いい靴はいい場所に連れて行ってくれるといいます。
いつもと違う靴にするだけで足取りが様変わり。足元から響く地面の心地よい反動が、知らない土地に行ってみたいという人間の本能に火を付けます。
カートリッジも同じ。聴き慣れたレコードが別物に変貌し、違う世界に簡単に飛べるのがカートリッジ交換です。
アナログだからこそできる大胆かつ手軽なチューンアップ手段。
やらない手はありません。

カートリッジは文字通りチェンジャブルパーツ。

ターンテーブル

カートリッジはレコードプレーヤーの中枢パーツ。レコード盤に刻まれた溝の振幅を針が拾い出して電気信号に変える、針を備えたマイクロ発電機です。
多くのレコードプレーヤーに搭載されているユニバーサル式のトーンアームなら、カートリッジを簡単に交換することができます。
そもそも、カートリッジという言葉は容易に交換可能なひとくくりの機器のことを指します。レコードプレーヤーのカートリッジでは、交換が前提となっているわけです。

大きくは2つのタイプ。MM型とMC型。

AT-ART9XI
MC型のAT-ART9XI

磁界の中で金属が動くことで電気が発生する。これが発電の原理。
カートリッジの発電方式では「MM型(moving magnet)」と「MC型(moving coil)」の2種類に大きく分けられます。
針先と呼ばれる部分は、まずレコード盤に触れる「スタイラスチップ」、それが取り付けられた棒状の「カンチレバー」、その根元にはマグネットあるいはコイルが装着。これがカートリッジの基本構造です。

カンチレバーの根元がマグネットかコイルかで、カートリッジは2つに大別されます。

マグネットであれば「MM型」。カートリッジの多数を占めています。
針先の振動はそのままマグネットの振動となります。受け手のカートリッジ本体側に配線を伴うコイルとともに発電を行います。
コイルの巻数を増やせるため、出力を高めることができ、針先交換が容易。様々な種類の針を試すことができるメリットがあります。
重いマグネットを動かすので、高音域では限界がありますが、ダイナミックで力強い音質が魅力です。

カンチレバーの根元にコイルがあるのが「MC」型。コイルが動いて発電します。コイルが針先に装着されているので針交換はメーカーに依頼しなければなりません。
針先の軽量化が可能なため、高音域の繊細さが特徴です。MM型に比べて出力は小さくなるため、昇圧トランスなどの付属機器が必要です。

MM型の良さを生かした独創のVM型。

AT-VM95ML
VM型のAT-VM95ML

取り扱いの良いMM型の派生としてオーディオテクニカが開発した「VM」型。
MM型はマグネットが1個なのに対して、VM型では軽量な2つのマグネットが左右V字型に配置されています。
レコード盤に音溝を刻むカッターヘッドの構造がV字型であることに注目し、それをカートリッジに応用したのです。
再生形式を録音形式に合わせるという独創。これにより、正確なトラッキングが実現し、その広帯域再生の能力によって、耳あたりのよい、ニュートラルな音質で人気を博しています。
基本型はMM型だから、針交換も容易など、ユーザビリティにも優れています。

針先交換のタイミングは?

音溝に接触しながら音を拾う針先は摩耗を伴います。
現在では針先の材質は最も硬度のある物質として知られるダイヤモンド針。それでも長期間の使用により、摩耗が発生します。
針先の形状にもよりますが、交換目安はおおむね300時間~500時間。毎日一枚のLPレコード45分を聴くとして1年〜2年といったところ。業務的な酷使をしない限り、家庭では摩耗をあまり神経質にとらえる心配はありません。

アナログゆえの幅広い個性を堪能する。

カートリッジ

振動そのものを相手にするアナログ。
数値化してコントロールするデジタルと異なり、アナログ機器は計算通りに行かないことが普通。振動しない物質はないからです。
でも、だからこそ、思わぬ発見や魅力がたち現れるのがアナログの魅力。
世に名作といわれるものは、偶然が生んだ良き産物をも内包して、強い個性を放っているものです。
どのレコードにどのカートリッジが合うのか?
それは、あなたの自由で寛容な精神だけが発見できる境地。
芸術を汲み出すカートリッジ選び。何が待ち受けているのか。
ワクワク感を胸に、一歩踏み出してみましょう。

Words : Kikuchiyo KG