長年にわたり愛好家のあいだで議論され続けてきた、科学的説明と主観的聴感のあいだに横たわる ”オーディオ神話” 。

今回は、エージングは音楽で進めないといけないのか、ケーブルにエージングは必要か、そして重りやチップ、アルミホイルを使うことで本当に音が良くなるのか――この5つの神話について、オーディオライター・炭山アキラさんの見解をご紹介します。

目次
機器のエージングは、音楽で進めないといけない?
ケーブルにもエージングは必要?
アンプの上に重りを置くと音が良くなる?
オーディオ機器に小さなチップを貼り付けると、音が良くなる?
スピーカーにアルミ箔を貼ると、音が良くなる?

機器のエージングは、音楽で進めないといけない?

プレーヤーでもカートリッジでもアンプでもスピーカーでも、買ってきたばかりの製品には「エージング」が必要です。昔はよくスピーカーなど、テレビが番組の終わった夜中に発する「ザーッ」というホワイトノイズを再生することで、促成エージングを施したものでした。さらに、スピーカーを左右向き合わせてほとんど密着させ、毛布を上からかけて左右逆相でモノラルのホワイトノイズを入れてやる人も。そうしてやると、ほとんど周辺へ音が漏れずにかなりの大音量を入れてやることができるのです。

でも、実際にそうやってしっかりエージングをしたつもりの製品で、大好きな音楽を聴いてみると、何かちょっとおかしい。具体的には、朗々と聴こえる要素と何だか引っ込んだような部分が併存した、どことなくバランスの悪い鳴りっぷりになることがあるのです。

もっともそういうコンポーネントは、あと少し音楽をかけてやるだけでそこそこなじむものですから、エージングの一助としては使える方策だと考えています。

ケーブルにもエージングは必要?

これは経験上、ほぼ例外なく必要といって差し支えないでしょう。新品のケーブルは、概してナローレンジで情報量も少ない、一口でいって冴えない音を聴かせることが多いものですが、音楽を鳴らしてやればやるほど音の曇りが晴れ、レンジも両端へ無理なく広がって、窓を開け放って風景を見るような鮮明さを味わえるようになります。

しかし、ケーブルがエージングで音質向上する原因について、科学的な定説はないのではないかと思います。個人的には、音楽信号を流すことによって芯線はごく僅かながら振動しますから、それによって撚り線の収まりが安定し、絶縁体などとも密着性が高まって、機械的に落ち着いてくるという項目があるのではないか、と推測しています。

海外の高級ケーブルメーカーでは、「必ず200時間バーンイン(Burn In。エージングを英語ではこういいます)すること」と、取扱説明書へ明記している社があります。世界的にエージングの重要さは認識されている、と見て間違いなさそうですね。

そんなエージングを、音楽を聴かずに進行させるグッズがあります。「バーンインCD」という、エージングするための音情報が収録されたCDというものは、20世紀の昔からありましたし、当時から生き残っているものや、新しく開発されたものなどがいくつかあって、それぞれに有効な製品です。CDプレーヤーからアンプ、スピーカー、接続ケーブルまで、すべてに効きます。

ただし、スピーカーのエージングに使うなら、もちろん音を出さなければいけません。かなり強烈な音も含まれていることが多いものですから、エージングCDの再生中はリスニングルームから出ていた方がいいかもしれませんね。

ケーブルのみなら、現代はエージングを促進してくれるマシンが存在します。大体は開発メーカーや輸入元が、自社のケーブルを出荷する前にエージング処理する、という用途が主流となっていますが、一部のエージングマシンはショップに貸し出され、そこで自分のケーブルを処理できるようになっているところがあります。

そのエージングマシンを私も使ったことがありますが、まる2年間ガンガン使いまくって完全にエージングが終わったと思っていた電源ケーブルと、素材も作り方も全く同じものをもう1本製作し、通電させる前にエージングマシンへかけて、エージング済みの個体と音を聴き比べたら、圧倒的にマシンでエージングした方の個体が高音質で驚きました。もちろんエージング処理は有料ですが、これほど価値のあるお金の使い方もそうはないな、と感じたものです。

アンプの上に重りを置くと音が良くなる?

これについては、「音は確かに変わるけれど、一概に “良くなる” とはいい切れない」というのが、正直なところです。ディスクプレーヤーやアンプ、スピーカーなど、何でもそうですが、概して重りを載せるとどっしり力強く安定した音になり、音のピントがくっきりと定まる傾向を聴き取ることができますが、その一方で若干開放感が薄れ、頭を抑えつけられたような重苦しい音になることがあります。その美点と欠点のどちらがあなたの耳へ優先的に飛び込むか、それ次第で重りは最高の相棒にも有害無益にもなる、ということですね。

現象面を科学的に説明するなら、重りを載せることでコンポーネンツの筐体が振動しにくくなり、内部のトランジスターやコンデンサー、抵抗器などの素子が震えることで生ずる偽信号、ノイズといったものが抑えられる、ということになります。

一方、頭を抑えられるような感覚になるというのは、装置に余分な重量物が加わることでそれが振動を溜め込み、時間差で放出するという現象がかかわっているものと推測されます。それによって音の切れ味が若干鈍くなり、超高域方向の抜けがいくらかでも抑えられる可能性がある、ということです。

この現象を最初に発見されたのは、亡くなられたオーディオ評論家の長岡鉄男さんでした。1970年代頃のオーディオ雑誌の試聴風景というのは、今とは比べ物にならないくらい杜撰で適当だったそうです。試聴するアンプを床から何台も積み上げ、リファレンスのプレーヤーとスピーカーをつなぎ替えて聴き比べていたそうですが、その時長岡さんは、下の段のアンプの方が必ず音がいい、ということに気付かれました。

これは絶対に何かあるとにらんだ長岡さんは、鉛のインゴットを買ってきて愛用のリファレンスアンプに置いてみると、見事「下の段の音」になった、というわけです。それからというもの、長岡さんはレコードプレーヤーにもスピーカーにも鉛を置くようになり、長岡鉄男といえば鉛という、ある種のトレードマークともなっていたものです。きっと長岡さんの耳には、重りの美点が真っ先に飛び込んでいったのでしょうね。

情報発信元の長岡さんもことあるごとに警告されていましたが、重りを載せる時は、くれぐれもやりすぎないように注意して下さい。特に中級品くらいまでのアンプなどで、筐体がそれほど頑丈ではない製品に重量をかけすぎると、筐体が歪んで思わぬ事故を招きかねませんし、そんなことで音が良くなるはずもありません。また、特に発熱の大きいアンプなどでは、放熱スリットを塞がないように注意が必要です。

こういう対策は副作用と隣り合わせという側面もあるものですから、ご自分の装置に試してみられる場合はあくまで自己責任で、ということを肝に銘じて下さいね。

オーディオ機器に小さなチップを貼り付けると、音が良くなる?

直径10mmにも満たない薄い金属の丸板を、コンポーネントの要所に貼ると音が良くなる。こんなこと、信じられますか。でも実際にやってみると、結構な効果があるものなのです。

しかし、闇雲にどこでも貼り付ければ音が良くなる、というわけではありません。特にスピーカーなどで実験してみるとよく分かりますが、粘着テープの裏紙をはがす前のチップを、音楽を鳴らしつつキャビネットの表面へ当てながら少しずつ動かしていくと、特定のポイントで音楽が突然シャキッとすることがあります。その位置を覚えておいて、粘着テープでチップを貼ってやると、スピーカーのグレードが1つ上がったような音になる、というわけです。

これはある種の「ツボ療法」のようなもので、最も効果的なポイントを見つけるまでは大変ですが、それほどコストもかからない割には相当の効果が見込める、いいノウハウだと私は考えています。

スピーカーにアルミ箔を貼ると、音が良くなる?

この話題は最初、モータースポーツの世界から私たちにもたらされました。バンパーをはじめとするレーシングカーの樹脂外装パーツには、静電気が溜まりやすいものです。その静電気が空気に小さな乱流を作り、ラップタイムを落としているのではないかと考えたあるレーシングチームは、樹脂パーツにアルミ箔を貼って先端を尖らせることにより、その先端から静電気を空気中に放出することを考えました。

実験の結果、実際のラップタイムは僅かですが向上したそうです。僅かといっても0.1秒違えば優勝と2位の違いが生まれる世界ですから、とても有効な対策だったといえるでしょう。

そのノウハウはすぐさま一般の自動車用、そしてオーディオの世界に導入されます。私はまず、自作スピーカーのバスレフダクト内に貼り込んでみましたが、そのダクトが塩ビ管だったことも幸いして、はっきり耳で分かるくらいのスピード感の向上が得られたことに感激したものです。

また、樹脂フレームのトゥイーターとアルミダイカストフレームのミッドハイの間をつなぎ、樹脂フレームの静電気をアルミフレームへ落とした結果、こちらも高域がスッキリと澄み渡り、音の抜けが向上しました。

静電気というものは、かなり大幅にオーディオの音を邪魔している存在だと、近年になって一層解析が進んできました。この話題については、また機会を改めてじっくり解説したいと思います。

※本記事で紹介している内容は、長年の試聴経験に基づく筆者個人の見解です。

Words:Akira Sumiyama

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