Credit5 〜あの人が「クレジット買い」した5枚のレコード〜第44回：市川紗椰 - Always Listening by Audio-Technica（オーディオテクニカ）

今、世界的な再注目の最中にあるアナログ・レコード。デジタルで得られない音質や大きなジャケットなどその魅力は様々あるが、裏面にプロデューサーやバックミュージシャン、レーベル名を記した「クレジット」もその1つと言えるだろう。

「クレジット」――それは、レコードショップに並ぶ無数のレコードから自分が求める一枚を選ぶための重要な道標。「Credit5」と題した本連載では、蓄積した知識が偶然の出会いを必然へと変える「クレジット買い」体験について、アーティストやDJ、文化人たちが語っていく。

今回登場するのは、文学や鉄道、アニメなど多岐に渡る分野に造詣が深く、音楽においてもクラシックやジャズ、ロックなど様々なジャンルを愛聴しているモデル・タレントの市川紗椰。紹介された5枚のレコードを道標に、新しい音楽の旅を始めてみよう。

市川紗椰が考える「アナログ・レコードの魅力」

レコードが流れると、部屋の空気が変わる感覚がたまりません。楽器の細かい音の再現や空気感は、CDでは敵わないと思います。どちらかというと、耳で聞くというよりは五感で聞く要素のほうが強いのかもしれません。まさに鑑賞する。好きで何度も聞いたこの曲なのにアナログ盤だといつも意識していなかった楽器やコーラスが耳に入ってくる気がします。音質が良い・悪いではなく、音が気持ちが良い。丸くて深くて疲れない気がします。音場表現の情報量が多いし、時代の空気感が伝わります。

プレスの国によってや、職人さんによって違うなど、物質的な面白さもあります。何かと手間がかかってるところや、物理的な要因で音楽体験が変わるところ（回転数の違いによって音の印象が変わるとか）って、アナログレコードはもはや楽器みたいだな、と思ったりもします。スピーカーの音量を0にしても、針から出た音を聞くことができるのに気づいた時は感動しました。

モノとしての迫力はあります。でかい。重い。大きいジャケットの満足感。仕掛けのあるジャケットの遊び心。内容のムラもあって面白い。フィジカルで、グッズにもなる。デジタルやCDはコピーできるけど、レコードは自分だけのもの、自分の所有物、という感覚があるのも大きな魅力です

市川紗椰が「クレジット買い」した5枚のレコード

Captain Beefheart『Safe as Milk』

2曲目にライ・クーダー（Ry Cooder）がギターでクレジットされていたので気になりました。時期を計算すると、ライ・クーダーはまだ二十歳の時に参加しているのに気づき、聴いてみないと！と購入。結果、キャプテン・ビーフハート（Captain Beefheart）にハマりました。ブルースやロックをベースにしながら、自由奔放で実験的な要素を大胆に取り入れたキャプテン・ビーフハート。普通のロックの枠にとどまらず、フリージャズ、サイケデリア、デルタブルース、アヴァンギャルド、シュールな表現や詩的な表現などが混ざり合った彼の世界観は唯一無二です。『Safe as Milk』はデビュー作だからなのか、実験要素よりブルースの文脈や伝統的要素が強いので、一番聴きやすいアルバムかもしれません。粗さと洗練のバランスが面白いです。

The Beach Boys『Pet Sounds』 (〈Analogue Productions〉リイシュー盤）

クレジットの「Mastered by Kevin Gray at Cohearent Audio」に惹かれて購入。『Pet Sounds』は色々なバージョンが存在しますが、このケヴィン・グレイ（Kevin Gray）によるマスターカッティングが究極だと思います。真空管機材を駆使したような、ナチュラルで温かみのある音で、ダイナミックレンジを潰さず、オリジナルに近い雰囲気で蘇らせてるのが特徴。名エンジニア、ケヴィン・グレイのモノラル高音質盤にハズレなし。高いけど。

Miranda Martino「Paura / Meraviglioso Momento」

編曲：エンニオ・モリコーネ（Ennio Morricone）。美しすぎる旋律でお馴染みの映画音楽の大家、モリコーネが作曲ではなく、編曲だけ。なんとなく気になって購入。「Paura」のイントロの、へなちょこだけどかっこいいトロンボーンの使い方にぞっこんになりました。ミランダ・マルティーノ（Miranda Martino）の声も力強くて癖になる一枚です。

Joni Mitchell『Hejira』

このジャケット写真知ってるな、と高校生の頃にレコード屋さんで手に取ったのが出会いでした。すると、フォークのイメージが強かったジョニ（Joni Mitchell）のレコードのクレジットに、「ベース：ジャコ・パストリアス（Jaco Pastorius）」の文字が！ジャズベースの革命時とジョニの深い歌世界の組み合わせが気になって買いました。聴いてみると、ジャコの歌うようなベースラインがジョニの詩と溶け合ってうっとりするような音楽体験でした。

V.A.『Play New Rose for Me』

フランスのレーベル〈New Rose〉による、インディパンク／アンダーグラウンドロックを中心としたコンピレーション盤。馴染みのないレーベルでしたが、アレックス・チルトン（Alex Chilton）がザ・トロッグス（The Troggs）の「With a Girl Like You」をカバー・プロデュース・全楽器演奏していて購入しました。原曲は1966年リリースのブリティッシュガレージロックで、アレックスのバージョンは原曲を少し重くしただけで凄くハマったわけではないですが、コンピレーション全体は少し尖った楽曲が多く、今でもよく聴いてます。