アナログ製品を選ぶ際、どのようなポイントをチェックしていますか?製品のカタログやウェブページには、必ず「スペック(テクニカルデータ)」が記載されていますが、並んだ項目や数値の意味がわからず、戸惑った経験がある方も多いのではないでしょうか。そこで、オーディオライターの炭山アキラさんが、意外と知らない「スペック」の読み方をカテゴリ別に詳しく解説していただきました。

今回は「プリアンプ編」。アンプのカタログを読み解く際、プリアンプ、パワーアンプ、プリメインアンプの選択が必要ですが、プリアンプとパワーアンプを理解しておけば、プリメインアンプのほとんどの項目も把握できます。そこで、プリアンプとパワーアンプの代表的な項目を中心に説明していきます。

目次
入力感度/インピーダンス
定格出力/インピーダンス
SN比
周波数特性
ゲイン
クロストーク
チャンネルセパレーション
ラウドネス

入力感度/インピーダンス

ボリュームをいっぱいまで上げた時に、アンプが安定して出力できる最大の電力量である定格出力の値が出られる入力電圧と、各端子ごとの受けインピーダンス(電気抵抗)の値です。

入力感度/インピーダンス

一般にLINEでは200~500mV程度が多く、インピーダンスは10~50kΩ近辺が普通です。

現在主流となっているLINE系においては、読み飛ばしてしまってもさほど大きな影響のないデータですが、フォノイコライザーが内蔵されたアンプでは、この値は要注目のポイントになります。MMのみの対応か、MM/MCともに対応かが一目で分かるのはもちろん、MCは負荷インピーダンスの値を読むことで、公称インピーダンスがどれくらいのMCカートリッジを得意とするか、おぼろげに見えてきたりもするものです。もっとも、よほど特殊なカートリッジでない限り、アンプ内蔵フォノイコライザーは一定以上の実力を発揮するよう設定されているものではありますが。

定格出力/インピーダンス

アンプが正常に出力できる最大の電圧と、その信号を受け取る機器の抵抗値を示す数値。

ここでいう定格出力は、パワーアンプやプリメインアンプの「定格出力(電力)」と違って、こちらはプリアウトの出力(電圧)を示す値です。いろいろな社のプリアンプを見比べてみると、1~2V程度が多いようですね。

出力インピーダンスは、パワーアンプ側の受けインピーダンスが普通10kΩ以上で、それより十分に低ければ回路的には問題ありません。それでも現代の高級プリアンプは30~100Ω程度と、割合低い出力インピーダンスを持つようです。

もっとも、かつては出力インピーダンスが一桁だったり、時に1Ωを切るようなプリアンプも存在し、「プリアウトでスピーカーが鳴らせる」と驚嘆の声が挙がったものです。確かにそういうプリアンプには、他をもって代え難いパワーや風格を感じさせるものが多かったように記憶しています。

しかし、そこまで物量を投じて出力インピーダンスを下げると、そのため回路内に発熱が増えるなどの副作用も引き起こしますから、現代のプリアンプは無理をしない範囲で十分に低いインピーダンスを設定しているものと推測しています。

SN比

S/N比、S/Nなどとも表記されます。Signal to Noise Ratioの略です。再生している音源の必要な音楽信号(Signal)と不要な雑音(Noise)とのレベルの比を示す値です。単位はデシベル(dB)で表わし、数値が大きいほどノイズの影響を受けにくく、性能が良いといえます。

多くの場合、マイクロホンの項で解説した「A特性」の測定信号を定格の値まで出力した時の音の大きさと、残留ノイズとの比を表した数値となります。

知っていそうで意外に知らない『スペック』の読み方:マイク編

周波数特性

アンプが出力できる周波数(音域)の範囲。単位はヘルツ(Hz)で表されます。


「再生周波数帯域」と呼ぶ社もあるようですね。読んで字のごとく、そのアンプが再生できる周波数の幅広さを表す値ですが、これには2つの種類があります。一つは絶対的な周波数範囲の広さ、もう一つは人間の耳に聴こえる20Hz~20kHzの幅の中で、どれくらい周波数がフラットかを表すものです。

ある高級プリアンプのデータを参照してみると、前者は3Hz~200kHzで+0、-3dBという測定条件が付されています。一方後者は20Hz~20kHzで+0、-0.2dBといいますから、よく測定できるな、という、ほぼフラットといってよいくらいのレベルです。

ゲイン

カートリッジから送られてきた音楽信号を増幅するもので、その増幅率のこと。

CDプレーヤーはLINEレベルの出力電圧を持つから、出力ボリュームがついていればパワーアンプ直結で使うことができる。こういう論が盛んになって、CDがデビューしてから何年かは「プリアンプ不要論」を唱える人が少なくなかったものです。あるオーディオ評論家は、業務用の高級フェーダー(縦にスライドする可変抵抗器)をお使いになっていたことが印象に残ります。

しかし、CDプレーヤーが定格出力で250mV程度、ピークの16ビットをフルに出力した時でも2V(後に2.5V出力の製品も登場します)です。一方のプリアンプは定格で2V程度は出力しますから、かなり出力電圧の大きさが違います。つまり、プリアンプの中でも音楽信号は増幅されているのですね。その増幅率を「ゲイン」といいます。

当時のスピーカーは、現代の一般的なものと比べて能率が10倍ほど高いものもありました。だからフェーダーで必要十分だったのでしょうけれど、高能率スピーカーが本当に少なくなってしまった現代は、やはりしっかりとプリアンプを加えてやらなければ、スピーカーを鳴らし切れない例も増えてしまうのではないか、と考えられます。

一般的なプリアンプのゲインは15~20dB程度のものが多いようです。中にはゲインの切り替えスイッチが設けられているプリアンプもあり、私が使っている個体は12dB/18dB/24dBに切り替えが可能です。

クロストーク

他の機器が再生する音が、再生中の機器の音に漏れ出すことを表します。


BGM代わりにサブスクやネットラジオなどで音楽を流し続けるストリーマーなどは、アンプへつなぎっ放しになっているのが普通でしょう。ということは、電源が入っていれば常にアンプへ音声信号が送り出されているわけで、他の機器で音楽を聴いている時もセレクターで遮られているだけ、ということになります。昔の廉価なアンプでは、特に増幅率の大きなレコードの音楽へそれらの信号がごく僅かに紛れ込み、曲間の無音部などで別の音楽が薄っすら聴こえたりして、幻滅することがありました。

昔のオーディオでは、それこそ24時間音声信号が流れっ放しのFMチューナーがつながっていることが多かったものですから、こういう事故が少なくなかったものですが、今はそう気にすることはないのかもしれませんね。また、昔に比べて現代のアンプの方がクロストーク自体が少なくなっているようにも感じられます。

それでも愛用のステレオでそういう事例に当たったら、少なくとも音楽信号をアンプへ入力するソース機器は、今使っているものを除いて電源を落とすのが正解でしょうね。

過去に私が知るオーディオ評論家で、ソース機器を交換するたびに機材の裏へ回り、ケーブルを抜き差ししてCDプレーヤーならCDプレーヤー、カセットデッキならカセットデッキと、それ1台以外はプリアンプへつながないようになさっている方がいました。クロストークの問題だけではありませんが、それで何台もプリアンプへつなぎっ放しにするより、大幅に音質が向上するとおっしゃっていたことを今も覚えています。私自身は、そこまでストイックにできていませんけれどね。

チャンネルセパレーション

左右の音楽信号がどれくらいしっかりと独立しているか、混じり合っていないかを表す数値。


クロストークは他の機器との干渉ですが、こちらは左右チャンネル相互に他のチャンネルの信号がどれくらい漏れ出さないようにできているか、という指標です。

高級なセパレートアンプでは、モノラルのパワーアンプを2台使うことが珍しくありませんし、プリアンプでもモノラル×2台という構成でボリュームなどの操作系を連動させたものを見かけることがあります。パワーアンプは絶対的な駆動力を高めるためという意味合いも大きいものですが、チャンネルセパレーションを高めるためという意義も少なくありません。左右を2台に分けてしまえば、混じり合うことは原理的にありませんからね。

もっとも、ステレオが1台に収まったアンプであっても、少なくともちゃんとしたメーカーの製品であるならば、チャンネルセパレーションを気にせねばならないレベルの機器は見当たりませんから、あまり気にすることはないでしょう。前述のモノラル構成セパレートアンプは、飛び切り高度な世界で山頂までのあと数歩、という領域のお話です。

ラウドネス

音量が小さいときに主に低音を強調するための機能。


小音量で音楽を再生していると、低音があまり聴こえなくなったように感じます。これは人間の耳が持つ特性で、音が小さくなるほど低音方向と僅かに高音も聴こえにくくなるものです。

それを補正するのがラウドネス・スイッチです。大半のアンプでは低音のみブーストする機能で、200~300Hzくらいから低音が持ち上がり始め、100Hzで6~8dBくらい音量が上がるように作られているものが多いようです。

高級な多機能プリアンプの中には、2~3段階に効果が調節できるラウドネスが搭載されているものも存在します。

Words:Akira Sumiyama

SNS SHARE