今、世界的な再注目の最中にあるアナログ・レコード。デジタルで得られない音質や大きなジャケットなどその魅力は様々あるが、裏面にプロデューサーやバックミュージシャン、レーベル名を記した「クレジット」もその1つと言えるだろう。

「クレジット」――それは、レコードショップに並ぶ無数のレコードから自分が求める一枚を選ぶための重要な道標。「Credit5」と題した本連載では、蓄積した知識が偶然の出会いを必然へと変える「クレジット買い」体験について、アーティストやDJ、文化人たちが語っていく。

今回登場するのは、「ちっちゃい事は気にするな それワカチコワカチコ」のネタで一世を風靡し、いまや15万人を超えるTikTokフォロワー数を誇るお笑い芸人・ゆってぃ。紹介された5枚のレコードを道標に、新しい音楽の旅を始めてみよう。

ゆってぃが考える「アナログ・レコードの魅力」

中学生のときは、X JAPANとかTHE BLUE HEARTSなど日本のバンドを聴いていたんですけど、友達のお姉ちゃんからスレイヤー(Slayer)とセックス・ピストルズ(Sex Pistols)を教えてもらって、洋楽も聴くようになりました。高校生ぐらいから海外のパンクバンドを聴くようになって、ヒップホップは高校1年のときに知り合った元相方(マンブルゴッチの川村龍俊)から教えてもらったスチャダラパーが入り口だったかな。

レコードを買い始めたのは、単純にCDより安かったのが理由でした。当時、渋谷だったらCISCO、新宿だと西新宿の小滝橋通りのほうにいっぱいレコード屋さんがあって、VINYLとか新宿レコードとかで買っていましたね。最初に買ったレコードは、それこそノーエフエックス(NOFX)とか、バッド・レリジョン(Bad Religion)とかだった気がします。

いわゆるレーベル買いもやってたし、一時期はジャケ買いもしてたんですけど、あれは一番危険でしたね。もう本当に失敗に失敗を重ねました。でもその当時って、ジャケ買いして内容がダサくても、それを友達と共有してみんなで遊べたんですよ。「このレーベル、あのバンドと一緒じゃね?」「こんなやつらも出してんだ!」みたいな楽しみ方もありました。あと特に日本のバンドだと、「Special Thanks To」のクレジットに知らないバンドがあったらそれを参考にレコードを買ったりしてましたね。

友達の家に行って「これ知ってる?」って流しあったり、レコードとCDの貸し借りをしたり、テープにダビングしてもらったのを聴いたりして音楽を楽しんでました。今回紹介するレコードも、そういう18歳から21歳ぐらいの多感な時期に僕が影響を受けたものです。

ゆってぃが「クレジット買い」した5枚のアナログ・レコード

Hi-STANDARD『GROWING UP』

Hi-STANDARD『GROWING UP』

Hi-STANDARDとの出会いは、友達のお兄ちゃんに教えてもらってEPを買ったのが最初な気がします。当時、洋楽のメロディックハードコアも聴いてましたけど、このアルバムを聴いて「これは時代が変わるぞ!」って思ったのを思い出します。アルバムが出る前に、あんなにドキドキワクワクしたのは数少ないんじゃないかなぁ。

このアルバムでは「IN THE BRIGHTLY MOONLIGHT」が一番好きな曲ですね。メロディックハードコアと言われるものって、ギターソロがあまりないんですけど、この曲は泣きのギターソロがあるんですよ。僕はメタルも好きなんで、「こんなのもやるんだ」みたいな。調べたらKen Yokoyamaさんもメタル好きだから、その血も入ってるのかなって思いました。

クレジットで言うと、COCOBATのTAKE-SHITさんがアートワークをやってて、そういうのも仲間内でやって、しかもトイズファクトリーっていうメジャーレーベルで出してて、「すげえ!」と思ったのを覚えてます。あとはそれこそSpecial Thanks Toのクレジットからいろんなバンドを教えてもらいましたね。

実は僕、ドラムのツネさん(恒岡章)とよく遊んでもらってたんです。「ハイスタのライブ来るだろ? 北海道でゲスト入れといたから」みたいないじりとかもしてくれて、本当によくしてもらっていました。リスペクトは当然ありましたけど、それを超えて単純に仲良い先輩みたいな感じで接してくださっていたので、亡くなられたときは「ああ、もう遊べないんだなぁ」ってショックというか、今もまだ消化しきれてない状態かもしれないです。

Switch Style『SWITCH STYLE』(7inch)

Switch Style『SWITCH STYLE』(7inch)

Switch Styleは、State Craftってハードコアバンドやってる友達が教えてくれたのが出会いでした。18、19歳の頃、Switch Styleにすべてを捧げていましたね。

最初、バイオハザード(Biohazard)の影響を受けたバンドなんだろうなぐらいの認識だったんですけど、大きく言ったらニュースクールハードコアの、ちょっとメタリックで、シンガロングできるみたいな、Switch Styleのその感じが僕からするとすごい時代に合っていたように感じました。

Switch Styleは急にエモをやりだしたり、全部が早いんですよ。ドラムのYOU X SUCKさんはZOZOの創設者の前澤友作さんで、その頃からスタートトゥデイって名前でレコード通販とかをやられてて、「なんだそりゃ!?」って思ったのを覚えてます。

この7インチが出た時期は、スチャダラとか教えてくれたやつと一緒に人力舎に入って芸人を始めたぐらいで。その元相方の知り合いがSwitch Styleのメンバーの誰かとつながってて、メンバーから手紙をもらったことがあります。「テレビでSwitch Styleかっこいいって言ってください」とか、そんな手紙。当時、僕らもちょうど地方の番組とかでレギュラーをもらったりしてて、多分、向こうは「俺らのこと好きな芸人さんがいるんだ」って思って手紙をくれたんだと思います。「そんなやついるのか」みたいな(笑)。

V.A.『Judgment Night』

V.A.『Judgment Night』

当時、音楽好きな友達の家をたまり場にしてて、レコードとかを持ち寄ってかけるみたいなことを何年もやってました。これはサントラにしちゃラインナップが豪華で、衝撃的だったんですよ。

スレイヤーとアイス-T(Ice-T)が一緒にやってて、今でいうクロスオーバーみたいな。「おいおいおい、バイオハザードもハウス・オブ・ペイン(House Of Pain)もいるし、とんでもないアルバムだ!」って、たまり場でレコードに針を落としてみんなで聴いたのを覚えてます。これが僕のミクスチャー的なものへの入り口だったんじゃないかな。 

あとこれ、ティーンエイジ・ファンクラブ(Teenage Fanclub)とデ・ラ・ソウル(De La Soul)の曲だけ、めちゃめちゃスウィートな曲なんですよ。「Lovely〜♪」って。サントラから入って、「これ、とんでもねえ映画なんだろうな」と思ったら、ただチンピラがギャングから逃げ回ってるだけの映画でした(笑)。

Beastie Boys『Ill Communication』

Beastie Boys『Ill Communication』

ビースティ・ボーイズ(Beastie Boys)は、もうとにかく濃いってところから入ってました。『Check Your Head』とかも聴いてたんですけど、結局一番聴いてたのは『Ill Communication』かな。もともとハードコアバンドをやってて、ラップしてるっていうのがかっこいいんですよね。1曲目の「Sure Shot」の「デレーレレーレー♪」ってイントロが最高で、Creepy Nutsの『オールナイトニッポン0』のオープニングがこの曲だったので、「この人たち、わかってんじゃん!」と思ってました(笑)。 

ちなみに、マイクD(Mike D)にはサインをもらったこともあるんですよ。西新宿にAIRSってブートのライブビデオテープだけしか売ってないところがあって、友達から「マイクDが来るってよ!」って聞いて。多分お店の人が教えてくれたんだと思うんですけど、実家のある笹塚からチャリンコで新宿まで行ったら、マイクDが本当にいました(笑)。

なんかのライブのフライヤーの裏にサイン書いてもらったんですけど、今考えるとめっちゃ失礼ですよね(笑)。向こうも、「ああ、こうやって日本のキッズが俺らを応援してくれてるんだ」って思ってくれてたんじゃないかな。

ビースティはadidasを流行らせたり、かといってNIKEは履かないとか、オシャレさのこだわりがあって、そういうこだわりは自分のファッション面でも影響を受けましたね。

とんねるず『やぶさかでない』(7inch)

とんねるず『やぶさかでない』(7inch)

小学校の卒業文集に「とんねるずさんみたいになりたい」って書いたくらい憧れの存在です。当時、とんねるずさんは「芸人」というよりも、すごく楽しそうにテレビに出てる人たちだなって認識で、「自分もこうなりたい」って思っていました。それもあって「楽しそうにやる」ってことは、未だに僕も影響を受けています。

「やぶさかでない」は『お坊っチャマにはわかるまい!』ってドラマの主題歌で、僕は当時9歳とかでドラマの内容はあまり理解してなかったんですけど、とんねるずさんが好きだったから見てました。この曲が異常に記憶に残ってて、高校生のときだったと思うけど、夏休みとかにやってたドラマの再放送で見て「音楽かっけえなあ」と思って。

「やぶさかでない」って、とんねるずさんがテレビで大暴れしてた時期の感じがあるというか、「俺が小っちゃい時見たとんねるずの歌だ!」って痺れました。『やぶさかでない』の7インチを見つけたとき即買いしましたね。

とんねるずさんの7インチは、30手前ぐらいの時期によく集めていました。その頃、僕が10代とか20歳くらいのときに通ってた渋谷とか新宿のレコード屋は結構閉めちゃったところも多くて。新宿のVINYLとか、あとはディスクユニオンとHMVで、山積みの安レコードをディグってました。2024年の武道館のライブは行けなかったんですけど、また東京ドームとかでライブやってほしいですね。

ゆってぃ

お笑い芸人。1977年1月東京都生まれ。1995年にプロダクション人力舎の養成所スクールJCAに4期生として入学。ネタでの芸風とは裏腹に、趣味の延長として始めた90’s音楽特化YouTubeチャンネル「バリ3TV」や、アパレルシリーズのリリースなどその活動は多岐に渡る。2022年3月31日にタレントで元グラビアアイドルの石川あんなと結婚。2025年1月には第1子・女の子が誕生。パパとなる。

Edit:Shoichi Yamamoto

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