この世の万物は常に変化するもの。 時に時間は物を劣化させますが、その原因を知っていれば、取り返しがつかなくなる前に気をつけることができれば、大切なオーディオ機器を長く使い続けることができるかもしれません。 前回はカートリッジの故障理由や、それを防ぐために心得たいことをご紹介しました。 今回はレコードプレーヤーが壊れる原因について、オーディオライターの炭山アキラさんに解説していただきます。

オーディオ機器が故障する原因について知ろう【カートリッジ編】

軸を守るためにプラッターを外す

精密機械加工の粋ともいえるレコードプレーヤーは、プラッターとアームの軸が最も大切なところです。 例えば模様替えなどでプレーヤーを動かす際には、必ずプラッターを軸から外し、アームも結束ワイヤーか何かで固定しておくことを強く薦めます。

レコードプレーヤーは、プラッターとアームの軸が最も大切なところ
アームロックがかけられるレコードプレーヤー
アームロックが付いているレコードプレーヤーもあります。

軸を損傷すると、何が恐ろしいといって軽傷だと、ただ何となく音が良くない、あるいはレコードの回転に少しムラが出る、といった症状しか出ず、気づかずにそのまま使い続けることが多いことです。

あまり重症になると、カートリッジが針飛びしたり、プラッター軸からギーギーというノイズが聞こえたり、レコードの回転ムラ(ワウ)が酷く聴いていられなくなってしまったりしますが、こうなるともう末期症状です。 大規模な修理が必要になるでしょうね。

こうなる前に、前述の「動かす時は軸に負担をかけない」方策をぜひ励行して下さい。 また、プラッターに大きな力をかけないことも重要です。 手でギュッと押すなんて禁物、クリーニングブラシも、もしプラッターを回転させながらかけるなら、盤へ軽く触れるくらいの当て方にしましょう。

盤面をクリーニングしている様子

余談ですが、それくらいの力で盤を磨いても拭き残しが出ることは避けられませんから、やはり盤はプラッターへ載せる前に、しっかりと磨いてやりたいものですね。

レコードはホコリを払い、静電気を除去しましょう。

定期的な注油でメンテナンスを

オーディオテクニカの技術陣へ話を伺ったところ、少なくとも同社が現在発売中のプレーヤーには、注油の必要はないそうです。 しかし、特に「往年の名器」といわれるものの中には、プラッターの軸へ定期的に注油してやる必要がある製品が多いものです。 特定の位置に、決められた固さの油を、決められた量だけ注いでやるのが、基本的な注油の方法です。 特にいわゆるヴィンテージ・プレーヤーは、定期的に修理へ出して注油してもらうとよいでしょう。

駆動パーツは消耗品

プレーヤーの故障、というか経年劣化が避けられないのは、ベルトドライブならドライブベルト、アイドラードライブならアイドラーです。 ベルトはいろいろな業者が扱っていて、古いプレーヤーでも大半は、合うものが入手できると思います。

一方、スペアのアイドラーも、英国のガラードやドイツのEMTといった著名な社のパーツは、いろいろなところで作られていますから、現在も入手はそう難しくありません。

しかし、名器といわれる存在でもマイナーな社の製品などは、格段に入手が難しくなります。 他の部分でもメンテナンスが大変なところがありますから、今からプレーヤーのご購入を考えておられるなら、あまり古くて知名度の高くない製品は、手がかかるとお思いになっておいた方がよいでしょう。

ドライブベルト

インシュレーターが劣化したら試して欲しいこと

プレーヤーにとって、スピーカーから伝わる振動を本体へ伝えないことは、音楽再生の死命を制する要素の一つです。 それが不十分だと、「ハウリング」を起こしてしまって、音楽どころじゃなくなってしまうのですね。

そのために、プレーヤーにはインシュレーターと呼ばれる脚が装着されています。 オーディオの世界では、アンプやスピーカーの下へ挟む脚もインシュレーターといい、それは専ら機器をしっかりと支える脚を指しますが、プレーヤーだけは用途が違い、ハウリングを防止するために、プレーヤーを載せている台と振動を遮断(インシュレート)するためのものなのです。

レコードプレーヤーのインシュレーター

これらのプレーヤー用インシュレーターは、多くはスプリング、ゴム、空気などで振動を遮断しています。 スプリングは経年変化に強いものですが、ゴムや空気(といってもゴムに囲まれていることが多い)は年月とともに劣化し、ゴムは固くひび割れ、空気は漏れ出してしまうことが避けられません。

こういう場合、もしお使いのプレーヤーに純正の補修パーツが残っていなければ、何らかの手段でインシュレーターの機能を回復させなければなりません。

前に実験した、ゴムボールとココットの器で作ったインシュレーターも使えますし、例えば見た目は良くありませんが、自転車のタイヤチューブをプレーヤーの下へ敷き、空気を入れてやると、十分なインシュレーション能力が得られます。

こういう自作系のインシュレーターはちょっと、という人は、メーカー製でもゴムや空気、磁力などによって振動を遮断するインシュレーターやオーディオボードがありますから、それらを使ってやると、ほぼ完全にお使いのプレーヤーは復活を遂げるでしょう。

ただ、それらのインシュレーターやボード類は結構な価格のものが多いですから、プレーヤーの買い替えと天秤にかけて考える、ということにもなりそうですけどね。

主なプレーヤーの故障・劣化要因は、こんなところかと思います。 皆さんも破損や劣化に気を付けて、楽しいレコードライフを末永く送って下さいね。

Words:Akira Sumiyama