Face Recordsからのおすすめレコードを毎月お届け。夏の暑さから逃げるために涼しい映画館へ行ったり、あるいはどこにも出かけず、家で映画を観たりするという人も多いと思います。そこで今回のテーマは、「ラロ・シフリンの映画サウンドトラックレコード」。惜しくも2025年6月に亡くなったラロ・シフリン(Lalo Schifrin)が手掛けた映画のサウンドトラックの足跡を振り返りつつ、暑い夏を過ごすのに楽しめそうなレコードを、Face Recordsの藍隆幸さんがご紹介します。

ジャンルを超えたラロ・シフリンの魅力

『燃えよドラゴン』『ダーティハリー』『ミッション:インポッシブル』『ブリット』。これらの映画を観たことのある方は多いと思いますが、音楽を担当したラロ・シフリンのことを意識して観ている人は少ないのではと思います。それほど映画に溶け込んだ、音楽が映画を邪魔することなく、効果的に映画を盛り上げる映画音楽を作り上げた功績は大きいです。一方、映画とは別でサウンドトラックレコードだけを聴くとその存在感の大きさに圧倒されます。

ラロ・シフリンはアルゼンチンで生まれてクラシックを学んだ後、フランスでの留学経験を経て、1960年代からアメリカに移住してジャズ・ピアニストとして活動し、その後ハリウッドに移ったことから、映画やテレビのために数々の曲を書くキャリアが始まります。

ジャズ、ラテン、ファンク、ボサノヴァなどの影響を受けた全てがカッコいいラロ・シフリンの音楽、映画やテレビドラマのサウンドトラックを中心に特におすすめの作品を紹介します。

『Insensatez』(1963年)より、「The Wave」

『Insensatez』(1963年)より、「The Wave」

これは映画音楽ではなく、ラロ・シフリンのオリジナルアルバムで、1963年に『Piano, Strings And Bossa Nova』というタイトルでリリースされましたが、1968年に『Insensatez』というタイトルでリイシューされたレコ―ドです。

A面1曲目の「The Wave」はストリングスとピアノが際立つカッコいいラウンジ・ミュージックに仕上げられています。

『The Cincinnati Kid』(1965年)より、「The Cincinnati Kid」

『The Cincinnati Kid』(1965年)より、「The Cincinnati Kid」

ポーカーの名手同士の戦いを描いたスティーブ・マックイーン(Steve McQueen)主演の映画『シンシナティ・キッド』のメインタイトル曲です。

特にアクションものの映画などで、タイトル曲のイントロは映画の印象を決める重要な要素ですが、ラロ・シフリンはどの曲も印象強いイントロが特徴です。この曲も同様で、レイ・チャールズ(Ray Charles)のシブいヴォーカルが冴えて大人の雰囲気が満喫できます。

『Music From Mission: Impossible』(1967年)より、「Mission: Impossible」

『Music From Mission: Impossible』(1967年)より、「Mission: Impossible」

言うまでもなく、映画『ミッション:インポッシブル』のベースとなったテレビドラマ『スパイ大作戦』のテーマ曲です。

5拍子の緊張感のあるリズムは、Mission: Impossibleの頭文字であるMとIのモールス信号(ツーツー トントン)に対応しているという話や、ブルース・リー(Bruce Lee)はトレーニングする際、必ずこの曲を流していた、などというまことしやかな都市伝説があります。

『Sol Madrid』(1968年)より、「The Burning Candle」

『Sol Madrid』(1968年)より、「The Burning Candle」

映画『追いつめて殺せ!』のサウンドトラックに収録された1曲。映画がメキシコのアカプルコで撮影された関係で、メキシカンテイストの曲が多い中、「The Burning Candle」はラロ・シフリンとしてはめずらしいハードなフリージャズです。クレジットに記載がないのでアーティスト名は不明ですが、思うままにプレイされるサックスとドラムの緊張感がたまりません。

『Bullitt』(1968年)より、「On The Way To San Mateo」

『Bullitt』(1968年)より、「On The Way To San Mateo」

『ブリット』は、スティーブ・マックイーン(Steve McQueen)主演で1968年に公開されたアメリカのアクション映画。サンフランシスコの急な坂道での派手なカーアクションが特に有名で、初めてサンフランシスコを訪れるとこの映画を思い出して感激するファンも少なくありません。

スティーブ・マックイーンはスタントマンを使わずにサンフランシスコの街の中を時速250キロ近いスピードを出してカーチェイスシーンを撮影し、収録が終わってマックイーンが車から降りるとき、開けたドアがそのまま取れてしまったというエピソードがあります。

このオリジナルサウンドトラックは全曲、その映画の雰囲気そのままのカッコよさが表現されている名盤ですが、「On The Way To San Mateo」は特にこのサントラ盤を代表する名曲だと感じます。

『Enter The Dragon』(1973年)より、「Theme From Enter The Dragon」

『Enter The Dragon』(1973年)より、「Theme From Enter The Dragon」

映画『燃えよドラゴン』のサウンドトラック。これも「Music From Mission: Impossible」と同様、有名すぎる1曲ですが、チャイナ風の味付けをしつつファンクの要素も取り入れて、カッコいい映画の印象を決定づける見事な曲に仕上げられています。

『No One Home』(1979年)より、「Memory Of Love」

『No One Home』(1979年)より、「Memory Of Love」

『No One Home』は、ラロ・シフリンのオリジナル作品で、ファンクを基調としたブラックミュージックが魅力的なアルバムです。

ロニー・フォスター(Ronnie Foster)、ワー・ワー・ワトソン(Wah Wah Watson)、イアン・アンダーウッド(Ian Underwood)、パトリース・ラッシェン(Patrice Rushen)など、とにかく豪華なアーティストがバックを務めています。「Memory Of Love」はイントロのベース、パーカッション、ギターの絡みがとても素晴らしく、何度聴いても飽きません。

観たことの無い映画に思いを巡らせる夏の一日

紹介した映画をはじめて観た時、その音楽やラロ・シフリンのことなど意識したことはありませんでした。それは、映画のワンシーンをみごとに彩っていたからだと思いますが、最近、単体の楽曲として聴いたときにも力強い存在感があることを再認識しました。ジャズ、ラテン、クラシック、ファンクなど、さまざまな音楽要素を「いいとこどり」したような彼の作品は、レコードというアナログメディアととても相性が良く、その魅力がより際立つように感じます。

暑い夏の日、映画館に行けなかったとしてもエアコンの効いた部屋でラロ・シフリンや映画音楽のレコードに針を落とし、観たことの無い映画のことを想像するのも悪くありません。ぜひ、店頭やオンラインで、あなたにとっての一枚を探してみてください。

Face Records

”MUSIC GO ROUND 音楽は巡る” という指針を掲げ、国内外で集めた名盤レコードからコレクターが探しているレアアイテムまで、様々なジャンル/ラインナップをセレクトし、販売/買取展開している中古盤中心のアナログレコード専門店。 1994年に創業し、現在は東京都内に2店舗、札幌、名古屋、京都、福岡に各1店舗、ニューヨークに1店舗を展開。 廃棄レコードゼロを目指した買取サービスも行っている。

HP

Words: Takayuki Ai

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