Nina Simoneのようなジャズは寿司と相性が良く、Guns N’ Rosesのようなロックを聴きながらインド料理を食べると辛く感じ、Taylor Swiftのようなポップスは中華料理のおいしさを倍増させるという。Justin Bieberには要注意。ほぼすべての料理を、台無しにしてしまうから。

真実か否か。音楽は味覚に影響をあたえる説

先の話は、決して筆者の個人的な感想ではない。2015年、オックスフォード大学の実験心理学者Charles Spence(チャールズ・スペンス)教授の、音楽と味覚の関係を調査した研究結果だ。

実験では、700人の被験者にさまざまな種類の料理のテイクアウトを用意。6つの異なるジャンルの音楽を聴きながら食べ比べ、1から10のスケールで評価してもらった。すると食べる料理と音楽のジャンルがマッチすることで、料理がよりおいしく感じられることがわかったという。

気になる組み合わせはこちら。Arctic MonkeysやQueen、Guns N’ RosesやBruce Springsteenなどのロックはインド料理と、Frank SinatraやNina Simoneのジャジーなサウンドは寿司やタイ料理と食べ合わせ(?)がいい。
Antonio VivaldiやLuciano Pavarottiなどあらゆる種類のクラシック音楽はイタリア料理(パスタ)とよく合い、Ed Sheeranの『Sing』やTaylor Swifの『BlankSpace』といったポップ・ミュージックは中華料理とマッチした。

クラシック音楽はイタリアに深い歴史があることもあり、イタリア料理とクラシック音楽の好相性はなんとなく分かる。しかしジャズとタイ料理の関係性とは…。寿司を食べるときは、和を演出する音色などの方が合う気がする…(これって日本人独特の感覚?)。残念ながら研究では、音楽と料理の相性の良し悪しの理由までは記述されていなかった。なので、正直「被験者の音楽の好みの問題もあるのでは?」感も否めない。

ほかにこの研究で明らかになったのは、ロックを聴きながらインド料理を食べると、ジャズを聴きながら食べたときに比べて4パーセント辛く感じるということ。ちなみにヒップホップやR&Bはどの種の料理にも大した変化をもたらさなかったそう。Justin Bieberファンには悲報だが、彼の代表曲『Baby』は、ほぼすべての料理のたのしみに悪影響を及ぼしたという結果となった。

五感の相互作用による錯覚、クロスモーダル現象が関係?

生卵

「食事は五感でたのしむ」とはよく言ったもの。味覚、嗅覚、視覚が味に影響するのは頷けるが、聴覚も影響をあたえるなんて本当なのか。たとえばズルズルと音を鳴らしてすするとラーメンが一段とおいしかったり、ゴクゴクと喉をならせて飲むビールが最高なのはわかる。けれど、聴く音楽によって同じ食べ物でも味が違って感じるとは、どうなのか。

ある文献によると、食事の際の五感による知覚の割合は、視覚が80パーセント以上で1番高く、次いで聴覚が11パーセントと2番目に高いのだという。これを裏付ける他の実験も紹介したい。先述のSpence教授がおこなった、“ベーコン・アイスクリーム”を用いた実験。ベーコン・アイスクリームとは、エッグカスタードとベーコンで作られたアイスクリーム。もともと冗談半分で作られたフレーバーだが、いまでは高級レストランのメニューにもなっている。これを被験者に配り、食べてもらった。すると農場で鶏がコケコッコーと鳴くBGMを聴きながら食べたときは大多数が「卵の味が強い」と答え、フライパンでベーコンがジュ〜っと焼かれるBGMを聴きながら食べたときは大多数が「ベーコンの味が強い」と回答した。

「気の持ちようだろう」と構えずに聞いてほしい。このように、味覚と聴覚など本来別々とされる知覚が互いに影響を及ぼし合うことを「クロスモーダル現象」という。五感のとある感覚が刺激されることで、実際には起きていないことも脳が過去の記憶などから想起し、起きたと錯覚してしまうのだ。たとえば風鈴の音を聴くだけで実際の気温より涼しく感じたり、赤色の甘味料にはイチゴ味を連想するのも、クロスモーダル現象によるものという。先ほどの卵とベーコンの話はこの現象に近そうだが、ところで、Justin Bieberの名曲たちは一体、ヒトの無意識下でどのような感覚の連想を起こして料理が台無しになったのだろうか。

三つ星レストランでは、海鮮料理に波の音を流す

牡蠣

音楽を使い味覚を向上させる動きは、飲食業界に広がりつつある模様。実際に、クロスモーダル現象に目をつけた飲食ビジネスがある。

英国の有名シェフ、Heston Blumenthal 氏は、自身の三つ星高級レストラン「The Fat Duck」にて、音楽を聴きながら食べるメニューを考案。看板メニューのアサリやウニ、カキなどを使ったシーフード料理を提供する際は、貝殻にiPodを隠し、波の音を流し客の味覚を刺激している。

またSpence教授はスターバックスと協力し、コーヒーを味わい深くするため、店内で流すBGM作りに参加している。英国最大の航空会社British Airwaysは、機内食をよりおいしく味わってもらうため、13曲のプレイリストを制作。空の上では味覚が30パーセント低下するらしく、その解決策として音楽を利用するのだという。さらにデンマークのフードデリバリーサービスJust Eatは、料理と一緒にCDを提供することを真剣に考えているとのこと。

「音楽はデジタル調味料のようなものです」

自身の研究結果をふまえSpence教授は、Just Eatのように、顧客の食事体験を向上させるため、「テイクアウトの際にCDをつけると良いのでは」と提案する。ということで、過去に紹介した記事「犬はレゲエでチルする説」同様、筆者の完全なる独断と偏見で、それぞれの料理にマッチするであろうジャンルの曲を勝手に3曲選出。食事の時間はたいてい30分前後なので、いちいち曲を変える手間がないよう、アルバムで選んでみた。

ロック×インド料理
Red Hot Chili Peppersの『By The Way』+タンドリーチキン

レッチリの愛称で親しまれる、米4人組ロックバンドの8枚目のアルバム。現代の世界3大ギタリストの1人で元メンバーのJohn Frusciante色満載の1枚だ。7曲目の『Can’t Stop』が流れたところで、まさに RHCPなスパイス香る激辛タンドリーチキンをヒーヒー言いながら頬張ってみよう。もちろんノンストップでお願いします。

ジャズ×タイ料理
John Coltraneの『A Love Supreme』+パッシーユ

ジャズ界最高のカリスマで、モダンジャズを代表する米サックスプレーヤー。ローリング・ストーン誌が選ぶ『オールタイム・ベストアルバム500』に47位にランクインした、ジャズ史に残る大名盤だ。入りのイントロで醤油が薫る湯気を甲斐甲斐しく吸い込み、しみじみとベースの太麺を噛み締めてみたい。

ポップス×中華料理
Addison Raeの『Obsessed』+青椒肉絲

TikTokフォロワー7,900万人、Forbes誌に「最も高収入なTikTokパーソナリティ」と称されたAddisonのデビューシングル。Ed Sheeranを手がけるプロデューサーが参加していることから、相乗効果で、中華料理とマッチする確率高し? これをBGMにすれば、味濃い目の細切りピーマンと牛肉に、曲のタイトル通り病みつきになるかも。

今回もあくまで個人的な感覚でチョイスした。「味、変わらないよ!」はどうかご勘弁を。ちなみにBGMが大きすぎると味覚が損なわれるらしいので、音量には気をつけて欲しい。音楽アプリやラジオを垂れ流しにするより、試しにおいしく感じられる音楽を選んで食事中に聴いてみよう。

Eyecatch Illustration: Kana Motojima
Words: Yu Takamichi (HEAPS)