オーディオケーブルの雑学を炭山アキラ氏が紹介する『ディープすぎるオーディオケーブルの世界』。今回は導体や撚り線といった主役を覆うように存在する「介在(かいざい)」や「外被覆(シース)」、「編組(へんそ)」を取り上げます。いずれも直接信号が通るわけではないものの、音に影響を与える重要な部分です。知れば知るほど楽しくなる、ディープなオーディオケーブルの世界をご堪能ください。

「介在」の素材で音をチューニングするケーブルもある

CDプレーヤーとアンプなどを接続する「RCAケーブル」や「XLRケーブル」のような、いわゆるインターコネクトケーブルでも、アンプとスピーカーを接続するスピーカーケーブルでも、電源ケーブルでも、ケーブルは円形の断面を持ったものが多いですよね。中に導体と絶縁体で構成される芯線が、多くの場合クルクルとねじられて封入されているのですが、そのままでは渦巻き型の外観になってしまいます。それを丸い筒状の外観へ整えるために挿入されるのが「介在」と呼ばれるものです。

「介在」の素材で音をチューニングするケーブルもある

介在には、電力線のVCTなどは、後述する「外被覆(シース)」と同素材のPVCがギッシリと詰まっています。中にはシースと微妙に物性を変えたPVCや、さまざまな材質の軟質樹脂などを用いているものもあります。

一方、オーディオ用の中〜高級ケーブルでは、介在に繊維質を用いているものが多く、それで音質をチューニングしています。綿、絹、化学繊維など、メーカーによって、また製品によって封入されている繊維の素材が違い、ということはつまり、これらによって想像以上に大きく音質をコントロールすることができるのだな、ということが分かります。オーディオテクニカでは、FLUATシリーズに綿糸の介在を使っています。

FLUATの構造

インターコネクトではほとんど、スピーカーケーブルや電源ケーブルでもかなりのパーセンテージで、「シールド」という機構が採用されています。シールド=遮蔽という名から分かる通り、ピュアであるべきケーブル内の音楽信号へ、外部から有害なノイズが入り込まないように考えられたものです。

シールドとは具体的にどうしているかというと、信号線の外側にケーブル全体を覆う金属を配し、有害なノイズをそこへ流してアースへ落としてしまおう、という考え方です。

「編組」の素材や構造に、音への考え方が現れる

シールドには、多く「編組(へんそ)」と呼ばれる筒状に編み込まれた銅線が用いられます。それをマイナスの導体として用い、中央に導体を1本だけ配してプラス(ホット)の信号を送る方式を「1芯シールド」と呼び、絶縁体を挟んでシールドの編組が丸く覆うその構造から、「同軸線」とも呼ばれます。音楽信号の伝送はもちろん、テレビのアンテナ線など、高周波ケーブルにも一般的な方式です。

編組(へんそ)

シールドとしてごく普通に用いられる編組線ですが、中にはその編み込みがガサガサした音の元凶になると嫌う設計者もいて、代替に金属のテープを巻き付けてあるケーブルもあります。銅、アルミ、マグネシウムなど、さまざまな金属と、それらを樹脂でラミネートしたテープが用いられていますが、開発エンジニア氏に話を伺うと、それぞれでかなり大きく音の傾向は違うそうです。

オーディオテクニカのFLUATシリーズ・インターコネクトケーブルでは、HYPER OFC素材の編組と銅テープによる二重シールド、FLUAT700の電源ケーブルではアルミテープとHYPER OFC編組という、とてもこだわった構造とされています。

インターコネクトでは必須的にシールドをアースへつないでありますが、スピーカーケーブルや電源ケーブルでは、メーカーや製品によってその扱いが違います。

普通、シールドの編組はそのまま束ねて引き出し、導電性のテープはそれらへ接して「ドレーン線」という細い裸の導線が配されていて、そこからアースへ落とせるようになっています。それをアースへ落とすか落とさないか、また入り口側と出口側の両端でつなぐか、どちらか片端でつなぐかによって、音質はまた大きく違ってきます。

この場合、アースへ落とせば必ず音が良くなるとは限らないのが難しいところで、各メーカーの考え方、音質磨きの方法論が伺える部分でもあります。

ケーブル外側の「外被覆(シース)」が、音に影響する振動を防ぐ

シールドの外側を覆い、ケーブル全体の保護と鳴き止めを担当するのが「外被覆(シース)」です。

ケーブル外側の「外被覆(シース)」が、音に影響する振動を防ぐ

多くの場合、ここにはPVCが用いられますが、例えばオーディオテクニカのFLUATシリーズ・インターコネクトのAT-IC700Rおよび同Xでは、PVCの内側にエラストマーと呼ばれる、ゴムによく似ていますが非常に振動を制御する能力の高い軟質樹脂の層を配し、ケーブルを有害な振動からガッチリ守っています。

さらに、シースの外側へ樹脂の繊維を編組にしたチューブを被せているケーブルも、特に高級品には少なくありません。オーディオテクニカでもFLUAT700シリーズのスピーカーケーブルと電源ケーブル、そしてAudio-Technica Excllenceのスピーカーケーブルにも、この編組チューブがかかっています。

シースの外側へ樹脂の繊維を編組にしたチューブを被せているケーブル

同じように編組チューブをかけていても、ぎゅっと力をかけて引き締めてあるもの、また軽い力で抑えているもの、シースと隙間ができているものなど、使い方はさまざまです。またメーカーによっては、円筒形の布製チューブをかけているところもあり、ここは音質を左右する度合いの大きなパーツなのでしょうね。

ケーブルの構造について、ごく大雑把にではありますが、解説してきました。しかし、ケーブルにはまだまだ大きなポイントがたくさんあります。

Words:Akira Sumiyama
Edit: Kosuke Kusano

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