アナログ製品を選ぶ際、どのようなポイントをチェックしていますか?製品のカタログやウェブページには、必ず「スペック(テクニカルデータ)」が記載されていますが、並んだ項目や数値の意味がわからず、戸惑った経験がある方も多いのではないでしょうか。そこで、オーディオライターの炭山アキラさんが、意外と知らない「スペック」の読み方をカテゴリ別に詳しく解説していただきました。
今回は「スピーカー」編。スピーカーに関しては、ユニットやネットワークまで踏み込むと大変なことになりますから、ここでは完成品スピーカーシステムのスペックを読み解くための解説を進めましょう。
(目次)
形式
ユニット
インピーダンス
再生周波数帯域
出力音圧レベル
最大入力
入力端子
形式
スピーカーの種類。スピーカーユニット(音の出る部分)と、キャビネット(ユニットを収納する箱)について記載されています。

キャビネットがどのようにしてウーファーから低音を再生させているか、具体的には「密閉型」や「バスレフ型」といった形式が記されることと、そのスピーカーがいくつのスピーカーユニットが組み合わされているかも表記されるのが普通です。「3ウェイ」や「2ウェイ3スピーカー」といった書き方ですね。
「2ウェイ3スピーカー」といった書き方は、例えばウーファーが2本搭載された2ウェイというような場合に用いられる表記です。また、同じ3本のスピーカーを使った2ウェイに見えても、2本のウーファーでクロスオーバー・ネットワーク*の働きを変えているスピーカーは「2.5ウェイ」という呼び方をすることもあります。
2.5ウェイにもいろいろな考え方の設計がありますが、典型的なものを挙げると、2本のウーファーで同じように中域を再生すると干渉して濁るという考えから、1本は低い周波数でハイカットして低域の増強のみに使い、1本で中域まで再生してトゥイーターにつなぐ、といった設計方針のスピーカーです。同じ考え方で構築された、3.5ウェイやそれ以上の製品もあります。
*クロスオーバー・ネットワーク:複数のスピーカーユニットに適切な周波数帯域の音を分配する回路のこと。
ユニット
電気信号を音に変える装置で、スピーカーの発音体。

2ウェイならウーファーとトゥイーター、3ウェイならそれにスコーカーを加えたユニットの形状や口径、発音方式などが記されています。「30cmコーン型ウーファー、5cmドーム型スコーカー、ホーン型トゥイーター」といった書き方です。
他にも、例えば名門の専門会社が製作したウーファーの振動板を用いている場合、「クルトミューラー製コーン使用」と謳われていることがありますし、高いコストはかかりますが音質的に利点の大きなアルニコマグネットを採用している製品も、こちらへ表記しているカタログを見かけます。このように特殊な構造や素材が採用された場合、メーカーによって意図的に追記されることがあります。
インピーダンス
交流電流に対する抵抗値のこと。単位はΩ(オーム)。

スピーカーシステムのインピーダンス(交流抵抗)特性は、いくつものピークを伴った凹凸の多いものになっているのが普通です。一番下の山(密閉型なら1つ、バスレフ型は2つ)を過ぎたすぐ上の帯域で、インピーダンスが一番下がったところの値が「公称インピーダンス」です。
一般に現代のスピーカーシステムは公称4~6Ωのものが多数ですが、それならうちのアンプは対応しているから安心だ、というわけにいかないことが、時に起こります。公称インピーダンスの値は、多くの場合スイープトーンといって、20Hz~20kHzの単音が連続的に変化していく測定信号を使います。それに比べ、実際に音楽を鳴らしている時のインピーダンスはずっと山谷が大きく時々刻々と変化して、時に公称の半分以下にまで下落することがあります。
そんな危機的状態でも余裕を持ってスピーカーがドライブできるよう、アンプ側も頑張っています。高級アンプで2Ωまで、ものによっては「音楽信号に限る」と注釈を入れつつも1Ωまでの動作を保証している製品がありますが、それは1Ωのスピーカーをつなぐことを想定したものでは本来ありません。まさに不意のインピーダンス低下へ備えた磐石の体制なのです。
再生周波数帯域
スピーカーが再生できる周波数(音域)の範囲。単位はヘルツ(Hz)で表されます。

「周波数特性」と表記するメーカーもあります。アンプやデジタルプレーヤーなどに比べ、スピーカーは周波数特性の凹凸が大きいものですから、多くは(-10dB)や(-16dB)といった測定条件を示しながら、再生できる周波数帯の幅広さを表示します。
出力音圧レベル
スピーカーから発音する再生音の大きさ。 単位はdB(デシベル)。

スピーカーを無響室(響きを完全に殺し、外界からの騒音もシャットアウトした測定用の部屋)へ入れて特定の大きさの測定信号を入力し、1mの距離で測った音の大きさをdBで示します。
特定の大きさの信号というのは、昔は概ね1Wだったのですが、近年は2.83Vという不思議な値を入力した際の音圧を表示する製品が増えています。これは、8Ωのスピーカーに1W入れた際の電圧値で、6Ωや4Ωのスピーカーにも同じ電圧を入れてやろうという考え方です。1W入力した時と比べ、6Ωは1.5dB、4Ωは3dB高い表示となります。
最大入力
スピーカーが安全に受け入れられる最大の入力(電気信号の強さ)のこと。

文字通り、そのスピーカーに入力できる最大のアンプ入力ですが、これにも大きく分けて2つの測定方法があります。20Hz~20kHzの全域が入った測定用の信号を連続入力した場合と、パルス性の強弱の大きな信号を入力した場合です。
前者は「どんなに過酷な使い方をしてもこの値までは大丈夫」という値、後者は音楽再生に似せた信号で、「実際に音楽を聴く時はこれくらいまで大丈夫」という目安になります。前者に(Nom = Nominalの略)、後者に(Mus = Musicの略)と注釈を入れ、両方表記している製品もありますが、注釈なしで1つだけ表示されている製品は(Mus)で測定したものが多いようですね。
入力端子
アンプなどの外部機器からスピーカーへ音声信号を送るための接続端子のこと。

あまり表記している製品は多くありませんが、ここに「4端子」や「バイワイヤリング対応」と書かれているものがあります。これは2ウェイならウーファーとトゥイーターを、3ウェイ以上ならウーファーとそれ以外のユニットを、別々の端子でアンプと接続できるようになっているスピーカーです。
そうやって2組のスピーカーケーブルを使い、接続する方式をバイワイヤリングといいます。もともとバイワイヤリング対応の入力端子には、ジャンパープレートと呼ばれる銅合金の板、あるいはジャンパーケーブルと呼ばれる短いケーブルで、+側と-側それぞれに上下の端子が結ばれています。この方式を実行する際は、くれぐれもそれらのジャンパーを外すことをお忘れにならないよう、気を付けて下さい。
なぜ、1組のスピーカーケーブルでつないでもちゃんと音が出るのに、わざわざ2組のケーブルを用いるのか。それは、パワーアンプの「ダンピングファクター」の項目で解説した、ウーファーの「逆起電力」が原因です。
改めて簡単に説明すると、スピーカーは「フレミングの左手の法則」で電気信号を音波に変換していますが、大きく振動板が動いた時に元へ戻る力が働いて、それが「フレミングの右手の法則」で発電機となり、特に振動板が重く振幅の大きなウーファーでは、その偽信号がトゥイーターなどの高域ユニットを揺さぶり、再生音を損なってしまいがちなのです。
そこで、ウーファーの逆起電力による偽信号を一刻も早くアンプへ戻して吸収させ、トゥイーターへ影響を与えないように考えられたのがバイワイヤリング方式です。私自身、何度も実験したことがありますが、確実に音の品位が高められる接続方式という認識を持っています。
また、英国のタンノイを筆頭に5端子の入力を持つ製品があります。バイワイヤリングに加え、スピーカーユニットのフレームにアースをつなぐための端子です。もしお使いのスピーカーにその端子が装着されていたら、アンプのアース端子へつないでやると、音のバリが取れて明瞭度が上がることが観測できることでしょう。
Words:Akira Sumiyama