レコードプレーヤーは、見た目や価格だけでなく「音」も大きく変わる機材です。では、なぜ同じレコードを再生しても、プレーヤーによって聴こえ方が違ってくるのでしょうか?本記事では、オーディオライターの炭山アキラさんが、構造や精度の違いなど、音質の差を生む要因をわかりやすく解説します。
再生の仕組みは同じ。でも音が違うのはなぜ?
レコードプレーヤーには、2万円くらいで買えるものから数千万円というとてつもないものまで、数え切れないほどの製品が発売されています。しかし、ダイヤモンドの針先が回転するレコードの音溝へ沿って凹凸を読み取り音楽を奏でるという原理は、2万円でも1,000万円でも全く変わりません。なのになぜ、それほどいろいろなプレーヤーが世の中にはあるのか、それほど違うものなのかと、気になる人もおられるのではないですか。
実際のところ、オーディオテクニカで最も廉価な『AT-LP60X』は初めてのレコードプレーヤーとして多くのユーザーに愛用されているモデルですが、これを使ってレコードの音楽は大いに楽しむことが可能です。しかし、例えば1ランク上の『AT-LP70X』と聴き比べると、「あれっ?」というくらい音質が変わって驚かれることは保証します。具体的には、演奏空間の見晴らしが良くなり、音楽のディテールがはっきりと聴こえてくるようになるのです。
それでは、普及クラス製品と上級品で一体何が違うのでしょうか。レコードとプレーヤーで奏でる音楽は文字通りのアナログで、先ほども解説した通り、音溝の凹凸を針先が振動として読み取り、それで音楽信号を発電しています。平たく言ってしまえば、それをいかに正確・精密に行うか、それがレコード再生の品位を決めるのです。
レコードの精密な再現に必要な条件は、もう数え切れないほどありますが、最も大切なのは軸の精度と円滑さでしょう。プラッターやモーターは軸の周囲を回転していますが、その軸に不具合が生じて正確な回転が望めなくなったら、ひどいワウ(回転ムラによる音の揺れ)が起こったり、軸からギーギーと異音がして再生音へ混じってしまったりすることがあります。
また、トーンアームは上下と左右にスムーズで軽い動きが求められますが、その動きが渋くなったらカートリッジの性能を発揮させることが難しくなり、ひどい場合には耳障りな歪みを乗せてしまうことにもなります。
これらは故障した場合の話ですが、そうなる遥か手前にも、絶対的な軸の精度・品位というものがあって、それが普及クラスと上級機では全然違ったりするのが現実です。そもそも、軸の品位を高めることには大変な技術と高度な工作精度が必要で、当然ながら応分のコストがかかります。
何百万、何千万円もするプレーヤーなら、軸の精度に吟味を尽くすこともそう難しくはないでしょうけれど、絶対的なリソースに限界のある普及~中級のプレーヤーでそれを望むのは難しいものがあります。それでグレードに応じ、音に大きな影響がない範囲の公差を取るということをしています。
しかし、絶対的な生産量の大きな製品では開発・生産コストがかけやすいため、そこそこ廉価な製品でもある程度は公差を小さく、つまり全体的な精度を高めることが可能になります。アナログの全盛期、膨大な生産量を誇った日本製プレーヤーは、驚くほど軸の精度の高い製品が多かったものです。そしてそれは、この21世紀にもほぼ同じことがいえるといってよいでしょう。
プレーヤーの重量と制振が音に与えるもの
軸の精度の次に大切なのは、全体的な物量です。AT-LP60Xは質量2.6kgですから、片手で軽々と持ち上げられる重量です。その陣容であそこまでしっかりと音楽を鳴らしてくるところには、むしろ驚くべきものがありますが、その一方で上級の『AT-LP8X』は10.4kgと、片手で持ち上げるのは難しい重量です。「そりゃ高いんだから、当たり前だよね」と思われるかもしれませんが、それは順番が逆です。
AT-LP8Xは私も愛用していますが、驚くのはその作りです。キャビネットはコブシで叩いても全く鳴かず、プラッターはずっしりと重くこちらも全く鳴きがありません。プラッターはアルミ合金の削り出しで、裏面の凹みには分厚いゴム系の制振材が仕込まれており、アルミ素材の鳴きをほぼ完全に抑え込んでいるのですね。
そうやってプレーヤー本体の鳴きを抑え込むと、音はどうなるか。不思議に思われるかもしれませんが、レコードのジリジリパチパチいうノイズが耳につかなくなり、それだけ音楽がダイレクトに耳へ飛び込んでくるようになるのです。レコードの音がCDなどのデジタル音源に比べてノイズが多くて耳障りだ、という印象をお持ちの人は、ぜひ一度しっかり防振された上級プレーヤーでレコードを聴いてみてほしいと願うところです。

ただし、キャビネットやプラッターの鳴きは抑えれば抑えるほど音が良くなる、というものでもありません。制振が行き過ぎると、概して音楽の生気が消えたつまらない音になってしまうものです。この点をどう塩梅するかで、プレーヤーの音質は大きく変わってきます。
私が今使っているAT-LP8Xと同モデルを導入する前に使っていたプレーヤーは、どちらも非常に優れたレコード再生を聴かせてくれる製品ですが、両者で振動の養生具合が違っていて、ゴム製のターンテーブルシートなど、防振系アクセサリーの相性が全然違って驚きました。同じシートを乗せると、AT-LP8Xはやや大人しく、その前の愛機はやや賑やかになる傾向です。それで、材質は似ているけれど固さの違うシートを使い分けることにより、自分の好む音へ両方を追い込むことができました。
ここまでプレーヤーにおける音の違いについて解説してきましたが、カートリッジについても同じようなことをいうことができます。その詳細は、次回の記事であらためてご紹介します。
Words:Akira Sumiyama