近年のレコード復権に連動して、古いモノラル盤レコードに注目が集まっています。しかも往時の中古盤だけでなく、モノラル録音全盛期の作品の復刻リリースも見受けられる。
では、そもそも “モノラル盤” とは何でしょうか? さらにそれを楽しむには、通常のレコード再生方法で何ら問題ないのでしょうか? オーディオ評論家の小原由夫さんに解説してもらいました。
さらに、続く後編ではオーディオテクニカのモノラル専用カートリッジのレビューとともに、専用機で聴くモノラルレコードの醍醐味をご紹介します。
「モノラル」とは?
まずは大前提として、モノラルとは何だろう?
モノラル(正式にはモノフォニック)とは、1チャンネルソース(単一音源)の音響方式で、1個のスピーカーを1台のアンプで駆動する。身近なものとしては、AMラジオ、駅の構内放送や空港内のアナウンス、緊急放送などがそれで、左右の音の広がりはなく、立体感や臨場感にかける。
対するステレオ(正式にはステレオフォニック)は、2本のスピーカーそれぞれを2台のアンプで駆動する。草創期には『立体音響装置』とも呼ばれ、2つの異なった音を左右2つのスピーカーで再生し、どちらのスピーカーから先に音が出るか(耳に届くか)の時間差や位相差によって、立体的な分離や動きといった広がりのある音場を感じ取ることができるのだ。
今日の一般的な音楽はこのステレオ方式で収録されており、2本以上のマイクを使って録音される。FM放送も原則はステレオである。
モノラル盤とステレオ盤の違いとは?
モノラル録音のレコード(LP)は、1940年代末に誕生した。58年にはステレオ録音とそのカッティング技術が確立されたため、モノラルの歴史はたかだか10年足らずである。しかしステレオの実用化以降も、徐々に少なくなったとはいえモノラル盤は発売され続けていた(60年代末頃までがモノラルからステレオへの移行期とされる)。
モノラル盤もステレオ盤も、互換性を考慮して音溝が45度の角度で切られているのだが、溝の左右のカッティングが違うステレオ盤に対して*、モノラル盤の溝は縦方向のカッティングの形がまったく同一だ。
そのため、往時のモノラル型カートリッジは横方向の振動のみで発電するが、ステレオ型カートリッジは縦方向と横方向の振動で発電することでL/Rチャンネルの信号を再現することができる。
*ステレオ盤のカッティングは縦方向に波が変化しており、レコードの内周方向の溝にLチャンネル、外周方向の溝にRチャンネルが刻まれている。これを『45-45方式』という。
そのカートリッジ、レコードを傷めるかも?モノラル盤を再生するときの注意点
往時のモノラル型カートリッジと、近年に開発されたモノラル型カートリッジの違いは、内蔵されている発電コイルが1個(1チャンネル)か2個(2チャンネル)か、である。1個では横方向の振動のみで発電し、2個では縦方向/横方向の振動で発電する。2個あるのにモノラル専用とされているのは、ステレオ型カートリッジとの共通化による製造コスト削減もある。
古いモノラル盤を現代のステレオカートリッジで再生しても、互換性があるのでモノラル特有の音は楽しめる。しかし、古いモノラル型カートリッジで近年のステレオLPを再生すると、L/Rチャンネルの別個の情報が発電されず、なおかつ音溝を傷める可能性がある。
もうひとつ注意していただきたいのは、近年製造された復刻(再発)モノラルLPを古いモノラル型カートリッジ(特に針先/スタイラスが1milの丸針タイプ)で再生した場合も、やはりレコードを傷める可能性があることだ。これは、近年のレコードカッティングが、ステレオ盤もモノラル盤も同じステレオ用のカッターヘッドでカッティングされているためだ。この場合、往時の丸針のモノラル型カートリッジが現代のカッターヘッドで切られた音溝を正しくトレーシングできない確率が高いからである。
近年のモノラル型カートリッジは、丸針であっても0.65mil前後の小さな曲率半径のタイプが多いのはそのためで、最新設計のモノラル型カートリッジの大半が楕円針を採用しているのは、そうしたモノラル盤のレコードカッティングの事情が要因だ。また、縦方向の感度も有した設計なので、ステレオ用カッターヘッドでカッティングされたモノラル盤でも、縦方向への追従性を持っているからレコードにも優しいのだ。
つまり、復刻モノラル盤は最新のモノラル型カートリッジでも、ステレオ型カートリッジで再生しても、何ら問題はない。
後編では、オーディオテクニカの現行モノラル型カートリッジを使って、クラシック、ジャズ、ロックの古いモノラル盤や復刻モノラル盤を実際に試聴してみよう。
Words:Yoshio Obara
Photos:Soichi Ishida
Edit:May Mochizuki