「好きな音楽ジャンルと性格には関係あり」という研究が報告されたのは、iPodがヒットし大普及した2000年代のこと。 好きな音楽で性格診断、ってのも、まだ雑誌のコーナーにあったよね。 好きな音楽でみる相性診断とか…。

音楽の聴き方の変遷にあわせて「音楽とその人」についての研究もシフトしていて、興味深い。

さよなら? あの頃の“音楽ジャンルで性格診断”

近年のY2K(2000年代)ブーム*がかきたてるレトロブームもあって、ソーシャルメディアでもウォークマンやMP3、CDやMDプレイヤー機器を見かけることもちらほら。 CDの貸し借り、MDの貸し借り。 この頃は「この人、こういう音楽が好きなんだ」がわかりやすかった。 MP3の登場、そしてiTunesとiPodのタッグが世を席巻してなお、音楽を入れるのにはある程度手間がかかったわけで、そこにはまだ「一定の好み・偏り」があった。

*Y2Kとは「Year2000」の数略で、2000年代を指す。 当時のファッション、ビジュアル、機器、テクノロジーなど、分野を問わず2000年代のものが特にZ世代の間で人気となっている。

そしてふと気づく。 「好きな音楽による性格診断」を見かけなくなったこと(ちなみに、ここ数年で星座占い、ホロスコープは大復活している)。 音楽と性格診断。 これもまたストリーミング時代へと進んでいくとともに、ひっそりと消えていったものではないか…?

iPhone(iPod+電話+インターネット)が登場したのは2007年。 「場所を問わずいつでも音楽を手頃に聴く。 選ばずに聴く(1,000曲を入れシャッフルし、自分の意図していないものを聴くこと)」が普及し、遂には常に持ち歩く携帯電話とくっついたこの頃、音楽と性格についてはどんなことがいわれていたのか、調べてみる。 2008年には、こんな研究*がでていた。

スコットランドの大学の研究チームが、世界中の3万6,518人を対象に104の音楽ジャンルから好きなものを選んでもらったうえで性格を調査し、13の音楽ジャンルとそれに付随する性格をまとめたもので「音楽の好みと性格は密接に関係しているのではないか」と報告。 当時の結果もでていたので紹介する。

*大学の公式サイトでは2010年公開となっているが、2008年時にはWiredやBBCなどのメディアの記事に同大学の同研究が参照・参考として取り上げられているため、2008年から研究内容を公開していたと考えられる。

ブルース:自尊心が高い、クリエイティブ、外向的、紳士的、穏やか
ジャズ:自尊心が高い、クリエイティブ、外向的、穏やか
クラシック:自尊心が高い、クリエイティブ、内向的、穏やか
ラップ:自尊心が高い、外向的
オペラ:自尊心が高い、クリエイティブ、紳士的
カントリー・ウェスタン:勤勉、外向的
レゲエ:自尊心が高い、クリエイティブ、勤勉でない、外向的、紳士的、穏やか
ダンスミュージック:クリエイティブ、外向的、穏やかではない
インディーミュージック:自尊心が低い、クリエイティブ、勤勉でない、紳士的でない
ボリウッド(インド映画音楽):クリエイティブ、外向的
ロック・ヘヴィメタ:自尊心が低い、クリエイティブ、勤勉でない、内向的、紳士的、穏やか
人気のポップス:自尊心が高い、クリエイティブでない、勤勉、外向的、紳士的、穏やかでない
ソウル:自尊心が高い、クリエイティブ、外向的、紳士的、穏やか

ふむ。 どうでしょう。 ていうか、自尊心の高低、外内向、紳士かそうでないか、穏やかかそうでないか、勤勉かそうでないか…基本的な性質を振りわける、という程度であることに、ちょっと肩透かし(13のうち11の音楽ジャンルが「クリエイティブ」に当てはまるじゃないですか…)。

ついでにもう少し遡って古いものを調べてみた。 1989年には米国西ミシガン大学が「若者の音楽の好みとパーソナリティの側面」の研究について公表している。 18〜20歳の女子大学生163人と男子大学生137人を対象に、音楽との関わり方などを調査。 「音楽に関心のない人は、音楽に関心のある人よりも、規範を受け入れ内向的であることがわかった」。 うーん、これもかなりベーシックな内容。
その4年後の1993年には、米国インデペンデント学術出版社SAGEが研究結果「パーソナリティ(開放性・外向性)と音楽の好みとの関係」を掲載。 大学生を対象にアンケートを実施し、外向性はジャズと、興奮はハードロックとの相関があったと報告していた。

Spotifyの右肩がぐんとあがる頃….

2015年には、カナダの学術雑誌『Canadian Review of Sociology』が、違うアングルからの研究を発表している。 それは「社会階級が、音楽の好みに影響を与えている」との指摘を含むもの。 これは、音楽の好みで性格を当てはめるというのではなく、そもそも好む音楽の背景にはなにがあるのか、を探る趣旨のものだ。

2015年といえば、2008年にサービスを開始したSpotifyが、ストリーミングサービスとして本格的に軌道にのりはじめ、右肩あがりの角度をあげはじめた頃。 音楽を、大量の選択肢から選ぶ時代に入ったとき「ではその選択には、個人のなにが影響しているのか」という問い。 一人の人間が聴く音楽が多様化するなかで「こういう音楽が好きな人は、こういう性格」よりも「人はどのように音楽を選ぶのか」にフォーカスするようにシフトしたのは興味深い。 内容そのものよりも、この変遷こそおもしろい気がする。

で、“毎日5つのジャンルの音楽を聴く”いまは?

翻っていま。 とりあえずストリーミングサービスにアクセスし、そこから聴く音楽を決める。 決める、といっても、毎週・毎日、おすすめの音楽や新たな音楽との出会いを提供してくれるので「選ばずに聴く」という選択肢ができた。
無限のアクセスによって、気分やシチュエーションによって音楽を変えることは当たり前。 上述のジャンルすべてが「ライブラリ」に入っている人だって少なくないだろう。 当然だが、聴きたい音楽によって性格がコロコロ変わるわけでは、もちろんない。 音楽を選ばない、あるいは、無自覚に選んでいる、のか。

米国の学術出版社SAGEが掲載した「3ヶ月間Spotifyユーザー5,808人が聴いた1,760万曲を対象に行った研究」では「好きな音楽ジャンルからわかる性格はほんの一部(つまり、ほとんどわからない)」としている。 いやあ、どんな曲にもすぐにアクセスし放題で、ジャンルを横断して聴くリスナーが増え、無限曲数のシャッフルをするストリーミング最盛期のいま、そりゃあそうでしょう…というオチではシまらないので、もう一つ。 研究と主張の焦点のシフトが伺えるものを見つけたので、こちらも紹介したい。

これは好みでもなく、選ぶでもなく、 “好む” 背景に研究のフォーカスをあてている。

ケンブリッジ大学による、同大学の名誉研究員Dr. David Greenberg(デイビッド・グリーンバーグ博士、音楽家であり神経学者、心理学者)がリードした研究(2022年2月発表)で、世界50ヵ国以上、6大陸から、35万人以上を調査対象*としたもの。 そこから導き出したことは「音楽の好みと性格の関連は、 “普遍的であるだろう” 」こと。 どんな音楽を好むかは、性格の性質そのものとこそ関係があり、地理や社会的背景を問わない、と。

*(調査と評価におけるアプローチ)

グリーンバーグ博士とチームは、50ヶ国以上に住む人々を対象に、以下、2つの方法を用いて評価した。

  1. 23のジャンルの音楽を聴くのが好きかどうかを自己申告してもらい、Ten Item Personality Inventory(TIPI ビッグファイブ—外向性、協調性、勤勉性、神経症傾向、解放性 *精神病理学的なものではなく、世界中の文化圏で出現する、遺伝子的および環境的要因によって引き起こされる特徴—を測定するための10項目からなる尺度)への記入と人口統計情報の収集。
  2. 次のサイト(https://musicaluniverse.io/)で、自らで認識する性格について回答したあと、楽曲を20ほど実際に聴き、それぞれどれくらい好みであるかをレーティング(「この楽曲」は、ではなく「“こういう”楽曲は好きか」という聞き方をしている)。 その後、性別や年齢、人種など属性に関する基本的な情報に回答してもらう。

(著者コメント:23のジャンルを全て聴いている人を対象にしているわけではないため、自ずと「これを聴くか・聴こうと思うか」という意志が少なからず反映されていると考えられ、すでにわかっている好みというより、好むかどうか、までに及んでいるといえる)

音楽の好みは、概念化するために5つの主要なスタイルに特定した。

Mellow(メロー):ソフトロック、R&B、アダルトコンテンポラリーなどのジャンルでみられる、ロマンチック、スロー、静かさ、などが特徴。

Unpretentious(アンプリテンシャス):カントリーミュージックなどでみられる、複雑でなく、リラックスでき、攻撃的でない、などが特徴。

Sophisticated(ソフィスティケイテッド):クラシック、オペラ、アバンギャルド、伝統的なジャズなどでみられる、感動的、複雑さ、ダイナミックさ、などが特徴。

Intense(インテンス):クラシックロック、パンク、ヘビーメタル、パワーポップなどのジャンルで聞かれる、歪で激しく、攻撃的、などが特徴。

Contemporary(コンテンポラリー):ラップ、エレクトロニカ、ラテン、ユーロポップなどのジャンルにみられる、リズミカル、アップビート、エレクトロニカ的といった特徴。

(著者コメント:楽曲の好み、ジャンルの好みで分類するのではなく、ジャンルを横断する ”特徴” でみているのがおもしろい。
同サイトでのテストはいまも回答可能(10分ほどで回答できる)。 回答後は、音楽的特徴ごとのスコア、ビッグファイブにおいてのスコアをサマリーしてくれる。  *回答したデータ利用は回答者の許可制)

例えば、Ed Sheeran(エド・シーラン)の『Shiversis』は、英国に住む外交的な人と、アルゼンチンやインドに住む外交的な人に、同じようにアピールする可能性がある、とする。 また、Nirvana(ニルヴァーナ)の『Smells like Teen Spirit』は、米国、デンマーク、南アフリカに住んでいようが、同じようなパーソナリティを持つ人に好まれるとする。 外向性と現代音楽、良心と気取らない音楽、開放性とメロー、といった正の相関関係、また、良心的な性格と激しい音楽との間には負の相関関係があることを確認。 世界各地で大きな相違は見られなかったという。

非常にいまっぽいのが、「音楽の聴き方・求め方」についても言及していることだ。 外交性はアップビートやポジティブ、ダンサブルな特徴をもつ現代の音楽を好み、一方で神経質な人が寂しさを表現するためにはどのような音楽を好むのか、など。

音楽を多様に横断できるいようになったいま「こういった人は、こんな音楽を好み、求めていく」点に及んでいることは新しい(ちなみに同教授はもともとジャズが好きで、いまは宗教信仰の音楽にハマっており、それは自分の性格的特徴とぴたりと当てはまる、と述べている)。 この「自分を表現する(自分の気分に音楽をあてはめる)のに、どんな音楽を選ぶのか」については、今後まだまだ研究の余地があるとしている。

場所や社会的な違いを問わずに、音楽の好みと性格は連動するのではないかという今回の研究結果から、同教授はこうコメントしている。

「私たちヒトは、地理的、言語的、文化的に分断されているかもしれません。 ですが、世界のある地域の内向的な人が、他の地域の内向的な人と同じ音楽を好むとしたら…音楽は、お互いを理解し、共通の土台を見つけるのを助けるのです」

音楽が、社会の分断を克服するうえで、大きな架け橋としての役割を果たす可能性があるのではないか、と。 ちょっと気になった「最近、好きな音楽と性格診断見かけないなあ」から、壮大な主張にたどり着いた、というオチ(?)で。

Eye catch image by Yu Takamichi(HEAPS)
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