近年のレコード人気とともに注目を集めるモノラル盤。その魅力を存分に味わうなら、モノラル専用カートリッジで聴いてみるのがおすすめです。
前編記事では、モノラル盤とステレオ盤の違いや、モノラル盤を再生する際の注意点について解説しました。
後編では、オーディオテクニカのモノラル専用カートリッジ『AT-VM610xMONO』『AT33xMONO/II』『AT33xMONO/I』の3機種を使い、ロック、ジャズ、クラシックのモノラル盤を試聴。オーディオ評論家の小原由夫さんに、各モデルの音の個性と、専用機で聴くモノラルレコードの醍醐味をレビューしていただきました。
ビートルズ、エヴァンス、ガーシュインで聴き比べる
試聴に用いたレコードは、ロック、ジャズ、クラシックの3つのジャンルのモノラル盤3枚。
ビートルズ(The Beatles)の『A Hard Day’s Night』は、米Mobile Fidelity Sound Labがその初期にリリースした高音質リマスター盤。JVCビクター工場プレスのハーフスピードカッティング盤で、A-1のアルバムタイトル曲を試聴した。
ビル・エヴァンス(Bill Evans)はRiverside盤『Portrait in Jazz』から、人気曲のA-2「Autumn Leaves」を聴いた。ベース、ドラムを従えたトリオ編成で、私たちがイメージする同曲のテンポよりもかなり速い演奏だ。
クラシックはジョージ・ガーシュイン(George Gershwin)作曲の「An American in Paris」から、冒頭のパリの喧騒を闊歩する様子を描いたシークェンス。レナード・バーンスタイン(Leonard Bernstein)指揮/ニューヨーク・フィルの演奏、米Columbia盤だ。
『AT-VM610xMONO』で試聴
オーディオテクニカが誇るVM型発電構造を採るモデル。レコードの原盤となるラッカー盤を刻む「カッターヘッド」と相似形の発電原理に基づいているのが最大の特徴だ。これは2つのマグネットをV字型に配置することで、高い分離感と広帯域特性を実現している。
2016年の先代シリーズから9年ぶりのフルモデルチェンジとなり、全モデルにPUCHD(Pure Copper Ultra High Drawability=高純度無酸素銅)を新たに採用。ステレオカートリッジをベースに設計されたモノラル結線を採用しており、前編の解説でいうところの最新モノラル型カートリッジ版に分類される。モノラル再生に不要な垂直の信号成分をキャンセル(縦方向の感度は有しているが)することができ、音像定位の明瞭さをもたらす構造だ。
そうした特徴は、ビートルズを聴いてすぐに実感できた。2本のスピーカー間に張り出す歌唱とギターのリフの音像が、くっきりとしていて微動だにしない。疾走感のあるその様子が中音域の厚みからも感じ取れ、VM型ならではのパンチのある音がロック/ポップス向きともいえそうだ。
エヴァンスの演奏は、とてもリズミカルなドラムと克明なピッチのベースラインを背にして、ピアノが躍動的で実にダイナミックに響く。トリオの3つの楽器がまるで縦列駐車のごとくスピーカー間の中央に整然と並んで定位している。
ガーシュインでは、足音を模したシロフォンの音がくっきり立つのがわかる。しかもそれが奥の方から聴こえてくる様子は、モノラルとはいえ奥行き方向の音場がしっかりとレコードに刻まれていることを印象づける。弦と管の合奏によるメロディーラインを小気味よく、トロンボーンやタクシーホーンの音がユーモラスに響く。
価格も加味すれば、手軽にモノラル再生がスタートできる本製品。モノラル入門に最適なモデルといえそうだ。
AT-VM610xMONO
VM型(デュアルムービングマグネット)モノラルカートリッジ
『AT33xMONO/II』で試聴
2014年登場の先代シリーズから11年ぶりのフルモデルチェンジとなったAT33Xシリーズは、亜鉛ダイキャストベースの初採用がトピック。他にアルミニウムと硬質樹脂の3つの異なる素材で構成されたハイブリッド構造のボディだ。コイルはPCOCC(単結晶状高純度無酸素銅)で、スタイラスは曲率半径0.65milの無垢角柱丸針。
垂直方向から混入するノイズを抑制することができるモノラル専用発電コイルの採用は、同社の他のモノラル機と同じコンセプトに基づく。姉妹モデルの『AT33xMONO/I』とは高硬度ジュラルミンパイプカンチレバーや新開発サスペンション機構/ゴムダンパーの採用等も共通しているが、磁気回路の一部パーツが異なる。本製品はサマリウムコバルトマグネットと純鉄ヨークを採用しているのがポイントだ。
丸針のスタイラスは、カートリッジに左右の傾きが万が一生じていた場合でも、安定したトレーシング性能が期待できる(今回採り上げた他の2機種も同様)。ビートルズではヴォーカルが力強く定位し、シャウトするような感じがストレートに出た点にそれが伺える。ユニゾンで展開するリズムも同様で、その重心が下がると共に、切れ味が増しているのがわかる。
エヴァンスでもベースの安定感が増し、ピアノの打鍵が力強くてリアルな音色だ。シンバルの響きにも芯があり、演奏全体で楽器の音がたいそう生々しく感じられる。
ガーシュインも軽やかさの中にどっしりとした安定感があり、オーケストラは一段とスケール感豊かになった。管楽器には厚みがつき、弦の合奏と共に華やかさが増している。
AT33xMONO/II
デュアルムービングコイル(MC)モノラルカートリッジ
『AT33xMONO/I』で試聴
前述の通り、ボディや発電コイル、ジュラルミンパイプのカンチレバー材料や無垢角柱丸針など、多くのパートでAT33xMONO/Iと同MONO/IIは共通している。本製品は磁気回路にネオジウムマグネットとパーメンジュールヨークを採用しているのが特徴だ。注意しなければならないのは、上記のみの材料違いとはいえ、MONO/IIとMONO/Iは適性針圧が異なる点(正確には出力電圧や質量も若干異なる)。
こうした素材のチョイスから、本製品は、MONO/IIに比べてよりワイドレンジで高解像度なモノラル再生を目指したものという設計意図が伺える。
実際のサウンドパフォーマンスもそれが頷けるもので、ビートルズではリズムのアタックがより鋭く、素早く立ち上がる印象だ。全体に音がシャキッとしていてメリハリがある。歌声や楽器の音も一段とリアルだ。
エヴァンスに感じたのは、演奏のスウィング感。ベースのピッチが鮮明に感じられたことで、ベースが演奏を先導しているようなニュアンスが浮き彫りとなり、より濃密な音に感じられるのである。
ガーシュインでは、オーケストラの楽器の分離が素晴らしい。左右の広がりがないというだけで、中央に音像が集まる中にしっかりと前後の広がりが感じられるし、響きも生々しい。精巧でワイドレンジなモノラル。他の2機種に比べて、よりHiFiなモノラル再生を目指す人にはぴったりの専用機といえよう。
AT33xMONO/I
デュアルムービングコイル(MC)モノラルカートリッジ
モノラル専用カートリッジで聴くモノラル盤の音は、克明なセンター定位と音楽の濃密さが醍醐味といえる。と同時に、吹き込まれた古(いにしえ)の空気も送り届けてくれるのだから堪らない。
Words:Yoshio Obara
Product photos:Soichi Ishida
Edit:May Mochizuki
