昨年、開催から5ヶ月で2万人以上の「赤ちゃん」を動員し話題を呼んだ「Bébé Symphonique」。カナダ発のプラネタリウム企画で、赤ちゃんと親がともに楽しむ音楽と光のショーを制作したチームは、興味深いことを教えてくれた。

「実は、生後0〜18ヶ月の赤ちゃんは、音と光の刺激からの感情の受容は、同じなんですよ」

言葉をもつ前の“感情を”呼び起こす

カナダ、モントリオールのRio Tinto Alcan Planetarium(リオ ティント アルカン プラネタリム)で開催されたショー「Bébé Symphonique(べべ・シンフォニック)」は、18ヶ月までの赤ちゃんとその親に向けた音楽と光を組み合わせたプロジェクションだ。映画音楽作曲家の巨匠、Simon Leclerc(シモン・ルクレール)が幼児のために作曲した音楽に、アーティストのMarcella Grimaux(マルセラ・グリモー)が描くイラストと光が合わさってドームに映し出される。360度の鑑賞体験だ。

実際、赤ちゃんが音楽を聴いているか、どこまで感受しているかの研究は多くあり、なかにはリズムまで知覚している、とするものもある。

言葉をもたない赤ちゃんたちは、どのように音楽と光を感受しているのだろう。また、赤ちゃんのための音楽と光の制作とは、どのようなものなのだろうか。

Bébé Symphoniqueのショーを制作した、カナダのレコード会社GSI MusiqueのCEOである Nicolas Lemieux(ニコラス・レミュー)に話を聞く。

Bébé Symphonique

赤ちゃんのための、音楽と光。どのようなものが楽しめるのでしょうか。

まず、音楽には、カナダの作曲家Simon Leclercに「赤ちゃんになったような気持ち」で制作してもらった7曲のオリジナル曲を。そして光には、アーティストのMarcella Grimauxが描く、音楽の動きに合わせたカラフルな7枚の絵を。これらを合わせて、ドームに映し出します。没入感のあるドームショーになっていると思いますよ。

赤ちゃんになったような気持ちで制作された音楽ですか。言葉では説明が難しそうですね。

そうですね。こだわったのは、赤ちゃんをリラックスさせる音楽へと仕上げること。この音楽を聴くことで、赤ちゃんはストンと眠りにつくこともあるんですよ。

同時に、ショーに参加している赤ちゃんたちには、眠らずに楽しそうな様子も見られますね。これは音楽だけではなく、光からの刺激もあるからでしょうか?

そうです。ショーで映し出される絵が赤ちゃんの視覚的な感覚を刺激しているんですね。

音や光を感じる赤ちゃんたちは、カラフルな光や音楽に対してどんな反応を見せるのでしょう?

おしゃべりをしたり、微笑んだり、指を差したりしますが、驚くことに、赤ちゃんはみんな同じような反応を見せるんです。

Bébé Symphonique

個人差があまりないとは、驚きました。赤ちゃんの反応は音や光のパターンによって変わったりもするのでしょうか? カラフルな色を見るとはしゃぎ、柔らかい音色を聴くと静かになる、など。

全くその通りで、モノクロの絵を見せると、赤ちゃんの反応はとても瞑想的になります。カラフルな絵であれば赤ちゃんの反応はよりアクティブに。星空を穏やかな動きで描けば、赤ちゃんの反応はより瞑想的になります。また、怒りを感じさせるアニメーションに鮮やかな色彩とリズミカルな音楽を合わせると、赤ちゃんはとてもダイナミックな反応をみせるのです。

音楽と光を同時に楽しむ場面は、日常生活でもありますよね。代表としては、テレビや映画。こういった音楽と光と比べると、Bébé Symphoniqueのショーはなにが違うのでしょう?

“1秒”を意識した制作をしています。18ヶ月までの赤ちゃんの発達には「1分」そして「1秒」が大切だということを念頭に置き、音、映像、色、形をつくっていきます。赤ちゃんの頭の中では、とても速いスピードで全てが起こっていきますから。

言葉をもたないからこそ、それらを理解するために認知するのではなく、より純粋な感受が猛スピードでおこなわれているのか。

なので、音楽の動きと映像や色の種類の動きをシンクロさせることにこだわりました。たとえば、絵の中で線が円や三角、四角になっていく表現部分がありますね。ここのポイントは、急がないこと。赤ちゃんがその一瞬いっしゅんを味わえるように、映像の変化を急ぎません。

Bébé Symphonique
赤ちゃんも大人もソファでリラックス

赤ちゃんの知育には、音楽を聴かせるといいと言われますよね。

神経学的にも効果をもたらしますね。特に、生まれたばかりの赤ちゃんにクラシック音楽を聴かせることは、彼らの成長に非常に大きな影響を与えるでしょう。このシンフォニーにはいくつかの音律があり、それがさまざまな感情に変換されるんです。

赤ちゃんたちの感情の動きというのは、一緒にショーをみている親、つまり大人とは違ってくるのでしょうか。

実は、0〜18ヶ月の赤ちゃんも大人たちも、音と光の刺激からの感情の受容の仕方は、同じなんですよ。

これまた驚きます。私たちと同じように感じているのか。

ポイントは、見たものを理解するかどうか、です。これを「感情のレベル」でみると、私たち大人の脳も赤ちゃんの脳も、同じように反応していることがわかります。年齢だけじゃありませんよ、人種や宗教などの違いに関係なく、人間はみんな同じように、動きや音に敏感に反応します。

それを聞いてからだと、親たちもより楽しめそうです。

そうですね。赤ちゃんとその親、両方に向けたアクティビティは、非常に限られていますよね。2017年に、Mount Royal (マウントロイヤル)で9万人以上の観客を前に、3つのオーケストラと450人の音楽家による大規模なシンフォニーコンサートが行われたのですが、親子連れの赤ちゃんがたくさんいたんです。オーケストラを聴いたり見たりしている赤ちゃんを目にして、自分たちもなにかできないかと思い、このプロジェクトを思いついたのです。

Bébé Symphonique
パパとショーを楽しむ様子

実際にショーは大好評ですね。「生後6ヶ月の赤ちゃん向けのアクティビティを見つけるのは難しいので、外出できるのが嬉しい。息子もショーを楽しんでいた」という声も見かけました。

はい、ショーは大変な反響です。今年(※2022年)3月の開始から5ヵ月間で2万人以上の赤ちゃんが来場しましたよ。もうすぐこのショーは世界ツアーに出発します。※取材は2022年8月

なんと!笑

来年の秋にはメキシコシティ、ドイツ・ハンブルグ、ロンドンでの公演が決まっています。世界67都市からの開催要請もありました。お父さん、お母さんや、おじいちゃん、おばあちゃん、そして赤ちゃん、みんな一緒にお出掛けしてもらいたいです。

Bébé Symphonique

カナダ、モントリオールのRio Tinto Alcan Planetariumにて、2021年3月より開催中の没入型の光と音のショー。生後18ヶ月までの乳児とその親をターゲットとしている。企画はカナダのケベックのGSI Musiqueが手掛け、音楽はマエストロのSimon Leclercが幼児向けに作曲し、モントリオール交響楽団が演奏する。アニメーションはアーティストのMarcella Grimauxが担当している。

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All Images via Bébé Symphonique
Words: Ayumi Sugiura(HEAPS)