良い靴は、良い場所へ連れて行ってくれると言われます。いつもと違う靴を履くだけで、足取りも気分も軽やかになり、知らない土地へ行ってみたいという冒険心が掻き立てられるものです。実は、レコードプレーヤーのカートリッジ交換もこれと同じ。聴き慣れたレコードがまるで別の音楽のように響き、新しい世界へと誘ってくれます。「どうしてカートリッジで音が変わるの?」「どんな種類があるの?」そんな疑問をひもときながら、カートリッジの仕組みとタイプ別の特徴をわかりやすくお届けします。

カートリッジとは?

カートリッジのイメージ
Photo by Hinano Kimoto

カートリッジはレコードプレーヤーの重要なパーツ。レコード盤に刻まれた溝の振動を針で読み取り、それを電気信号に変換するマイクロ発電機の役割を担っています。多くのレコードプレーヤーに搭載されているユニバーサル式のトーンアームなら、カートリッジを簡単に交換することができます。そもそもカートリッジという言葉は、容易に交換可能なひとくくりの機器のことを指します。レコードプレーヤーのカートリッジは、交換できることが前提となっているわけです。

カートリッジのタイプは大きく分けるとMM型とMC型の2つ。

磁界の中で金属が動くことで電気が発生する。これが発電の原理で、カートリッジの発電方式では「MM型(moving magnet)」と「MC型(moving coil)」の2種類に大きく分けられます。

針先と呼ばれる部分は、まずレコード盤に触れる「スタイラスチップ」、それが取り付けられた棒状の「カンチレバー」、その根元にはマグネットあるいはコイルが装着されています。これがカートリッジの基本構造です。カンチレバーの根元がマグネットかコイルかで、カートリッジは2つに大別されます。

カートリッジのタイプ

ダイナミックで力強い音が魅力のMM型。

マグネットがカンチレバーの根元にあれば「MM型」。一般に流通しているカートリッジの多数を占めています。針先の振動はそのままマグネットの振動となり、受け手のカートリッジ本体側に、配線を伴うコイルとともに発電を行います。コイルの巻数を増やせるため、出力を高めることができ、針先交換が容易なことが特徴で、様々な種類の針を試すことができるメリットがあります。重いマグネットを動かすので、高音域では限界がありますが、ダイナミックで力強い音質が魅力です。

MMカートリッジの構造

高音域の繊細さが特徴のMC型。

カンチレバーの根元にコイルがあるのが「MC」型で、強い磁力をもったマグネットのギャップでコイルが動いて発電します。コイルがカンチレバーに直結しているので、針交換はメーカーに依頼しなければなりません。針先の軽量化が可能なため、高音域の繊細さが特徴です。MM型に比べて出力は小さくなるため、昇圧トランスなどの付属機器が必要です。

MCカートリッジの構造

MM型の良さを生かした独自の進化形、VM型。

取り扱いやすいMM型の派生としてオーディオテクニカが開発した「VM」型。MM型はマグネットが1個なのに対して、VM型では軽量な2つのマグネットが左右V字型に配置されています。レコード盤に音溝を刻むカッターヘッドの構造がV字型であることに着目し、それをカートリッジの設計に取り入れました。

VMカートリッジの構造

再生形式を録音形式に合わせるという独創的なアプローチにより、高セパレーション、優れたトラッキング性能を実現。それによる広帯域再生能力が自然で心地よいニュートラルな音質を生み出し、高い評価を得ています。ベースはMM型なので、針交換が容易なことなど、ユーザビリティにも優れています。

針先交換のタイミングは?

音溝に接触しながら音を拾う針先は摩耗を伴います。現在針先として採用されている材質は、最も硬度のある物質として知られるダイヤモンド。それでも長期間の使用により、摩耗が発生します。

針先の形状にもよりますが、交換目安はおおむね300~500時間。毎日一枚のLPレコードを45分聴くとした場合は1年〜2年相当の時間です。業務的な酷使をしない限り、家庭では摩耗をあまり神経質にとらえる必要はないですが、長年同じものを使用されているのであれば、交換してみてもいいかもしれません。

カートリッジ交換で広がるアナログの音世界

カートリッジ交換で広がるアナログの音世界

アナログの世界は、まさに振動そのものから成り立っています。数値でコントロールするデジタルとは異なり、アナログ機器は計算通りにいかないからこそ、新たな発見や感動が生まれます。どのレコードにどのカートリッジが合うのかを探りながら、理想の音を追求するのもアナログならではの醍醐味。新たな音の世界と出会うワクワク感を胸に、ぜひカートリッジ交換にトライしてみてください。

MC型カートリッジ製品一覧
VM型カートリッジ製品一覧

Words : Kikuchiyo KG
Edit:Tom Tanaka

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