歌がうまくなりたい。そう思う人は多いけれど、実は歌い方にも “トレンド” があるという。ビブラートのかけ方、抑揚のつけ方、声の抜き方──。かつては正解だった表現が、今は「古い」と感じられることも。

ボーカルトレーナーの宮本美季に、歌が上達するための基本的な練習法はもちろん、今っぽいと感じさせる最新の歌唱テクニック、自分の声質に合う選曲のコツなどについて聞いた。

音楽の聴き方の変化が、歌い方にも変化を及ぼしていた

最近、カラオケに一緒に行った年下の友人に「歌い方がなんか古い」と言われてしまいました……。そもそも歌唱法にトレンドはあるのでしょうか?

昭和から平成は、演歌並みにビブラートをかけながら、音の曲線を活かして歌う「ウェットな歌い方」が主流でした。私自身、若い頃はこれが当たり前だと思っていましたが、今聞き返すと「ちょっと味が濃いな」と感じるほどです。

一方、現代の音楽シーンで求められているのは「ドライな歌い方」。ビブラートを極力控えて、音を突き放すように歌うアプローチです。シーア(Sia)、ケイティ・ペリー(Katy Perry)、エド・シーラン(Ed Sheeran)、ジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)といった海外のトップアーティストは、ほぼビブラートをかけていません。

なぜ歌い方が変わったのでしょう?

音楽リスナーの「温度感」が変わったからだと思います。昔は、深く濃く、特定のアーティストにハマり込む「コアなリスナー」が多かった。楽曲も音楽的にさまざまなアレンジを加えたり、サビを繰り返すなどして1曲を長く聴かせる傾向にありました。こういった楽曲を好む熱心なリスナーに届けるために、歌い方も強いビブラートや、うねりのある表現が選ばれていたのです。

一方、現代は様々な曲を「広く浅く」聴くリスナーが増えている傾向にあります。楽曲も構成がシンプルで曲の展開が早く、とても聴きやすくなっている。このような楽曲を好むオーディエンスに寄り添った結果、圧をあまりかけずに聴きやすく、誰でもすっと入れるような歌い方へシフトしたのだと思います

今回、取材に参加したスタッフのT(男性)とM(女性)は「声量がない」、「高音が出ない」など、好きな歌が上手く歌えない悩みがあります。

歌いたい曲と歌える曲は違います。そこをまず知ることがすごく大事。Tさんはジェントルで優しい声の持ち主ですが、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの「リライト」など、強く歌う楽曲に憧れがあるため、上手く歌えず「下手だ」と思い込んでしまいます。でもそれは誤解。Tさんには徳永英明や山崎まさよし、サカナクションなどオーガニックな感じの声の歌が合うと思います。

Mさんはglobeが好きとのことですが、全体的に声が薄いので、ハリの強い原曲に寄せると負けてしまいます。小室哲哉さんが手がけた楽曲は音域が高すぎるので、当時もほとんどの女子があっぷあっぷの状態で歌っていたと思います(笑)。

柔らかく透明感のある声の持ち主なので、例えば中島美嘉さんの「雪の華」のような曲が歌えると感じました。歌の世界観とも合う声質だと思います。

自分の声に合う楽曲を見つけるコツは?

食わず嫌いをせずいろんなジャンルを聴いてみましょう。鼻歌でもいいのでとにかくマネをしてみて、気持ちいいと感じる曲を見つけてみてください。キーを調整するのももちろん構いません。

音程やテンポを変えたり、ボーカル音を小さくすることができる「Moises」や「ハヤえもん」という音楽アプリもあるので、自分にぴったりのキーを探してみるのもいいと思います。

とにかく歌に大切なのはエクスタシー! 歌っていて気持ちいいと思うと、幸せホルモンのセロトニンが出てきて楽しくなるんです。そこに歌心が乗っかることで初めて聴く人の心を打つ歌になるんです。

今っぽい歌い方のコツは、ビブラートとフレージング

ご紹介いただいたアーティストの楽曲は昭和・平成の歌です。原曲をそのままマネすると古く聴こえてしまいそうですが、「今っぽく」歌うためのコツはありますか?

ビブラートを控えて、フレージングを繋げることです。この2つが揃うと、聴いている人は「今っぽい」と感じます。昔の歌い方と今の歌い方を、「雪の華」で比較してみましょう。

【古く聴こえる歌い方】

各フレーズの終わりで「あーあーあーあー」とビブラートをかけながら、うねりのある音の曲線を表現します。

【今っぽい歌い方】

ビブラートを完全に取り除き、音を突き放すようにストレートに歌います。音が切れないまま、横に流れていくような感覚で歌うのです。

古く聴こえていた理由はビブラートだったのですね。

ボーカルトレーナーとして「タイプロ(timelesz project)」に参加した際も、「あ、この子はちょっとオールドスタイルで歌うな」とか、「この子は今っぽいな」ということが聴くと大体わかる。これは個人の好みや、どちらが良い・悪いという意味ではなく、音楽業界全体のトレンドになっています。

もうひとつのポイントの「フレージングを繋げる」とはどういう意味ですか?

言葉を一音ずつ切らずに、ワンフレーズとして繋げることです。これが洋楽的なアプローチ。日本人が陥りやすい失敗例を、徳永英明さんが小林明子さんの楽曲をカバーした「恋に落ちて-Fall in love-」のサビで実践してみましょう。

【日本語的な切る歌い方】

「もしも願いが / かなうなら」

このように言葉の切れ目で音を区切ってしまうと、少し堅い印象を与えてしまいます。 

【洋楽的な繋げる歌い方】

「もしも願いがかなうなら」

一方、ワンフレーズとして繋げることで、歌に流れが生まれます。日本語的な歌い方から洋楽的フレージングに変えた瞬間、聴き手は「あ、この人歌い方変わった。上手くなった」と感じるほどの差が出るんです。

なぜ日本人は言葉を切ってしまうのですか?

日本語と英語の母音構造が根本的に異なるからです。日本語は全ての母音にストレスがかかります。だから「か、き、く、け、こ、さ、し、す、せ、そ、た、ち、つ、て、と」など、全てがストレス母音です。結果として、音がキャベツの千切りみたいにバリバリと切れていくんです。

一方、英語には「ストレス母音とノンストレス母音」という 2 種類があります。例えば「Never」の「ver」は、日本語にすると「ネバー」になりますが、英語だと「Ne」がストレス母音で「ver」がノンストレス母音なので、「ver」で力を抜くことができる。

このストレス母音とノンストレス母音の組み合わせによって、英語は音の切れ目がないままフレージングしていくので、ものすごく音楽的になるんです。

私は以前、HYBE LABELS JAPANでボイストレーナーを務めていましたが、練習曲にアメリカのビルボードのチャート曲をよく使っていました。洋楽の歌い方を完コピすることで、音楽性がグンと引き上がりました。K-POPがこれほど発展した要因のひとつは、洋楽の歌い方に着目したことだと思います。

そんな背景があったんですね! ちなみに「今っぽい」歌い方には、他にどんなテクニックがありますか?

ハスキーにかすれさせる「フライ」というテクニックがあります。これは、声帯を軽く圧着させながら、わざと声をかすれさせるテクニックです。

「雪の華」で示すと、特定の音(サビの強調箇所など)で、「あーっ」という音を引っ掛けるようにハスキーさを加えると、「あ、今っぽいなぁ」という印象になるのです。 

声は楽器。楽器を整える基礎トレーニング

では、歌う前にするべき基礎トレーニングを教えてください。

毎日10分程度、以下の3つのトレーニングを行ってみましょう。カラオケに行く前に実践するのもおすすめです。

【 1:ブレスコントロール】

歯と歯の間から「スー」と一定の圧で息を吐き出す練習です。最初は 20秒を目安に、吐き始めから吐き終わりまで同じ圧を保つことが目標。

体の力を抜き、背中を広げるようなイメージで息を吸い、ヘソの下の丹田に全体の重力をすとんと預けましょう。息を吸ったことで下がった横隔膜を、インナーマッスルを意識しながら一定の速度で上げていくイメージです。

これはアスリートがする体幹トレーニングのようなもの。体が「歌いますモード」に切り替わり、安定感のある歌唱が可能になります。

【 2:リップロール】

唇を震わせながら音階を踏む練習です。ブレスコントロールと同じ圧で息を吐き、表情筋をリラックスさせながら、音域をまたぐ感覚を身につけます。最初は高音が出なくても、練習を重ねて到達できる幅を広げることで、音を出す成功体験を積み重ねることができます。

頬を指で優しく押し上げるとやりやすいですし、力んで奥歯を噛み締めてしまう人は、鼻をつまんだ状態で挑戦してみてください。声帯の可動域が広がると、息を吐きすぎて喉で歌うオーバーブローがなくなり、これまで以上に省エネで歌を歌うことができます。

【 3:地声と裏声をシームレスに繋げる】

チェストボイス(地声)からヘッドボイス(裏声)へ自然に移行し、再びチェストボイスに戻る練習です。この移行を何度も繰り返すことで、音域をシームレスに繋げることができ、「今っぽい」ドライな歌い方の基盤が作られます。

今回のレッスンで歌い方にもトレンドがあることがわかりましたが、昔の歌い方は、今すぐやめた方がいいのでしょうか?

そんなことはありません。表現として正解・不正解はありません。もしも80年代や90年代の音楽が心から好きなら、その時代の歌い方を学ぶことも価値があります。

ただし現代の音楽シーンで活躍したい、あるいは現代の聴き手に支持されたいなら、「今っぽい」歌唱テクニックの習得は避けられません。重要なのは、両方のアプローチを理解し、その時々の表現意図に合わせて使い分ける柔軟性です。これが真の「歌の上手さ」につながると思います。

そのためにまず、練習あるのみですね。

その通りです。ボーカルトレーナーとして私が実践しているのは、楽器を整える作業。つまり歌い手の声という楽器を整えてスタイリングしているんです。

私たちの声はピアノのように毎回同じ音が出る楽器とは違います。昨日出た音色が今日出ないこともよくあること。特に声帯は普段、思っている以上に仕事をしていません。さらに日本人は表情筋が硬く、楽器のポテンシャルを15〜20%程度しか使えていないのが実情です。

だからこそ、発声練習をして楽器を整えることはとても重要なんです。カラオケで歌う場合でも、自分の楽器をよく知り、チャームポイントを生かした歌をぜひ見つけてみてくださいね。

宮本美季

バークリー音楽院を卒業後、アメリカでの音楽活動を経て帰国。テレビ東京系『THEカラオケ☆バトル』で立て続けに優勝し、その圧倒的な歌唱力と卓越した表現力で大きな注目を集める。
近年はボーカルトレーナーとしても活動の幅を広げ、ミュージカル『RENT』『ムーラン・ルージュ!』などの歌唱指導や新人育成に尽力。『timelesz project -AUDITION-(タイプロ)』ではボーカルトレーナーとして出演し、高い評価を得た。
また、自身のオンラインサロン『宮本式ボイトレ道場』も好評を博しており、現在第5期生を3月31日まで募集している。

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Words & Edit:Kozue Matsuyama
Photos & Video : Soichi Isida

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