「どうやったら、いいコネクションを作れるのか」。どの業界のキャリアを目指しても一度は考えることだと思うが、なにより「音楽業界」ではコネクションが物を言う。バンド「Bon Jovi」のジョン・ボン・ジョヴィは、30年ほど前、コネがないなか地元のラジオ局に売り込みに行ったというが、いまはネットという神器がある。そのなかでも「 Vampr 」は、世界中に何十何百万もの音楽コネクションを築いてきたアプリだ。

ベッドルームミュージシャン、テクニシャン、ブロガーも繋がる、繋げる

自分の作った音楽や制作に参加した音楽、売ろうとしている音楽を世に出すには、音楽業界内でのチームワークが必須だ。いくらいい曲であっても、自分のパソコンやベッドルームのなかにとどまっているだけでは、世の中の耳には届かない。

「『誰を知っているのか』『どこを拠点にしているのか』は、多くのベッドルームミュージシャンが次のステップを踏む段階での、大きな足枷となっていました」

その障壁を取り除こうと、オーストラリアのミュージシャンJosh SimonsとBarry Palmerが作ったのが音楽ネットワークアプリ「Vampr」。通称「ミュージシャンのためのLinkedIn*」。音楽制作や演奏に自身のコネクションの有無や住んでいる場所なんて関係ない、というスタンスで、マッチングアプリのように「スワイプ」で繋がっていく。

*世界最大級のビジネス特化型SNSで、自らのアカウントに履歴書や職務経験を投稿し、キャリア目的でさまざまな人々と繋がっていく仕組み。

Vamprバナー

2015年にロサンゼルスでローンチされて以来、世界198ヶ国に60万人のユーザーと600万以上のコネクションを作ってきたというVampr(コネクション数は、同アプリ公式ウェブサイトで更新中。数秒に1コネクションがカウントされている。マッチング数と同期させているのか?それにしても3、4秒ごとに1コネクション増える等間隔さ、平均なのか? 謎は残る)。

コネクション誕生の流れをこんな感じだ。それぞれ、名前や性別、拠点地などの基本情報を入れてアカウント作成開始。自身の音楽スキルを選択肢(5つまで可能)するのだが、その種類が多岐にわたる。アコーディオン奏者やチェリスト、ドラマーなどのミュージシャン項目があり、ダンサーやバックボーカルなどの共演者、加えてミュージシャンを支えるテクニシャン(ギター、照明テクニシャン、ライブモニターエンジニア)やライブに欠かせないツアーマネージャーやローディー、さらに、音楽を記録するフォトグラファーやビデオグラファー、作品を世に送るエージェントまでの項目があるなど、業界全体の職種を網羅。また、ブロガーやインフルエンサー枠もあり、ネット世代の影響力を持つポジションも含めていることが興味深い。個人的には、トライアングル奏者、ウェディングバンド、そしてディジュリドゥ(オーストラリア大陸の先住民アボリジニの金管楽器)奏者という詳細な選択肢に、高い専門性を感じた。

Vamprのスマートフォン画面

その後、自身の専門の音楽ジャンルを3つ選択し、写真をアップロードする。自身のYouTubeやSoundCloudのリンクを掲載することも可能だ。プロフィールが完成したら、スワイプをしてコネクション作りを開始。繋がりたい人を右スワイプし、マッチングしたらDMで会話をすることができる。自身の進行中のプロジェクトについて話したり、バンド加入のオーディションについて持ちかけたり。

昨年には「曲の出版」機能も追加した。アーティストたちは無料で自分の曲を提出、それらの曲がCMや映画、テレビ、ビデオゲームでの使用曲として選考対象となる。晴れて選考された場合は、75パーセントの印税がアーティストに支払われる仕組みだ。

Vamprのスマートフォン画面

「すべてはコネクションから始まりました」

Vampr由来のコネクションでステップアップした、音楽業界人たちの実際の声を聞いてみよう。

・スコットランドのミュージシャンAlex Avaは、Vamprで知り合った米フロリダ州・オーランドのプロデューサーVncnzoとタッグを組み、EP制作に取り掛かっている。

・スペイン・マドリッドのバンドK!NGDOMは、Vamprで知り合ったミュージシャンたちで結成。出版機能を通して提出した曲が、2本のNetflixシリーズのテーマソングに抜擢された。

・グラミー賞受賞者でもあるヒップホップ界のレジェンド・プロデューサー、Anthony Kilhofferは、ストリングスアレンジ(弦楽器による伴奏を絡めた編曲)ができるタレントをVamprを使って探した。

「It all starts with a connection.(すべてはコネクションから始まりました)」というVamprの自負、コネクション誕生の謎カウントに首をかしげたが、600万以上のコネクションはあながち誇張ではないのかもしれない。

Eyecatch Illustration: YOHAKU YOKAI ART
Images via Vampr
Words HEAPS