Blinky Billのジャムを聴いたら、椅子に座ってなんていられない。いい気分なんだ。そして、頭はリズムを刻んでいる。

ケニアのミュージシャン/プロデューサー/DJのBlinky Bill(以下Blinky)は、多忙だ。ソロアーティストとしての活動は目まぐるしく、数え切れないほどの世界中のステージでプレイし、TEDフェローシップや、Red Bull Music Academy、OneBeatの仲間になり、エミレーツ航空の広告も飾った。
成功したアフロエレクトロポップ・コレクティブJust A Band(以下、JAB)を立ち上げた張本人でもある。

実験的なEP/アルバム『We Cut Keys While You Wait』と『Everyone’s Just Winging It And Other Fly Tales』をリリースした今は、尚の事引っ張りだこ。自然に滲みだす魅力でもって、最高にクールなヒップホップ、ファンク、ネオ・ソウル、エレクトロビートをプレイする。

かくしてBlinkyの2020年のスケジュールは余白なくパンパンに詰まっていた。パンデミックが起こる前までは。だが、自身の状況が一変してからも、彼は平然としている。「僕らが生きているこのおかしな時代に、元気なエネルギーを共有したい」と、自身のメディアを通してエクレクティックなDJセットを披露。

ポジティビティ、生命力、活力、その源泉は、いったいどこなんだろう。今回はBlinkyと一緒に、自身のルーツがある街「ケニアのナイロビ」をたどり、教えてもらう。
Blinkyにとっての音楽制作のインスピレーション、自分だけの“居場所”そして“思い出”がある街へ。

AL:デビューEPとアルバムはナイロビで制作。なぜナイロビで制作することが重要だったんですか?

B:ここで育ったから。ナイロビは、僕の“スタジオ”で、家族や仲間がいるところ。 いつだって何でもスタートできる大切な場所。この街で音楽制作することに、心地よさを覚えるんだ。はじめての編曲もここでやったしね。

AL:街から実際にどのように創作のインスピレーションを受け取るんでしょう。

B:音楽を作っている最近のキッズのパンクなアティチュードにインスピレーションを受けているよ。周りなんて気にしちゃいない。「自分たちのアート創作は、誰にも何にも止められない」というスタンス。これは僕の制作にも通じることなんだ。たとえば、スマホでMVを撮ろうってなるとする。たとえそのMVの出来が100パーセント完璧じゃなかったとしても、それはそれでオッケー、それが自分たちの表現なんだ、という考え方だね。

AL:ナイロビにはどんな想いを寄せていますか?

B:客観的にみて、ナイロビはアフリカ大陸のなかでも最高の都市の一つだと思う。言っておくけど、アフリカの他の都市にも行ったことはあるからね。ナイロビに帰ってきたときいつも「ああ、これこれ」というような気持ちになる。最高に気持ちいいシャワーを浴びたときみたいなんだ。自分の人生を見つめ直すこともできる。

実際、富裕層と貧困層の境界線が日々、目に見えて広がっていくタフな部分もある街なんだけど、僕自身結構家にいるタイプだから、そういう部分はそんなに気にしなくても大丈夫。
よくアフリカって“ダークな大陸”と見られがちでしょ。それを払拭するように、派手な車を登場させて飾りたてようという過度なイメージ演出はよくある。もちろん、ダークで貧困な大陸っていうのも本当の部分。でも100パーセントそうだとはいえない。貧困なんてどこにでもあるし、ただ一つのナラティブに過ぎない。

これまで多くの状況で、僕たちは僕たちのストーリーを僕たちで語ってこなかった。今こそ、これまで語られてこなかったストーリーの側面を伝える責任が僕たちにはあると思う。だからMbithi Masya(JABのメンバー)が監督した“Mungu Halali”のMVでは、ナイロビという街を、さりげなくバランスよく見せるようにした。偽りの姿を見せるわけでもなく大げさに見せるわけでもなく。これは、アフリカのストーリーテラーである僕たちが表現したいことなんだ。

AL:個人的なナイロビの思い出はありますか?

B:大事な思い出の一つは、マタトゥ(ケニアの乗合バス)の9番線に乗って学校に通学したこと。イーストレイ行きのね。ここは、僕にとって音楽を学ぶ場所だったんだ。音楽に没頭していた10代の頃、レコードショップを見つけてはテープを買いこんでいた。

JABと一緒にリメイクした曲に“Dunia Ina Mambo”というのがあるんだけど、これは子どものころ観ていたテレビ番組『Tahamaki』でかかっていた曲。後になってこれがケニアのバンドの曲だと知ってから、ずっとこのレコードが欲しくて探したんだ。曲は覚えていたけど、リメイクするためにきちんとしたレファレンスが欲しくて。

AL:これまでの音楽を築きあげてきたアーティストへのオマージュは大切。

B:ケニアの人の音楽消費の仕方についてある問題点があると思っている。それは、多くがいつだってケバケバした派手なものに惹かれてしまうこと。そうやって「今ホットなもの」「今新しいもの」「今クールなもの」にばかり焦点を当てていたら、いろいろなことに気付く目を持たないようになってしまう。“今・今(now-now)”な社会というか。だから、たとえば、他の国のヒーローには目が向くけど、自分の国のヒーローのことは知らないこととか。

AL: なるほど。もう少し詳しく聞きたい。

B:どうやって説明したらいいかわからないけど…。たとえば、ケニアの人はオリバー・タンボ(南アフリカ共和国の政治家)の顔を知っていて、彼のピンバッジさえもつけている。でも、自分の国の政治活動家Achieng’ OnekoやBildad Kaggiaの顔は知らないんだ。このことは、僕たちの社会について多くを語っていると思う。そこで僕はみんなにこう話しかけたい。「一瞬立ち止まって、後ろを振り返ってみよう。ちゃんと過去の声を拾っていこう」って。時々、がらんどうに向かって叫んでいるような気がしないでもないけど、まあそれはそれで、好きでやっているからいいんだけどね。

AL:折角なので、リンク貼っておきます。

Achieng’ Oneko

Bildad Kaggia

AL:曲の新しいインスピレーションはどうやって得ているんですか?

B:自分自身をどれくらい追い込めるのかを試すのが好きなんだ。新しいテクノロジーについてや、世界の人々がどうやって音楽を作っているのかを学んでいる。そして学んだことをどう僕たちの音楽やサウンド、制作に活かせるかを模索している。その結果、僕たちの音楽はどこでどう聴かれたとしても質や熱量に欠けるところはない。
あと、よくビートを聴いているんだよね。ビートが主要な原動力といってもいい。サウンドもそう。アフリカの伝統音楽や歴史的なアーカイブを聴いていると、それぞれの部族が独自のグルーヴや歌唱法を生み出していることに気付いたんだ。すごくはっきりわかるくらいね。そうしていくうちに、いろいろな音にも気付くようになって、それらがどこで交わることができるのか、これらのアイデアが噛み合うポイントはどこだろうって常に探しているんだ。

AL:それが常に新鮮なサウンドを創る秘訣?

B:すでに制作したものからインスピレーションは絶対に受けない。これが自分の音楽を常に新しくしている秘訣だね。過去のそれぞれのプロジェクトは、自分が歩んできた道筋。だけど、じゃあ今すべてのことを知っているのかと言われたらそんなことはない。まだこれ以上できないって程の最高の仕事をした感じはしていないし。「いつその時がくる?そもそもやってくるのか?」っていつも考えているんだ。

AL:常に制作のことを考えているBlinky。ちなみにナイロビの好きな食事スポットは?

B:Tamu Tamu foodsによく行く。でも、みんなが話題にしている場所だったらそれがどんな場所でもチェックしてみたい。それで気に入ったら行きつけの店にしたり。

Tamu Tamu foods

Woodvale Groove, off Mpaka Road, Westlands.

ビリヤニがとても美味しいと評判の店。甘さとしょっぱさ、スパイシーさがバランスよく共存しているトマトベースのソースがシグニチャー。
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AL:1日だけナイロビに滞在する旅人にお薦めするスポットを、3つ教えてください。

B:風車があるNgong Hillsがいいよ。Trademark HotelにあるHeroのデザートやディナーもお薦め。素敵な夜景が見れるよ。もっとピースフルな気持ちになりたいなら、 ArboretumやOlooluaの自然遊歩道も。Dagozも気取っていない、小さないいベニュー。ビールの値段が法外じゃなくて、ライブ演奏がついてくる。ナイロビのいいところは、ライブ会場があまりないから、さまざまなスペースをアートの場所に変えてしまうという精神性。とてもいいと思う。

Ngong Hills

Kahara Road, off Ngong Road, Kajiado.

ケニア国内でも有数のランニングやバイクに最適なトレイル。グレート・リフト・バレー(アフリカ大陸を南北に縦断する巨大な谷)沿いの尾根の頂上にある。ナイロビ国立公園やナイロビの市街地を見渡せる。
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Hero @ Trademark Hotel

9th Floor, Trademark Hotel Village Market, Limuru Road, Nairobi

ケニアの4つ星ホテル「トレードマークホテル」内にあるレストラン。禁酒法時代のスピークイージーをモチーフにしたスタイルが特徴。空間やメニューは、コミックヒーローや実在の“ヒーロー”(地元のリーダーやアスリート、活動家、作家など)にインスパイアされている。
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Arboretum

State House Road, Nairobi 00200 Kenya

1907年からある庭園。市街地からのアクセスもよく、自然豊かな公園や遊歩道がたのしめる。園内を埋め尽くす木々は、ケニアや東アフリカのみならず他の地域から運ばれてきたものもある。

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The Oloolua Nature Trai

ナイロビのカレン地区にあるトレイル。天然の洞窟や滝、パピルス草の沼などのアトラクションがある。

Quarry Lane, off Moran Lane/Masai Lane Junction, Karen.

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Dagoz

Karandini Road, Nairobi, Kenya

ナイロビの音楽ベニュー。手頃な価格のビールと週5の音楽生演奏が楽しめる。これまでにケニアのシンガーソングライターYubuなども出演した。

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AL:今特に注目しているアーティストはいますか?

B:Juma Tutu!Chris Kaigaもいい感じだよ。

AL:どちらもケニアのアーティストですね。最近、東アフリカの音楽シーンで「お、これは新しい」というものは、ありましたか?

B:東アフリカを見渡すと、ポップだらけなんだ。今のマーケットが必要としているものなんだろう。アフリカ大陸全体だと、南アフリカのアーティストSun-El MusicianやMuziは聴いた方がいい。Muziは、ネクスト・Chiko(80年代の南アフリカのアフロポップスター)という感じだし、Sun-Elの音はスピーカーを充満させるくらいマッシブだよ。

AL:ナイロビの人たちの音楽のたのしみ方を教えてください。

B:僕らは自分たちの愛するものをとことん愛する人たちなんだ。自分たちの音楽は、内輪のジョークみたいな、そんな特別さがある。都会の若者世代は自分たちの聴き方を持っているよね。サウンドがいい限りコンサートに足を運んで、サウンドクラウドで新しいアーティストを見つける。100万回再生されたアンダーグラウンドのヒップホップアーティストなんかもいる。10年前は、こんなにもたくさんの新しいアーティストは出てこなかったよ。

AL:BlinkyのApple Music、またはSpotifyのプレイリストを教えてくれますか。

B:これが僕の見つけたいい音楽たち。

AL:Blinkyにとって「音楽」とは?

B:ミュージシャンとしての立ち位置的に、今僕はみんなの指図なしに自分の好きなものを作れる自由の身。みんなの望みを聞くということは、ときおり自己表現の妨げになる。そこから自分を解放したんだ。
でも、(自分の好きなものを作るというスタンスは)人々がつながりを感じる音楽を作るときにマイナスにもなる。自分がやりたいことと多くの人々が共感するものが噛み合う方法を見つけ出したい。それが創作のパワーになるから。みんなのために、自分がやりたくないものを作って発表するなんて、そんなことは絶対したくない。

AL:では、Blinkyにとって「音」とは?

B:自分という存在にとって主要なもの。いろんな音波がもつ可能性にとても興味があるんだ。たとえば車に乗っているとき雨が降ってきて、ワイパーの音を聞くと「おお、これ、なにかに使えるんじゃないか」「ビートやバックグランドサウンドになるんじゃないか」って。ちょっとバカげているかな?笑

AL:最後に。Blinkyにとって「アナログ」とは? 

B:アナログは、触って感じることができるもの、それか、それをオンにするために人間の存在が必要になってくるもの。僕自身、音楽のスタートはギタープレイヤーで、いつもギターとは学習・上達・成長の時間を過ごしていた。もちろん、ソフトウェアでも人間の操作が必要だと思うけど、それは(アナログとは)全然違うことで。自分の手で調整したり操作したり、自分がやっていることを実際に目で見るのが好きなんだ。

Photos:Maganga Mwagogo
Words:Wanjeri Gakuru