地球から約14億キロメートル先にある惑星、土星。 あの不思議な環(わ)からは、どんな音がする?

ある夫婦の研究からわかったこと、そして実際の音。

土星の環(輪っか)からする音

地球から約14億キロメートルも離れたところにある惑星、土星。 太陽系で2番目に大きな惑星といわれ、黄色い球体の周りに環(輪っか)があるのが特徴。 あの輪っかの正体は、実は数ミリから数センチの氷の粒だといわれる。

「あのレコードみたいな土星の環からは、どんな音がしている?」。

あの輪から聴こえる音が知りたい——その疑問から、NASAの協力も得て土星の環の音の探究プロジェクトとして始動させたのは、サウンドベースのビジュアルアーティスト・科学者として活動している女性China Blue(チャイナ・ブルー)だ。

土星の環の音が気になりはじめたのは90年代。 のちの夫、神経生物学者・宇宙科学者のDr. Seth Horowitz(セス・ホロヴィッツ)と出会ったことで音への関心はさらに深くなっていった。 「それぞれ違うサウンドへの興味や関心を持っていたから、私たちの毎日はとても刺激的でした*」

2017年、夫とともに土星の環の音の調査プロジェクトに着手。 土星探査機を使い、土星の環に関するデータを収集、それらデータを音源へ変換し土星の環の音を可聴化していく。

米作曲家のLance Massey(ランス・マッセイ)の協力のもと土星の環の音が収録されたCD『Cassini’s Dreams Feat. Lance T. Massey And Seth S. Horowitz』をリリース、インスタレーション作品『Cassini’s Dreams』にも落とし込んだ。

*もともとDr. Sero Horowitzに音の研究について取材を申し込んだところ、数年前に他界している旨をChina Blueが返信をくれ、改めて彼女とやり取りをし、今回の取材への運びとなった。

インスタレーション『Cassini’s Dream』の様子。

土星の環に興味をもったのはなぜだったんでしょう。

90年代当時、NASAとESAが「Cassini(正式名称:Cassini-Huygens)」という土星探索機を利用して、土星の研究をおこなっていたんです。 Cassiniのリサーチは世界にも公開されましてね。 ある日、北極から撮影された土星の写真を見たときこう思ったんです。 「まるでレコードのような見た目の土星の環からは、どんな音がするのかな」って。

※NASA:アメリカ航空宇宙局、ESA:欧州宇宙機関

土星の環の音を研究した人はこれまでにいなかったんですか?

公には誰の研究も出ていませんでした。 取り組んだのは私たちが初めてでしょう。

夫婦で一緒に研究を進めるってどんな感じなのでしょう。

夫と妻という感じではなく、違う発想やアイデアを提供し合う同士でしたよ。

まず、どのように土星の環の音を録音したのか教えてください。

土星探査機Cassiniにはマイクが付いていなかったので、録音をするのではなく、いくつかのソフトウェアを使って「情報を音に変換して、音を再現する」という方法を選びました。 Cassiniから得た数テラバイトのデータを、何度も音に変換して本物に近いであろう音にたどり着く、という作業の繰り返し。

近づけて再現していく、というプロセスなのですね。 データを音に変換してからは、Lance Masseyという作曲家の力を借りて音の再現を実現させたと聞きました。

このプロジェクトで音にしたものを、彼が音源に上手くまとめてCDにしてくれたんです。


土星の環(輪っか)からする音

このプロジェクトはまだ続いているものだそうですね。

はい、まだデータを研究中です。 最近は、Cassiniを利用した土星の環のリサーチを応用した『Saturn Walk』という新しいプロジェクトも始動させました。 土星の音を聴きながら、迷路を楽しめるというものです。

確かではないものを研究するのが、私の仕事だと思っています。 失敗をしながらも、少しずつ光を探していくようなものですね。

China Blue/チャイナ・ブルー

アメリカ・ロードアイランド州、ニューヨーク州を拠点に活動するサウンドベースのビジュアルアーティスト。 音響学、低周波音、脳科学などを主に研究し、その研究結果をインスタレーション作品などのアートで表現している。 2008年以降からは、イタリア、日本、カナダなど世界各国で展示会に参加している。

China Blue/チャイナ・ブルー

Image and Sound by China Blue
Words: Ayano Mori(HEAPS)