長年にわたり愛好家のあいだで議論され続けてきた、科学的説明と主観的聴感のあいだに横たわる ”オーディオ神話” 。

今回は、デジタルケーブルで音は変わるのか、ケーブルに方向性はあるのか、そして「マイ電柱」は本当に音質を一変させるのか――この3つの神話について、オーディオライター・炭山アキラさんの見解をご紹介します。

目次
デジタル信号でも、ケーブルを替えれば音が変わる?
ノンシールドのケーブルでも方向性はある?
「マイ電柱」で音が激変する?

デジタル信号でも、ケーブルを替えれば音が変わる?

私には、息子ほども年の違うオーディオ仲間の友人が、もう結構古い付き合いとなっています。そんな彼らがまだ大学生だった頃、「デジタル信号で音が変わるはずないですよね」というものだから、「それじゃ、聴いてみる?」と、当時使っていたかなり高級な同軸デジタルケーブルを、私が若い頃に自作した3C-2Vアンテナ線*と1個50円くらいのRCAプラグを使った線に取り替えてみました。

まぁその時の若者たちが驚いた顔といったら、見ものでしたね。それはもう、音楽がいっぺんにショボくれて、明るいマンションから日当たりの悪いボロアパートへ引っ越したような、惨憺たる風合いに変わってしまったのですから。

*3C-2Vアンテナ線:家庭用テレビアンテナ配線に広く使われてきた規格。かつては非常に一般的で、価格の手ごろさが特徴。

同軸デジタル伝送の方式は、昔のビデオやアンテナ線と同じ規格が採用されています。つまり、3C-2V線で作ったRCAケーブルは、デジタル伝送の規格には完全に合致していたはずなのです。それでもこんなに音楽の本質が欠損してしまった。これは一体なぜなのかというと、私にも完全に原因がつかめているわけではありません。

でも、一度あるメーカーの技術者に見せてもらった資料で、衝撃的な図版を見たことがあります。デジタル信号は1と0の集まりですから、理想的に信号が流れていたら、波形は四角形のパルス波になります。実際にはさすがにきっちり角が90度に出ることはありませんが、それでも結構きれいな台形の波形を見て取ることができました。

ところが、作りの悪いケーブルや長すぎるケーブルでは、台形の山が低く角もつぶれたような波形となっています。それでも1と0の信号を読み取ることはできているのでしょうけれど、あれだけ形が崩れてしまうと影響がないわけないよなぁ、と納得したものです。

ですから、実際に聴いてみて若者たちが呆気にとられたくらい、現象面としてもデジタルケーブルで音質は大きく変わりますし、測定でも違いがはっきり形に表れるといってよいでしょう。これは同軸デジタル接続のみならず、USBやLANケーブルによる接続でも、全く同じことが起こり得ます。

また、これはデジタルケーブルに限りませんが、ケーブルは長くなるとどうしても音質に悪影響が出てくるものです。デジタルケーブルはとりわけその傾向が大きいように感じます。

わが家では、ケーブル類は一部「ガマンできるリファレンス」と称して、メーカーの新製品をテストする際に “マイナス実験” とならないよう、音質を大きく損なわない範囲で廉価なケーブルを使用しています。USBケーブルがその最たるもので、秋葉原の電気パーツ店のワゴンで購入した、何でもない50cm長のケーブルをリファレンスに使用しています。この50cmという長さがポイントで、2mくらいのメーカー製高級USBケーブルに比べ、音色は確かにいささか安っぽいけれど、情報量ではそれほど遜色ない表現が得られています。

ノンシールドのケーブルでも方向性はある?

RCAインターコネクトケーブルの、特に2芯シールドタイプの芯線構成を採用しているものは、入り口側か出口側か、どちらかのプラグのマイナス側にシールド線を接続しなければなりません。それで、そういう構造のRCAケーブルは、ケーブル部かプラグ部に矢印が記されていて、その通りに信号が流れるよう接続しなければいけません。

そうはいっても、逆に接続したら機器が壊れるとか音が出ないとかいうことではなく、微妙に音質傾向が違ってくるというだけの話ですけれどね。矢印通りに接続しないと、メーカーが保証する音質にならない、ということです。

そういう意図的に方向性が持たせられたケーブル以外でも、シースに書いてある文字の流れに沿って音楽を鳴らす方向につなぐのと、その逆につないだ時で音が違う、という現象が観測されることがあります。これについては電気的に説明がつかないのですが、音が変わるという現象面では、明確に観測されています。

この現象が最初に問題視され始めたのは、1990年代の前半頃ではなかったかと記憶します。それがある雑誌で問題提起されてから、私自身も幾度となく実験しました。その結果、やはり文字流れに沿った方が音質が好ましい、具体的には若干ながら音楽の肩コリをほぐしたような音の傾向に感じられます。ある雑誌の編集子も、必ずケーブルの文字流れを確認してから接続しているのを見て、あぁこの人は分かっているなと感じたものでした。

銅線を作る際には、精錬されたばかりの太い素材を、ダイスと呼ばれる穴の開いた工具を通して徐々に細くしていき、所定の断面径に仕上げていきます。その際に銅の素材へ特定の方向性を伴った力がかかり、それで信号の流れやすい方向が生ずるのではないか、という仮説を唱える人もおいでですが、伸線した後にアニール(焼きなまし)加工が加えられるのが普通ですし、アニールの後にそうした方向性が残るのかどうかも分かりません。

また、出来上がった銅線へ絶縁体や介在、シースなどをかけていく際にも、特定の方向で加工が進んでいきますから、これも方向性の原因になっているのかもしれません。オーディオテクニカの一部製品では、被覆などもアニールに似た「ヒートリリーブ処理」が施されますから、ひょっとしたら加工時に加わったと思しき方向性は消え去る、あるいは薄くなる可能性がありますね。

「マイ電柱」で音が激変する?

商用電源は、電柱の上のトランス(変圧器)で6,600Vの高圧から100Vおよび200Vへ電圧を降下させ、1台のトランスから近隣の多くの住宅へ、電気が供給されています。

それを、自分専用の電柱と柱上トランスを導入し、自分のオーディオ専用に電気を供給する人がおいでです。「マイ電柱」、あるいはもっと省略して「マイ柱」と呼ばれます。そうすることにより、他家からのノイズを引き込むこともなくなりますし、もっといえば、自宅内のオーディオ以外の電源はトランス共用の一般電力契約とすれば、自宅内の電源ノイズからも解放されることになります。

そもそも、電源のノイズでオーディオの音はそんなに悪くなるのでしょうか。これははっきり「なる」と断言します。

私自身の体験で恐縮ですが、前に住んでいた場所は人間よりもカエルの方が絶対多い田園地帯で、家庭用電源をきれいにして音質を向上させる「クリーン電源装置」というものがあるのですが、それらをいくつ自宅で試聴しても音質が向上する素振りがなく、むしろ副作用ばっかり聴こえてくるという土地でした。

ところが、今の家へ引っ越しオーディオをセッティングして、音を出した瞬間に私は天を仰ぎました。あまりにもザラザラと耳障りで、引っ越し前とは比べ物にならない低音質だったからです。ごく近隣に24時間操業の工場がいくつもあり、電源が汚れているのだなとはっきり分かる音質です。

また、引っ越しに伴いLEDの照明を導入したのですが、暗くなってそれらを点灯すると、さらに強烈な音質劣化へ頭を抱えることに。白熱灯の照明と2段構えにしていたので、しばらくは白熱灯のみの薄暗い部屋で仕事をしていたものです。

その絶望的な音質は、電源周りに小さなノイズカット用のコアを挿入することで、ほぼ解決しました。レトリックで「100倍音が良くなった!」などということがありますが、このコアを入れて音を聴き直した時は、大げさではなく本当にそんな気分だったものです。

ましてそんな弥縫策ではなく、柱上トランスから専用にするのですから、その恩恵は比較になりません。もちろんわが家で実験することは叶いませんが、大変な音質向上が得られることは想像に難くありません。。

現代は街灯がほぼ完全にLED化されましたし、太陽光パネルから発電される直流を交流100Vに変換するインバーターなどからも、大量のノイズが発生します。20世紀よりも遥かに汚れた電源環境の中でオーディオを楽しまざるを得ない私たち現代人にとって、電源ノイズ周りの改善は最も大切なオーディオ対策の一つといってよいでしょう。

私のように電源周りへコアを挿入するのも有効ですが、私の使っている卓効あるコアは今のところ電源ケーブルを自作する以外に取り付ける方法がありません。「そんなのムリだよ」という人は、電源ケーブルへ継ぎ足して使えるノイズフィルターや、前述したきれいな電源を作り出してくれるクリーン電源装置なども、極めて高い効果を示してくれます。

そして、その最高峰に位置するのが「マイ柱」なのでしょう。何といっても、電源のノイズを「元から断つ」のですからね。これは単なる神話ではなく、「神話級の対策」といってよいと思います。

※本記事で紹介している内容は、長年の試聴経験に基づく筆者個人の見解です。

Words:Akira Sumiyama

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