オーディオテクニカが誇るフラッグシップ完全ワイヤレスイヤホン『ATH-TWX9MK2』。独自の高感度ドライバーによる妥協のない音質と、進化したノイズキャンセリングシステム、そしてシンプルで洗練されたデザインは、熱心な音楽リスナーの間でも期待が高まっている。
その機能美を映像として際立たせたのが、映像ディレクター・福村昌平。CMプロダクションを経て、独学と現場経験を積み重ね、広告映像やドキュメンタリー、ミュージックビデオなど幅広い作品を手がけてきた。
本インタビューでは、音を可視化する感覚で臨んだ『ATH-TWX9MK2』の映像に込めた思い、さらには日々の暮らしの中で音や音楽をどうとらえているかまで語ってもらった。

「音への入り口」として、細部までこだわり抜かれたATH-TWX9MK2
今回のワイヤレスイヤホンATH-TWX9MK2を使ってみた印象から教えてください。前回のモデルから引き続き映像を手がけられたからこそ思われることもあるのでは?
中音域から高音域の表現がとても立体的だと感じました。ただ低音を強調して迫力を出すのではなく、全体のバランスの中で細部まで大切にされているなと。
低音を押し出すことで他の音域が犠牲になることもありますが、ATH-TWX9シリーズは一つひとつの音がきちんと浮かび上がってくる印象です。そこには聴く人に対し、作り手のこだわりを丁寧に届けようとするオーディオテクニカさんの真摯な姿勢を感じますね。

映像制作にあたり、最初にどのようなイメージを持たれましたか?
今回のATH-TWX9MK2も前回のモデル同様に、フラッグシップであるという点は変わらないので、その品格や象徴性を映像でしっかり担保したいなと。しかも今回は、黒と白のカラーバリエーションがあったので、そこをビジュアルの軸に据えようと思いました。
オーディオテクニカさんは、60年以上にわたって「音」と向き合い「音の入り口と出口の総合メーカー」を目指してきました。そのことを最大限尊重して、「音と向き合う」「音を可視化する」といった要素を今回の映像でも意識して取り入れています。
具体的には、どういった演出でその感覚を表現されたのでしょうか?
たとえば、映像として「手触りのある音」「心動かす音」というテーマと、音を可視化したようなビジュアルから始まり、イヤホンの中の世界から外の世界へ展開していくストーリーは、プロダクトに対して、オーディオテクニカさんの音へのこだわりや姿勢を伝えるための表現として演出しました。
フラッグシップの製品として、ブランドの姿勢や想いを伝えた上で、機能性を見せていく、という流れを意識しています。そのほか、静寂(ノイズキャンセリング)、通話のクリアさ(ビームフォーミングマイク)などの機能を映像として見せる手法は、映像全体のトーンを統一していくために、できるだけシンプルで感覚的に伝わるように意識しています。
自然光に近い光を耳元に落とすことで、屋外の空気感や世界観を感じさせる演出も印象的でした。
ありがとうございます。このイヤホン一つで、「より純粋に音の世界に入っていってほしい」という思いを映像に込めています。
今回、より意識したのは「進化したプロダクトそのものに音楽を寄せていく」ということでした。最新のテクノロジーや、前作からのアップグレードが随所に感じられる製品なので、このプロダクトの持つ「テクノロジーの結晶」としての側面と音楽そのものがナチュラルにリンクするように思えたんです。そこは、前作とは違うアプローチでしたね。
実際に触れただけでは気づけない、プロダクトの魅力を映像にする
映像という表現手法において、福村さんが意識しているのはどんなことでしょうか。
ドキュメンタリーの現場で「人を撮る」仕事をしていた影響も大きいのですが、自分にとって表現とは、内側から湧き出るものというより、外の世界をどう見るか、そこに何を見出すかということのほうが重要です。
自分の内面だけを撮っても、何も映し出せないんですよね。どこに自分の視点を置くか、自分が何に反応するかが大事なのだと思っています。それは商業的な映像を手がける場合でも変わりません。

福村さんの作品は、音も映像と同じくらい重視されている印象があります。音の使い方については、どのようにお考えですか?
映像と音の関係は難しくて、僕自身、毎回悩むポイントでもありますね。音楽は、本能に直接届くような、非常に直感的な力を持っていると思います。さらに映像と組み合わせることで、人の感情をわかりやすく煽ったり、泣かせたり、動かしたりすることもできる。それだけに、パターンを踏襲すれば簡単にできてしまう側面もあります。
「映像にぴったり寄り添いすぎる音楽」はどこか安直な印象だし、過剰に感情を誘導してしまう危険すらある。かといって、「そうではない音の付け方とは何か?」と考えると、それもまた簡単ではない。
だからこそ、どこで見る人の注意を引き、どのタイミングで次のシークエンスへと流れていくか——その構成的なリズムの設計は、音との関係の中でも非常に重要なポイントだと考えています。
製品を紹介するCM映像などにおいて、「見せ方」という点で共通して意識していることや、ご自身のこだわりはありますか?
「かっこよく撮る」「美しく見せる」だけではなく、その背後にある設計思想や作り手の想いまで含めて、どう伝えるか。その製品がなぜこのかたちになっているのか、どんなこだわりが詰まっているのか——実際に触れただけでは気づけない、本質的な魅力を映像でどう表現するかが重要だと思っています。
ATH-TWX9MK2の真価は、非日常の体験を「日常」にすること
福村さんは、普段の生活の中で「音楽」とどう向き合っていますか?
最近よく聴くのは、LUCAさんというシンガーソングライターです。そういった自分の好きなアーティストの楽曲をATH-TWX9MK2のように良い音響機器で聴いていると、「ここで歌っているみたいだな」と思える瞬間があるじゃないですか。
まるでライブハウスへ足を運び、直接その音楽に触れているような……そんな非日常感を味わえる。良い音にこだわることは、そういった非日常の体験を、好きな時に日常へ取り込むことができることだと思うんです。

ハイスペックな機器を追い求め、マニアックに突き詰めることも楽しいとは思いますけど、僕の場合、いつもの音楽が、ちょっとだけ豊かに感じられる瞬間を求めているのだと思いますね。
今回の製品ATH-TWX9MK2は、「高級感」や「贅沢さ」を感じる一方で、価格帯は一般的には少し悩むラインです。その点についてはどう思われますか?
確かに人によっては「高い」と感じるかもしれません。でも、それは単なる製品の値段ではなくて、この製品を通して触れることができる世界の価値だと思うんです。音楽の世界を、より深く、より豊かに感じられる体験があるとしたら、それは決して高くはないと思います。
音楽が好きな人にとっては、その価値を直感的に理解していると思うんです。そうでない人にとっても、この製品は「音楽なんて聴ければいい」と思っていた価値観の先に、まったく別の景色が広がっていることに気づかせてくれるかもしれない。そう考えると、この価格にはそれだけの意味があると思います。

確かに、そういう考え方もできますよね。
これは単なる「聴く」道具というより、「新しい世界が見える」体験装置のように感じました。音が景色を変えていくというか、音を通して世界の輪郭を浮かび上がらせるような感覚。
アーティストやメーカーの想いに触れることで、音楽がただの「音」ではなく、「風景」になっていく。そういう新しい音との出会いが、新しい景色を見せてくれる。それは本当に豊かで、贅沢なことだと思います。

福村昌平
東京を拠点に活動する映像監督。ドキュメンタリーをバックグラウンドに持ち、テレビCMやウェブ映像、ミュージックビデオ、など幅広く活動中。レンズを通して本質を描写し、ストーリーを描くことを演出の心情とする。2020年より、パリを拠点にする海外プロダクション「Make it So」に所属。東京を拠点に、国外での活動も開始する。
Words:Takanori Kuroda
Photos: N A ï V E
Edit:Shoichi Yamamoto