オーディオテクニカのレコードプレーヤーは、いろいろな材質で作られています。素材のお話、ウッド編では、キャビネットに使用されるウッド材について解説しました。何世紀も前から楽器の材料として使われてきた木は、音楽にとって重要な素材です。今回は木と楽器の音質の関係について、オーディオライターの炭山アキラさんに解説していただきました。

素材のお話、カーボン編はこちら:音質にも関係あり。レコードプレーヤーと素材のお話、カーボン編

弦楽器と木の相性

音楽にまつわるもので、最も木材が多く用いられているのは、何といっても楽器でしょう。ギターやバイオリンなどの弦楽器、ピアノやチェンバロなどの鍵盤楽器、クラリネットやオーボエなどの管楽器、打楽器もドラムの胴やマリンバの鍵盤などが木材ですね。

木材は樹種や厚み、形状次第でとてもバリエーションに富んだ響きを持ち、個々の楽器はそれらに適した材質と形を持っています。

例えばバイオリンは、胴の表板がスプルースという針葉樹で、裏板は広葉樹のメープルが用いられることが普通です。そしてあの美しい曲面に削り、組み立てることで、特有の響きが生まれると考えてよいでしょう。

バイオリンは、胴の表板がスプルースという針葉樹で、裏板は広葉樹のメープルが用いられることが普通

一方ギター、特にソリッド・ボディのエレキギターなどは、ボディやネック、指板などにさまざまな材質を採用することで、楽器の個性を作り出しているところがあります。例えば、メープル一体のネックとローズウッド指板が張られたメープル・ネックでは、同じ銘柄のギターでも明らかに音が違います。人によって感じ方は違うと思いますが、私個人は前者は軽やかでやや乾いた質感、後者は艶やかで厚みのある音、という印象を持っています。

管楽器と木の相性

木管楽器はゼロとはいわないものの、弦楽器ほど材質が音に大きく影響しないようです。木管楽器というくらいですから、もともとはその大半が木製の管体を持っていましたが、19世紀の終わり頃からフルートやクラリネットは金属で管体が開発され始めます。その結果、フルートはそのまま金属製が主流になり、クラリネットは木製に戻っていきました。

19世紀の終わり頃からフルートやクラリネットは金属で管体が開発され始めます

ならば、やっぱりクラリネットは木製の方が音が良かったのかといえば、一流の工房で製作されしっかりメンテナンスされたメタル・クラリネットは、木製のクラリネットに勝るとも劣らない美しい音色を響かせるものです。また、現代には樹脂製のクラリネットもいくつか出ていますが、これもちゃんとしたメーカーの製品は、悪くない音を聴かせます。

弦楽器と木管楽器、何が違ったのか

弦楽器と木管楽器で、木材が及ぼす影響の大きさが違うのは、一つには材の厚みと構造があるように考えています。

弦楽器の胴はそれ自体が共鳴体で、薄い木材をより積極的に共鳴させ、音色を付加するようになっていますし、先ほど触れたネック(棹)にしても、強い張力で弦が張られ、指で弦を押し付けながら演奏するのですから、材質の響きが影響しないわけがありません。

一方、クラリネットなどは結構厚みのある円筒で、それ自身が大きく鳴くような構造になっていないことに加え、大きな共鳴音を出しているのは歌口(マウスピース)の部分のみで、あとは気柱共振という空気の共振現象を利用して音を作っているのが、大半の管楽器だからです。

それでは、オーディオ機器で用いられる木材はどちらの傾向に近いでしょうか。それは次で解説いたします。

Words:Akira Sumiyama