Face Recordsからのおすすめレコードを毎月お届け。今日、レコードは音楽を楽しむ媒体としてその価値が確立されてきていますが、レコードジャケットをアートとして鑑賞するという人も増えています。
今回は、2025年9月15日から30日まで東京・代官山の蔦屋書店にて開催される『横尾忠則のレコードジャケットの世界 ― アートピースとして出会う展示販売会 ―』より、日本のポップアートをリードした美術家・横尾忠則がデザインしたレコードの一部をFace Recordsの藍隆幸さんがご紹介します。
時代によって変わる横尾忠則のアートの魅力
パブロ・ピカソ(Pablo Picasso)、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)、マイルス・デイビス(Miles Davis)、ビートルズ(The Beatles)など、巨匠と呼ばれる多くのアーティストが生み出す作品からは革新性を伴った変化が見られる特長があります。
横尾忠則のアートは、1960年代前半の職業デザイナー期、1960年代後半のポップアート期、1970年代のスピリチュアル期、1980年代以降の画家宣言期……と、時代によってその作風が大きく異なりますが、その中でも日本のポップアートを革命的に切り開いた時代のデザインが特長的なレコ―ドを中心にその魅力をご紹介します。横尾忠則のジャケットアートは、単なる音楽パッケージではなく、時代の熱気や精神性を帯びた “表現” そのものです。
横尾忠則 アートの表現遍歴
1960年代:グラフィックデザイナーとして活動。ポップでサイケなビジュアル表現。
1970年代:精神性に傾倒。写真のコラージュや象徴的モチーフが台頭。
1980年以降:「画家宣言」を機に絵画制作へ本格移行。
2000年代〜現在:「Y字路」などの定点テーマを継続。形式よりも “内的世界” に比重。
村岡実『緋牡丹博徒 ~尺八による日本侠客伝~』(1969年)

任侠映画の雰囲気をシルクスクリーン調で表した初期の傑作です。
一柳慧『オペラ横尾忠則を歌う』(1969年)


現代音楽家の一柳慧と横尾忠則がニューヨークで出会って製作された作品です。任侠映画の雰囲気をシルクスクリーン調で表されています。見開きのジャケットの中やピクチャーディスクの盤面にもアートが展開されている非常に美術的価値の高いレコードです。
志摩あい『天使のいたずら』(1969年)

一見するとコラージュには見えませんが、写真に花や風景を溶け込ませ、歌謡的ロマンと夢幻性を漂わせている、シングル盤ジャケットに展開されるコラージュ作品です。
高倉健『デラックス 第二集』(1969年)

ポップアート期に浮世絵的線描とシルクスクリーン的手法で硬派な高倉健像を再構築した作品です。任侠スターを美術へと昇華した横尾忠則の独創的なポートレートだと感じます。
坂本スミ子『おすみとボサノバ』(1969年)

この作品も『天使のいたずら』と同様、コラージュには見えませんが、よく見るととても不思議な印象を受けるコラージュ作品です。メキシコかどこか、南米の遺跡らしき風景に人物やを不死鳥などのモチーフを溶け込ませた、日常と異界の境界を揺るがす作風を感じます。
Santana『Lotus』(1974年)


絶頂期にあったアメリカのラテンロックバンド、サンタナ(Santana)が1973年に初来日した際に繰り広げられたライブをレコード化したのがこの『Lotus(邦題:ロータスの伝説)』です。
横尾忠則デザインによる22面体のレコードジャケットは、音楽とアートの融合という視点において、日本の音楽史に大きな足跡を残しました。『Lotus』が1974年にリリースされてから既に50年以上が経っていますが、22面体に展開してジャケットを鑑賞すると毎回新鮮な発見に出会えます。
藤竜也『茅ヶ崎心中』(1975年)

浮世絵的な線描と現代的モチーフが融合して、異色のポップアート感を与えるシングル盤ジャケットの作品です。
郷ひろみ『スーパー・ドライブ』(1979年)

ニューヨークの街並みに人物を重ね、都会的な疾走感と80年代的ポップセンスが強調されたデザインです。郷ひろみのシティポップセンスが溢れる楽曲が収録されています。
Gastunk『Under The Sun』(1979年)

作品名は「黄色い死者 」。1980年代から活躍している日本のハードコアパンクバンド、Gastunkのジャケットを飾った80年代の傑作です。
アートピースとして出会うレコード・ジャケット
Face Recordsは、音楽とアートの交差点としての “レコードジャケット” に着目し、長年にわたりその芸術的価値を掘り下げてきました。特に横尾忠則は、1960年代から現在に至るまで、グラフィック、写真、コラージュ、絵画を横断しながら、日本のアートと音楽カルチャーを視覚面から牽引してきた存在です。
Face Recordsが国内外で収集・研究してきた100点超のコレクションから厳選した作品の展示販売会を2025年9月15日から30日まで開催します。横尾作品が持つ視覚的エネルギーと時代を象徴するアートな魅力を再発見していただける貴重な機会です。
横尾忠則のレコードジャケットの世界
― アートピースとして出会う展示販売会 ―
会期:2025年9月15日(月・祝)~9月30日(火)
時間:11:00~22:00
会場:代官山 蔦屋書店(2号館2階 Anjin)
※入場無料
※24日、25日は終日貸切イベントのため本企画は一時休止となります。
特別トークイベント
会期中の2025年9月18日(木)には、「横尾忠則とレコードジャケットの魅力」をテーマにしたトークイベントを開催します。
開催日時:2025年9月18日(木)19:00~20:00
場所:代官山 蔦屋書店(1号館2階 音楽フロア)
※蔦屋書店内の別の会場に変更される可能性があります。当日スタッフまでご確認ください。
登壇者:浅見英治氏(株式会社トゥーヴァージンズ 編集部 編集長)、松房慶太氏(藤原印刷株式会社 営業・印刷進行)、武井進一(FTF株式会社 取締役会長)
参加方法:参加費無料、事前予約不要
※混雑状況により入場の制限をさせていただく場合がございます。
Face Records
”MUSIC GO ROUND 音楽は巡る” という指針を掲げ、国内外で集めた名盤レコードからコレクターが探しているレアアイテムまで、様々なジャンル/ラインナップをセレクトし、販売/買取展開している中古盤中心のアナログレコード専門店。 1994年に創業し、現在は東京都内に2店舗、札幌、名古屋、京都、福岡に各1店舗、ニューヨークに1店舗を展開。 廃棄レコードゼロを目指した買取サービスも行っている。
Words: Takayuki Ai