 その場で知り合って腰振りまくって踊り狂って最後はハグして、 みたいな。 あまりに自由すぎてこれはNEOかわいいだ!って思いました。

ユナ:海外ツアーに行くたびに思うのは、 お客さんが自分の好きなように音楽を楽しんで、 自分らしい表現方法を持ってありのままに生きている人がたくさんいるってことかな。 女性なら奥ゆかしくとか、 男は泣いちゃダメとか、 そういう意識を越えて、 体型を気にせずキャミソール着てもいいし、 冬だろうと半袖を着たっていい。 それが楽しいならそれを優先していいって本当に素敵なことだなって思うから、 これぞNEOかわいいじゃない?って。

「NEO KAWAII FESTIVAL」のコンセプトにもそうやって自由に楽しんでほしいというメッセージが込められているんですね。

ユナ:CHAIのお客さんはそういう点ではかなり自由度が上がってきていて、 「ジャジャーンTOUR」のファイナルだった恵比寿ザ・ガーデンホールのライブで、 私のMCにハーモニカで返事をしてくるお客さんがいたんですよ。 すごい素敵なメロディが聞こえてくるなーと思ったら客席からで(笑)。 なんてすばらしいんだろうと思って。 もっとそういう人が増えてほしいですね。
今回初めて自分たちのフェスをやるわけですけど、 フェスがすばらしいのは言葉も性別も年齢も人種も関係ないんだっていうバイブスを感じられることだと個人的には思っていて。 フェスで演奏するとそういう空間が自分たちの音楽によって作られていることに感動するんです。 だから自分たちのフェスもそうしたいし、 みんながNEOかわいいでいられる空間、 窮屈な状態から解放されて弾けられる空間にしたいんですよね。

カナ:私たちはずっとフジロックに出たいって気持ちを持っていたし、 フェスでしか味わえない音楽の魔法が存在している空間が大好きで。 いつか主催者になって、 好きなミュージシャンを呼んで私たちにしかできないフェスをやりたいなって気持ちは持ち続けていたんです。 音が鳴ってるその空間全部を楽しいものにしたいなって。

先ほどのArcaのお客さんがそうだったように、 CHAIのお客さんもCHAIのメッセージやスタイルに共感して集まっている人が多いと思います。

カナ:そうですね、 最近男性のファンが増えてきたって実感があって、 きっと彼らは私たちの音楽的な部分を入り口にして好きになってくれた人が多数派な気がしているんですけど、 そういう人たちにも私たちのメッセージが段々と伝わっていくといいなって思っています。 CHAIのライブやフェスは自由な気持ちで自由なファッションで行っていいんだ、 ここでは偏見を持たれたり差別されたりすることはないんだ、 ってことがもっと伝わってほしいんですよね。 まだまだ、 私たちのことを上辺だけで「ああ、 あのピンクの女の子たちね」って思っている人たちに、 音楽でフックをかけていきたいんです。 だから次のアルバムはすごくポップなものにしたしね。

ユナ:そうだね。 まだまだもっと売れたいよね(笑)。 たくさんの人に響いてほしいです。

CHAI presents
NEO KAWAII FESTIVAL 2023

2023年4月27日(木)
開場 / 開演:17:30 / 18:30
会場:Zepp Shinjuku
出演アーティスト:Phum Viphurit(タイ)、 STUTS(日本)

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CHAI

CHAI ミラクル双子のマナ・カナ

ミラクル双子のマナ・カナに、 ユウキとユナの男前な最強のリズム隊で編成された4人組、 「NEO – ニュー・エキサイト・オンナバンド」。

2017年1stアルバム「PINK」が各チャートを席捲、 音楽業界を超え様々な著名人からも絶賛を受ける。 2018年にはアメリカ、 イギリスでもデビューを果たし、 4度のアメリカツアーと2度のイギリスツアー、 アジアツアーを開催し、 2019年に2ndアルバム「PUNK」をリリース。 アメリカ、 ヨーロッパ、 日本をまわる初のワールドツアーを大成功に収めた。 2020年にNIRVANA(ニルヴァーナ)らを輩出したアメリカの人気インディ・レーベルSUB POPと契約。 2021年に3rdアルバム「WINK」をリリース。 2022年2~3月には5度目となる北米ツアーを完遂し、 6月にはオーストラリアフェス3公演に出演。 9~11月には年内2度目の北米ツアーに加えて初の中南米に上陸し大型フェスに出演。 日本を代表するバンドとして、 世界各国のメディアから賞賛されている。

Photos:Goku Noguchi
Interview:Aiko Iijima (sou)
Words:Kunihiro Miki
撮影協力:kitchen GCH