「このジャケット、なんだか気になる」──音楽に詳しくなくても、レコードには私たちの感性をくすぐる力があります。色や構図、紙の質感など、レコードのジャケットから伝わってくる何かに心を惹かれる、そんな体験をしたことはないでしょうか。音楽を聴く前に、まず “見る” 。その視覚的な第一印象が、音と出会う前のワクワク感を高めてくれます。

ジャケットのデザインに惹かれて手に取る瞬間は、まるでアート作品との偶然の出会いのよう。「ジャケ買いのススメ」は、そんな感覚的な選び方で、レコードとの偶然の出会いを楽しむ企画です。音楽を本業としないアーティストの皆さまに、レコードショップに無数に並ぶレコードの中から直感で気になったものをピックアップしてもらい、その中から特に心を惹かれた3枚を選んでいただきました。

今回のゲストにお迎えしたのは、イラストレーターとして活動する一乗ひかるさん。印刷技法を基にした色彩表現とグラフィカルなイラストレーションを発表しており、スポーツブランドの店舗内装グラフィック、アパレルとのコラボレーション、書籍、広告、パッケージなど、多岐にわたるジャンルで活躍しています。

『No title』(2024)

レコードを探しに訪れたのは、目黒区五本木のJazzy Sport Music Shop Tokyo。もともとはJazzy Sportという音楽レーベルであり、レーベルで作った音源を売る場所として店舗をオープン。クラブミュージックをメインにヒップホップやジャズ、ハウス、ソウル、レゲエまで幅広いジャンルのレコードを扱っており、現在は盛岡、下北沢、京都、表参道にもお店があります。

レコードについてのお話は、店長の佐々木岳洋さんに伺いました。

最近はCDプレーヤーを買って、CDを集めているという一乗さん。レコードは初体験という彼女の目には、どんなジャケットが目に留まるのでしょうか?

さっそく、店内を見ていきましょう。

カンパニースリーブって、文庫本みたいなもの?

さっそくですが、そのレコードはどのあたりが気になって手に取ったのか教えていただけますか?

一乗:幾何学っぽい形がグラフィカルだなと思って。それが並んでいる構図にどういう意図があるのか、気になりました。

Various Artists「Pack Mentality EP」

これはどんなレコードですか?

佐々木:ロンドンのWolf Music Recordingsっていう、ハウスやディスコエディットのリリースが人気のレーベルによる、コンピレーションシングルです。この作品は、ソウルフルな女性ヴォーカルをサンプリングした楽曲が裏テーマになっています。ジャケットはレーベルのカンパニースリーブですね。

一乗:カンパニースリーブ?

佐々木:ジャケットって、1枚ずつ作るとそれなりにコストがかかるんですよ。でもシングルはアルバムと比べるとプレス枚数は少なめで、制作コストとかリリースまでの時間をカットするためにレーベルが共通で使えるジャケットを作っていて、それを「カンパニースリーブ」って呼ぶんです。

一乗:なるほど。文庫本みたいなものなんですかね?

たしかに。文庫本はカバーを外した本体のデザインが出版社ごとに同じものになっていることが多いですし、新書だとカバー自体のデザインが一緒のものもありますよね。

佐々木:そうそう!それと一緒ですね。

Anette Party feat. Anita Coke「Sandy Roche」

一乗:この緑も気になります。白地の窓から見えている感じがかわいいですね。これもカンパニースリーブですか?

佐々木:そうですね。Rotary Cocktail Recordingsっていう、ドイツのハウス/エレクトロのレーベルです。

一乗さんは絵や写真を見るときは、何を見ているんですか?

一乗:色を見ることが多いかもしれないです。こういうパキっとした色が好きなので、そういうのに目が留まっちゃいますね。あとは写真とかよりも、もっと抽象的なものとかが気になっちゃうかもしれない。

佐々木:ところでジャケ買いって、いい企画ですね。レコード屋じゃ絶対に思いつかないと思う。

ありがとうございます(照笑)。

佐々木:中身が好きだから外見も好きっていうのはあるけど、僕は今までジャケットにそこまで注目してこなかったかも。改めて見ると、「なんでこんなジャケットにしたんだろう?」ってレコードが結構ありますね。

一乗:音楽に詳しくないからこそ、より楽しめるのかもしれないですね。逆に、佐々木さんはジャケットからはあんまり選ばないってことですか?

佐々木:今はそうですね、昔ほどは選ばなくなったかもなぁ。昔はインターネットがなかったし、自由に試聴させてくれるお店もほとんどなかったから、ジャケットから読み取るしか情報がなくて。

お店の人がかけてくれたら聴けるけど、見て買うしかなかったんですよね。だから、たとえばジャズのレコードだったらどんなミュージシャンやプロデューサーが参加しているかを見て選んだり、あとは曲名を見て選んだり。

一乗:プロデューサーまで見るんですね!

AM/TM「Sleaze Please」

一乗:青いレコードもあるんですね。

佐々木:カラーヴァイナルですね。最近はレコードを飾ったり、コレクション用だったり、モノとして欲しい人もいるので前よりも増えてます。でも見た目重視だから、DJからすると溝が見えづらいので使いづらいんですけどね(笑)。

一乗:こういうのって、ジャケットが無いのが多いんですか?

佐々木:アーティストにもよるとは思うんですけど、これはきっとあえてでしょうね。

一乗:なるほど。……あ、さっきの!

Various Artists「Paw To The Floor EP」

一乗ひかるが直感で選んだ、3枚のレコード

店内を見終わって、直感でピックアップされたのは16枚でした。ではここから、特に心が惹かれた3枚を選んでいただけますか?

一乗:パッとしているデザインが好きなので、色で選んでいきます。

一乗:……この3つにします!

では中身がどんな音楽なのか、さっそく試聴させていただいてもいいですか?

佐々木:どうぞどうぞ!そちらの試聴機で聴いてください。

一乗:レコードって、持ち方はあるんですか? 触っちゃいけないところがあるんですっけ?

佐々木:裏表の溝を持たないようにして、プレーヤーにセットします。細い線の間にある太い線は、曲と曲の間です。

まずはどのレコードを聴いてみましょうか?

一乗:これにします!

ポストカードがコンセプチュアル『A Love Supreme 2.0』

一乗:これはポストカードですよね? 思い出感というか、そういうテーマがありそうでいいなと思いました。コンセプチュアルで素敵。こういう凝ってるのに惹かれます。

では早速、試聴してみましょう。

一乗ひかるの選んだ1枚目、U-N-I & Ro Blvd『A Love Supreme 2.0』

一乗:あ、裏面にはナンバリングしてあるんですね。

佐々木:LAのヒップホップ・アーティストなんですけど、ドイツのJakarta Recordsっていうレーベルから出ているレコードです。

アメリカだと、小さいレーベルは数あれど、世界へ流通させる販路や実力を持ったヒップホップのレーベルは結構限られるんですよね。そういう大きいレーベルに引っ掛からなかったアーティストが海外のレーベルからリリースして、そこから人気に火が着くってことはよくあるんです。このレーベルのおかげで有名になったアーティストも、めちゃめちゃいるんですよ。

このジャケットって(ポストカードを付ける作業は)たぶん手でやってるだろうし、結構お金がかかってると思います。人気がないと、きっとここまでやらせてくれないですよ。

一乗:豪華ですよね。だから数量限定なのかな。

実際に中身を聴いてみた感想はいかがですか?

一乗:わりとイメージしていた通りの音楽でした。

佐々木:このU-N-Iっていうグループの名前の由来は、ザ・ルーツ(The Roots)の「UNIverse at War」っていう曲名から決められてて、この「A Love Supreme」っていうタイトルはジョン・コルトレーン(John Coltrane)のアルバムのタイトルからとっているそうです。音楽も、ラップはラップでも上品というか、不良のラップというよりも音楽が好きで作っている感じだと思います。

一乗:うん、そんな感じでした!

爽やかな愛のレゲエ『Funny Feeling』

では、次はどのレコードを聴いてみましょうか?

一乗:こちらにします!

一乗ひかるの選んだ2枚目、Various Artists『Funny Feeling』

佐々木:これはロンドンのBurning Soundsっていうレーベルのコンピレーションですね。レゲエのスーパースターが揃って参加してます。バイヤーの人がコレクションを手放すときに譲ってもらったんですが、そのうちの一枚です。

レゲエのレコードって、みんな雑に扱うから状態がいいものが少ないらしいんですよ。だからたまに、ふらっと来た人に「こんな状態の良い盤が、なんでここにあるの?!」って驚かれることもあります(笑)。みんなが知っているような名盤は再発とかするんですけど、そうじゃないと数も限られるから珍しいんですよね。

一乗:レゲエの音楽はなんとなくのイメージしか知らないので、聴くのが楽しみです。ラベルの印刷の感じもかわいい。

佐々木:あえてジャンル分けするならラバーズロック、メロウなレゲエです。今のところ、LOVE系をチョイスされてますね。

一乗:声が爽やかで、好きかも。チルっぽい感じですごく良かったです。これって、昔の音楽ってことですか? 聴きたいなって思っても、レコードじゃないと聴けない感じなんですかね?

佐々木:これはサブスクにはないかもですね。動画サイトとかに勝手に上げてる人はいるかもしれないけど。

一乗:いいなって思った曲がサブスクには上がってなくて、CDにもなってなくて、レコードでしか売ってないっていうことが結構あって。昔の沖縄民謡でボサノヴァみたいな雰囲気の音楽があってすごくいい感じなんですけど、レコードでしか聴けないんです。

佐々木:昔の沖縄音楽はいま値段が上がってきてるんですよね。もともと枚数も少ないし、再発も滅多にしていないんだけど、今、沖縄の若いDJたちもリスペクトを込めてかけてるから、それを聴いてみんな欲しくなって。

一乗:私も、まんまとそれでずっと気になっています(笑)。

聴いたことあるかも、この感じ『First Class』

3枚目のこのレコードは、選んでいるときに「色が可愛い」って言ってましたね。具体的にどのあたりが目に留まったのか、教えていただけますか?

一乗:パッとした印象の水色に抜けのある白、締まりのある肌の色、強いピンクのラインがすごく気持ちいい印象だなと思いました。この人が歌ってるのかなって。でも、ジャケットだから違う人の可能性もありますよね。

一乗ひかるの選んだ3枚目、George Faith『First Class』

佐々木:このレコードも、先ほどのバイヤーの人から譲ってもらったものです。楽曲は「You Are My Lady」からはじまって、「Caravan Of Love」「You’re The Inspiration」……今回の裏テーマは愛ですね。

たしかに!選んだ3枚ともLOVE系でしたね。

一乗:本当だ!意図せずでした!

同じレゲエでも先ほどとは別のアーティストですが、いかがでしたか?

一乗:平成の時に聴いていた感じというか、「聴いたことあるかも」っていう懐かしい印象でした。

最後に、今回のジャケ買い体験の感想をお願いします。

一乗:レコードは触ったことがなくて、買うにもよくわからなかったんですけど、一回触ってみると「欲しい!」ってなりますね。最近って、どんな曲かあらかじめわかってて聴くことが多いじゃないですか。ジャケットから音楽を聴くのは学生ぶりだったので、楽しかったです。

サブスクだと、こういうことってなかなかできないですもんね。

一乗:サブスクは好きな曲ばっかり集めていろんな音楽が聴けるけど、CDで聴いてた頃は「この曲のあとはあの曲で〜」っていうのを覚えてるじゃないですか? さっきも、少し針を置く位置がズレると、前の曲の終わりから次の曲にいく流れがあったんですけど、それもいいなって。あの流れが全部込みで思い出として残っているんですが、最近はそういうのがないですよね。

佐々木:そうすると、次はカセットテープにドハマりするかもですね。片面を通して楽しむ前提だし、早送り出来るけど、タイミングのいい位置にはなかなか止められないので。

一乗:アルバムを通して聴いた方がアーティストの意図もわかるからいいなって思ったし、針を動かすのも楽しいので、レコードで聴くのっていいなって思いました。

一乗ひかる

東京出身。2018年よりイラストレーターとして活動。印刷技法をベースとした色彩表現と、グラフィカルでヘルシーなイラストレーションを心がけている。顔を描かないことで美醜の価値観から判断させない意図がある。書籍、広告、パッケージを中心に幅広く活動。

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Jazzy Sport Music Shop Tokyo

住所:〒153-0053 東京都目黒区五本木3-17−7
OPEN:16:30~19:00(不定休)

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クラブミュージックを軸に、ヒップホップやジャズ、ハウス、ソウル、レゲエまで幅広いジャンルを扱うレコード店です。東京では現在、学芸大学・下北沢・表参道の3か所、そして盛岡・京都に店舗を構えています。なかでも学芸大学店は音楽に特化した空間づくりが特徴で、国内外のアナログレコードを豊富にラインナップしています。母体となるのはレーベル「Jazzy Sport」で、音楽制作をはじめ、イベント企画、アパレル、映像制作、さらに内装業にまで活動の幅を広げています。

Photos:Soichi Ishida
Words & Edit:May Mochizuki

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