「音楽制作のコラボレーションにおいて、“一番苦労すること”を、スッキリ解消する初めてのアプリです」。作曲家にアーティスト、プロデューサーなど、曲に携わった人々のあいだの「所有権」と「お金」の話をスムーズにする、音楽業界人必須のアプリが「Splits®」だ。
避けられない“曲の権利”、“印税”の話を簡単に
バンドや音楽グループの解散やメンバー脱退の理由には「方向性の違い」「モチベーションの欠落」などがある。そして「金銭や著作権に関するいざこざ」というのも、数多くのバンドのゴタゴタを作ってきた。たとえば、サウンドの天才たちが集まり名曲を生み出してきた米バンドThe Eaglesの解雇された元メンバーは、バンドの大部分の曲を書いた主要メンバー二人に対して、「自らの権利が無視された」として、損害賠償を要求する訴訟を起こしたこともある。
音楽という知的財産をめぐる著作権や所有権は、アーティストやプロデューサー、その他制作に関わる人たちにとって、重要でセンシティブな話。金銭が絡むためか、話し合うことに気後れを感じたり、意見の不一致が起こった時のストレスを懸念し、あやふやにしたりすることもあると、多々、聞く。そうして後々、取り返しのつかない不和やいざこざが起こってしまう。
この問題を、皆が毎日触る気軽なアイテム「スマホ」で解決しようとするのが、音楽配信、著作権管理、音楽出版などをおこなう米ロサンゼルスのスタートアップ「Create Music Group, Inc.」だ。通常、曲に対する貢献度に応じた所有権の所在を決めるために音楽出版社が用意する合意書「スプリット・アグリーメント」を作成できるアプリ「 Splits®（スプリッツ®） 」を、昨年リリース。
揉めることも多いであろう所有権の分配を「簡単に、皆が同意できるように」するという、必殺仕分け人なアプリの仕組みを見てみよう。
1.アプリを起動し、新規の合意書を作成する。ここに曲の情報（タイトルや演奏者、演奏時間など）や、自分がどのように携わったか（作曲、作詞、演奏など）を入力。
2.その他、曲に携わったコラボレーターたちの名前とEメールを入力。スマホにすでに登録してある連絡先を使用しての追加もできる。各コラボレーターへの所有権/収益の分配率を選択（平等、3:1、1:3など）する。
3.自動的にコラボレーターたちに合意書が送られる。この条件で同意をする時は「同意」ボタンを押す。もし同意しない場合は、提案することも可能。すべてのコラボレーターたちが同意をすると、Splits®の合意書「Splits Agreement（スプリット・アグリーメント）」が、曲の出版社に送られる。
…という仕組み。先に権利とお金について合意しておきましょうね、みんなが合意したらその合意書を曲の出版社に送りましょうね、というのが、こんなに簡単にできるのか。このプロセスと同時進行で、音楽業界では「split sheet（スプリット・シート）」と呼ばれる、曲に携わった人たちの個人情報や所有権/収益の分配率をまとめたシートを自動作成してくれる。
人気アーティストを手がけるプロデューサーたちも愛用
「僕たち自身、これまで３年ものあいだ、作曲家やアーティストと仕事をしてきましたが、作曲クレジットが曖昧だったり、話がもつれ分配される印税が少なくなるようなケースを何千も見てきました」。同アプリ制作に関わった同社のAlexandre Williams氏はこう話す。
このような状況を、Splits®はどう変えているのだろう。
実際に使用している業界人の声を聞いてみよう。Jaden Smithや2 Chainzなどと一緒に仕事をしてきたこともあるプロデューサーPittThaKidは「場所や時間関係なく手元のスマホから、作曲家たちが曲の出版に関して協議できる。これは、ゲームチェンジャーだ」。
Trippie Reddや Lil Skiesなどを手がけるヒットプロデューサー、GooseTheGuruもこう証言する。「Splits®のようなアプリが過去にあったら、もっと多くのレコードに俺のクレジットを与えることができたのに。このアプリは、作曲家やプロデューサー、アーティストたちがスタジオにいながら所有権について話し合うことを実現し、後々面倒なことにならないようにしてくれる。パワルフなツールだよ」
有名プロデューサーだけでなく「いずれ話し合わなければいけないことになる“曲の権利”について、このアプリを通してナチュラルな会話ができる」という現場の感想や「時間が空いたときに、友だちとビートを作るんだけど、面倒な書類なしに所有権について話し合えるのがとてもいい。音楽でキャリアを積みたい人たちにはすごく役に立つアプリ」という、セミプロの音楽クリエイターの声も。Splits®は、Split（解散）を起こさぬよう、ソングライター、パフォーマーたちの権利を公平にSplitして（分けて）いるようだ（うまいことオチてよかった）。
Eyecatch Illustration: YOHAKU YOKAI ART
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