1960年代に登場したモジュラーシンセは、現在でもミュージックシーンの最前線で活躍しているシンセサイザーの1つ。最近では、パッチケーブルを繋いで音を作っていくモジュラーシンセならではの魅力に夢中になる方が増えており、自宅で楽しむ大人の趣味としても人気上昇中です。

この記事では、モジュラーシンセに興味を持ち始めた方に向けて、初心者が押さえておきたい基礎知識や、ご自身の音楽活動へ導入するための大まかな流れ、注意点などをわかりやすくご説明します。「モジュラーシンセって何?」という方や、「モジュラーシンセを使ってみたいけど、何から揃えればいいのかわからない……」という方は、ぜひ参考にしてみてください。

モジュラーシンセとは?

モジュール

モジュラーシンセとは、モジュールが持つ各機能をパッチケーブルで繋ぐことによって自由な音作りが楽しめる電子機器です。音楽専用に作られた機器ではなく、もとは企業や大学の研究室などで、研究用の機材として使われていました。

シンセと聞くとピアノのように鍵盤が付いている楽器を想像されるかもしれませんが、モジュラーシンセには鍵盤はありません。モジュール同士をパッチケーブルと呼ばれるケーブルでつないで、実験をするようにそれぞれのツマミを調節し、世界でひとつの音を作れることが、モジュラーシンセの醍醐味です。

モジュラーシンセの歴史は古く、初期モデルが誕生したのは1960年代ごろ。当時はかなり大型でしたが、現在はコンパクトで持ち運び可能なものもたくさんあります。

その後1980年代にデジタルシンセサイザーが生まれ、1990年代に入ると、シーケンス機能を備えたワークステーションタイプのシンセサイザーなどが登場します。目新しく、最先端のシンセサイザーが登場するにつれ、モジュラーシンセは音楽シーンで目立たぬ存在となっていきました。

しかし、2010年代頃から再びモジュラーシンセのブームが訪れます。自分で音を出すために機器を構成する手間や、画面上ではなくパッチケーブルを繋ぐアナログ的な手法が、デジタルにはないあたたかな魅力として音楽愛好家の間で受け入れられ、その存在にもう一度スポットが当たることとなりました。

どこまでも追求できる音作りの奥行きと、電子機器でありながら歴史を持つシンセサイザーとして、自然とヴィンテージ感を漂わせるルックスは、一度ハマると抜け出せない強い魅力を持っています。

モジュラーシンセを使う目的

異なる機能を持ったモジュールを組み合わせることによって、変幻自在に音を作り出せることがモジュラーシンセの醍醐味です。音作りの自由度が高いため、自分のイメージを叶える世界でひとつの音を作りたい方や、電気信号を駆使した音作りに没頭したい方におすすめです。

モジュラーシンセは、ツマミの操作により直感的に音を変化させられるため、クラブやライブのパフォーマンスでもよく使われています。会場の盛り上がりや、曲の展開にあわせてリアルタイムで音を変化させていく場面は、アーティストやDJの腕の見せ所のひとつです。

モジュラーシンセの種類

モジュールのノブとスイッチ

モジュラーシンセを構成するモジュールには、さまざまな種類があります。異なる機能を持ったモジュールを組み合わせて音を作っていく過程では、一瞬で時が過ぎるような没頭感を味わうことができ、アーティスティックかつ至高の時間を体感できます。

これからモジュラーシンセを始める方で、まずは最低限の構成でモジュラーシンセを作りたいという場合は、音を出すための「オシレーターモジュール」、音を加工できる「フィルターモジュール」、音量などを制御できる「VCAモジュール」、音の立ち上がりや減衰の長さを調節できる「エンベローブモジュール」の4つがおすすめです。

モジュール単体の価格帯は幅広く、1万円以下の安価なものから、10万円を超えるものまで存在します。また、モジュール単体で購入するのではなく、複数のモジュールが内部で接続されている「セミモジュラーシンセ」も1万円台から手に入れることができます。セミモジュラーシンセは、さまざまな機能を持ったモジュールがまとめて内蔵されているため、モジュール同士をパッチケーブルで繋ぐ必要がありません。ツマミやスイッチを操作するだけで音作りができるため、とにかくモジュラーシンセを体験してみたい!という初心者の方にはおすすめです。

また、モジュールは自作することもできます。自分でモジュールを組み立てられる「モジュール自作キット」というものも存在しており、そちらも1万円台から手に入れることができます。基板を組み込み、はんだ付けするという工程を経て完成するオリジナルなモジュラーシンセは、ただ単に音を作る機器としてだけではなく、使用者のクリエイティブな欲求をも満たすことができます。

モジュラーシンセ導入の流れ

モジュラーシンセは、ギターやピアノなどの一般的な楽器とは異なるため、小規模な楽器店には置いていないこともあります。大手の楽器店や、シンセサイザー専門店などに足を運べば、確実に購入することができるでしょう。インターネットの通信販売でも手に入れることができますが、できれば楽器店で実物を見て選びたいところです。楽器店のなかには、モジュラーシンセを展示している店舗や、実際に触って音作りを体験できる店舗もあります。モジュラーシンセは直感的な部分が多い機器のため、直接ツマミをいじって、実際に音を出して確認したり、店員にアドバイスを求めるのもおすすめです。

お気に入りの機器を購入したら、ケースにモジュールをセットしてみましょう。セットが完了したら、いよいよ音作りの始まりです。パッチケーブルでモジュールとモジュールを繋いで音を作り、ツマミをいじって、出てきた音を変化させていく、モジュラーシンセの世界を存分に味わってください。

手持ちのモジュールの音作りを堪能し尽くしたら、新たなモジュールを買い足してみたり、工夫を重ねていきます。こうすることで、モジュラーシンセによる音作りの世界は無限に広がっていきます。

モジュラーシンセ導入の注意点

箱に入ったモジュラーシンセ

モジュラーシンセを導入する際、モジュラーシンセに加えて必要なのは、モジュールを収納するケースと動作させるための電源の2つです。市販のモジュラーシンセのケースは、ほとんどが「ユーロラック」という規格に基づいています。モジュールもほとんどがユーロラック規格のため、特に理由がない限り、ユーロラック規格のケースを購入するのが安心です。

ケースの材質は金属製のものがほとんどですが、サイドが木製になっているものもあります。持ち運びする場合は、フタが付いているものが便利です。トランク型のモジュールケースが販売されていたり、ケースを自作する方もいらっしゃいますので、個性を出せるアイテムとして、こだわってみるのもよいでしょう。多くの場合、メーカーから販売されているケースには電源が備え付けられていますが、ケースに電源が付いていない場合は、別に電源を用意する必要があるためお気をつけください。

また、電源付きのケースや、電源単体を選ぶ際には、電流許容量を確認することが大切です。モジュールの使用電流合計が、電源の電流許容量を超えてしまわないように、使用するモジュールの数が多くなりそうな場合は、電流許容量が大きめの電源を用意しましょう。

モジュールで作った音を聞くためには、スピーカーも必要です。また必須ではありませんが、ミキサーがあるとより便利です。音作りの最中に不意に大きな音が出てしまったときも、ミキサーがあればすぐ手元で音量調節ができます。ヘッドフォン端子付きのミキサーであれば、ヘッドフォンで音を聞くことも可能です。

まとめ

一見、マニアックで難しそうだと感じる方も多いモジュラーシンセですが、直感的に操作ができるため、実は楽器未経験の方でも十分に楽しめる自由な楽器です。DIYがお好きな方は、世界で1つの音作りを楽しむのはもちろん、自作キットにチャレンジするのもおすすめです。この記事を参考に、奥深いモジュラーシンセの世界に飛び込んでみてはいかがでしょうか。

Words: neu inc.