ヒップホップのリリックに登場する主人公たちの心理状態を、医療の知識をもって読み解く。精神科医と神経科学者のタッグ「Hip Hop Psych」。

1970年代に経済崩壊後のブロンクスで誕生し、今では数十億ドル規模の産業になったヒップホップは、今、現代のメンタルヘルス喚起にもひと役買うという。今回は、2人が実際に読み解いたリリックと心理を3つ紹介しよう。

医療の知識×ヒップホップ。歌詞から読み解くメンタルヘルス

“男らしさ”主義が根付いてきたヒップホップカルチャーだが、時代の流れとともに、虚勢を張らず弱さをさらけだす傾向が強くなってきた。これまで世に放たれたヒップホップの曲中では、鬱症状、依存、中毒、克服などのメンタルヘルスに言及する歌詞が多用され、ラッパーたちは自身のメンタルを音楽として吐露してきた。たとえば…

ノトーリアスB.I.G.の“Suicidal Thoughts”(1994年)では「When I die, fuck it, I wanna go to hell. ‘Cause I’m a piece of shit(死んだら地獄に行きたい。だって俺はクソ野郎だから)」と希死念慮(理由なく漠然と死を願う状態)が歌われた。

カニエ・ウェストの4枚目のアルバム『808s & Heartbreak』(2008年)の収録曲“Coldest Winter”では、美容整形の合併症でこの世を去った母への悲しみが。“RoboCop”や“Heartless”といった曲には、6年付き合った婚約者との破局の余韻が残っている。

マック・ミラーの“Self Care”(2018年)では「We play it cool, we know we fucked though(平然を装ってたけど、俺らはとっくに終わってた)」と、元カノのアリアナ・グランデを吹っ切る想いを滲ませている。

これらは筆者が見つけた非常にわかりやすいいくつかの例だ。こうした“心情の吐露”のヒップホップを通して、メンタルヘルスに関する会話のきっかけを作り、ユースカルチャーと医学コミュニティの橋渡しに励むのが、「Hip Hop Psych」だ。英国拠点の精神科医Akeem Suleと、神経科学者Becky Inksterの、無類のヒップホップ好きの2人が運営。医療の知識とヒップホップを融合させ、メンタルヘルスへの意識を高めようと活動中だ。

左が神経科学者のBecky Inkster、右が精神科医Akeem Sule(アキーム・スル)。

研究論文に記述されるような難しい医療の情報や知識は、なかなか伝わりづらい。2人は、精神医学と神経科学の知識をふまえてラップの歌詞を読み解き、教育や医療現場の専門家や若者たちを含めた世間一般に発信している。

これまで医学誌にヒップホップとメンタルヘルスの関係についての記事を寄稿したり、YouTubeのチャンネルで毎回1曲選びそのリリックから読み取れる登場人物の心理状態を精神科医と神経科学者の視点から解説してきた彼ら。

今回、色濃い心情や人格が反映された1990年代・2000年代・2010年代にリリースされた3つのヒップホップの名曲を選んでもらい、歌詞に滲むメンタルについて解説してもらった。

1、PTSDを示唆? 銃を構え立ちつくす妄想症の父親を描写した2パックの“Death Around The Corner

25歳で夭逝した伝説のラッパー、2パック。悲劇的な死から20年以上を経てもなお、アルバム総売上は7,500万枚を超え、ソロ・ヒップホップアーティストとして初のロックの殿堂入りを果たすなど、絶大な影響力を誇る。実生活では、警官を狙撃し、レイプ疑惑で判決を受け、ヒップホップ東西抗争のなかで凶弾の犠牲者に。割れた腹筋に刻まれたタトゥー「THUG LIFE(生涯ワル、の意)」を象徴するかのごとく、ラップのみならず生きざま自体も大変血なまぐさいギャングスターだった彼が、この曲“Death Around The Corner”(1995年)でライムしたのは、被害妄想に駆られ狂った日々を送る父親(架空の人物)の有り様。

“AK”(AK-47、銃)を構え、窓のそばに立つ男。イントロから息子が「Why you by the window? What’s wrong daddy?(なんでパパは銃を持って窓のそばに立ってるの?)」と、その奇行に子どもながらにも異変を感じて尋ねる。

妻は「crazy motherfucker(頭がおかしいからよ)」と夫を罵倒し、「You don’t work, you don’t fuck, you don’t eat. You don’t even do a goddamn thing(仕事もしない、抱いてもくれない、食事もしない。やるべきことさえやってない)」と、かなり苛立っている。

この父親にはいったいどんな問題があるのだろう?

「自分と家族が脅威に脅かされている、守らなければ」と妄想を膨らませており、妄想症を患っている可能性が高いでしょう。臨床的にリスクを分析すると、子どもとパートナーがいるにも関わらず、家で銃を構えてるというのはとても懸念すべき行為だということがわかります。

冒頭から不穏なメンタル状態の父親は、1バース目からこうラップする。

「gotta stay high while I survive(生きてるうちはハイでいなくちゃならない)」

 覚醒剤かマリファナ*を使用している可能性がありますね。どちらも精神病と妄想症を誘発する危険性があります。

*ここでのマリファナは、自然療法として利用されるCBDではなく、精神病誘発作用が高いTHCを含んだもののこと。

この妄想症は、後天的な要因だけによるものではないことを示唆。

「I’m thinkin’ ‘bout my daddy. Madder than a motherfucker(親父のことを考えてる。ヤツはそこら辺のクソ野郎よりも狂ってた)」から、遺伝的要因で妄想症を患っている可能性があります。

どうやら彼が抱えている精神疾患には、自身の生い立ちが深く影を落としていると読める。

3バース目の「Ever since I was an itty bitty kiddy, Drinkin’ liquor out my momma’s titty(赤ん坊のときから、お袋のおっぱいから酒を飲んでいた)」 「And smokin’ weed was an everyday thang in my household(うちではマリファナを吸うことが日常茶飯事だった)」から、母の授乳中のアルコール摂取や家庭でのマリファナ受動喫煙といった幼少期の悪劣な環境がみえます。こうした幼少期の経験は、精神病の原因になる可能性があります。

さらに家庭内だけではなく、育った近隣コミュニティ全体が悪影響を及ぼしているのではないか、という見方もできるという。

「I guess I seen too many murders(たくさんの殺人を見過ぎてしまったのかもしれない)」とのことから、暴力が横行する地域で命の危険を感じる経験をし、PTSD(心的外傷後ストレス障害)*を発症している可能性もあります。
したがって、窓の外を頻繁に見たり、妄想症を起こしたりする行為は、PTSDの特徴の一つである「過覚醒**」と見なすことができる。またタイトルの「Death Around The Corner(曲がり角にある死)」 は、彼が目撃した殺人のフラッシュバック***を体験している可能性も。PTSDであれば、マリファナをセルフメディケーションとして使用していたのかもしれませんね。

*生死にかかわるような実際の危険にあったり、死傷の現場を目撃したりするなどの体験によって強い恐怖を感じ、それが記憶に残ってこころの傷となり、何度も思い出されて当時と同じような恐怖を感じ続けること。
**自律神経(交感神経、副交感神経)のうち、交感神経が過剰に高ぶっている状態。
***強いトラウマ体験を受けた場合、後になってその記憶が突然鮮明に思い出され、再体験している感覚に陥ること。

出典:Sule, A., & Inkster, B., Social adversity portrayed by Tupac and Eminem. 2015

2、「俺らは一緒になるべきなんだ」 度を越した熱狂的ファンの心理状態を鮮明にラップ。エミネムの“Stan

2パックを崇め(それは2パックの母に自筆の手紙と2パックの似顔絵を送るほど)、それまで黒人が優位とされてきたヒップホップ界に革命的な衝撃をあたえた白人ラッパー、エミネム。ケタ違いの韻の数、圧倒的スピード感(“Rap God”(2013年)は、6分間で1,560数の単語をラップし「もっとも単語数の多いヒット・シングル」としてギネス世界記録に認定)と、容赦ないブラック・ユーモアで現在の地位を確立した。
大ヒット曲“Stan”(2000年)は、エミネムにファンレターを送りつづける偏執的なファンStan(架空の人物)が、エミネムから返事がないことに腹を立て、妊娠中の恋人を道連れに死を選ぶというもの。「熱狂的なファン」の意味でオックスフォード英語辞典にも登録済みの“Stan”の、精神状態とは?

深夜、トイレで髪をブロンドに染めている。エミネムと同じ髪色の自分に酔いしれるStanの不気味な表情で、ミュージックビデオが始まる。
トイレを使いたい妊娠中の恋人に荒々しい態度を取り、エミネムのポスターが壁一面に貼られた地下の部屋で1人黙々とファンレターを書き殴る。曲の構成としては、1・2・3目バースでStanが書いた手紙の内容が、4バース目でエミネムの返信がライムされている。

1バース目の「I read about your Uncle Ronnie too, I’m sorry. I had a friend kill himself over some bitch who didn’t want him(お前の叔父Ronnieの話も読んだ、気の毒に。俺の友達も女にふられて自殺したんだ)」、2バース目の「I’m just like you in a way: I never knew my father neither. He used to always cheat on my mom and beat her(俺とお前はある意味似ている。俺も親父のことを知らないし、あいつは浮気ばかりして、お袋を殴ってたらしい)」から、Stanはエミネムと共通点を見つけ彼を同一視しています。

近しい人の死、父親らしい父親の不在などの「共通点」があることからエミネムに親近感以上の感情を見つけるStan。

また、父を知らないことから、心の発達に重要なアタッチメント(愛着)が十分に経験できなかったと推測。幼児期の愛着に基づいた人間関係の存在は、その後のメンタルヘルスに大きく影響します。

Stanのエミネム信仰はいよいよ本格的に露見する。

「I even got a tattoo with your name across the chest(胸にお前の名前のタトゥーまで彫ったんだ)」

ただの熱狂的なファンの行動かと思うが、それ以上のことがうかがえるという。

これは「男らしさ」を主張する(2000年当時の)ヒップホップカルチャーからは、タブー視される可能性があります。また「We should be together too(俺らは一緒になるべきなんだ)」から、性的なアイデンティティに悩んでいた可能性もあるのではないかと読めます。

男が男の名前のタトゥーを体に刻み込む。“一緒にいるべき”などと思う。つまり、Stanは自身の性的指向に困惑している部分もあったのではないか、という読みだ。

Stanの暴走は止まらない。

「Sometimes I even cut myself to see how much it bleeds. It’s like adrenaline, the pain is such a sudden rush for me(たまに手首を切って、どれくらい出血するのか見るんだ。アドレナリンみたいに、痛みは凄い勢いで俺を襲ってくる)」から、セルフメディケーション(自己治療)として自傷行為をおこなっています。痛みによって自己鎮静、陶酔感、鎮痛効果をもたらし、不快な感情を紛らわしているのかもしれません。

エミネムへの信仰も加速させる。

「everything you say is real(お前の言うことは全部リアル)」と、エミネムに心酔したStanは妊娠中の恋人を無視し、ますますエミネムにのめり込みます。

さて、ここで立ち止まって考えてみたい。狂信的なファンStanのエミネムへの想いは、案の定一方通行であることを。

「I ain’t mad, I just think it’s fucked up you don’t answer fans(怒ってない。ファンに応えないなんて最悪だって思ってるだけ)」

と、自分というファンに返事をしないエミネムへの不満をこぼしていたが、3バース目で怒りは爆発する。

(ミュージックビデオで)口調も行動も荒くなり、壁からエミネムの写真を剥がします。これは心理学における「分裂」と推測します。

分裂とは、他者をひどく理想化しているかと思えば、些細なきっかけで激しく非難攻撃する様子のこと。歯止めが効かなくなったStanは恋人を縛り車のトランクへ詰めこむ。酒を呑み、時速145kmで雨の中を運転しながら、最期にエミネムに送るテープを録音するという狂気的行動に出る。

自分自身と妊娠中の恋人、そして腹の中の胎児を殺すことで、自分を拒絶したエミネムを罰しようとしたのです。ベンゾジアゼピンやアヘン剤などの鎮静剤を飲んでいたことは明らかでした(実際、エミネム自身が鎮静剤中毒だったことを取材で告白しています)。

そんな心理状態のままスピードを出したStanは、案の定、車ごと川に転落。

最後の「Oh, shit, I forgot—how am I supposed to send this shit out?!(しまった、どうやってこのテープをお前に送ればいいんだ?)」では、この計画がいかに不十分、つまり衝動的だったのかを示しています。

このとき録音したテープは届かなかったけど、過去に書いた手紙がやっとエミネムのもとに届いた。しかしエミネムが返信を書く頃には、Stanはすでにこの世にいないという皮肉で曲は終わる。

歌詞全体から、Stanは自傷行為、薬物摂取、放置されることへの恐れ、慢性的な空虚、自尊心と性同一性の問題に悩み、感情的に不安定であり人格障害に苦しんでいる可能性がありました。幼児期の精神的外傷が脳に化学的変化をもたらし、ストレスや信頼関係の構築に対処できなくなったのかと推測します。

出典:Sule, A., & Inkster, B.,Eminem’s Character, Stan: A Bio-Psycho Social Autopsy, Journal of Hip Hop Studies, Volume 4, Issue 1. Fall 2017, pp. 43-49

3、社会的な圧力、ピア・プレッシャーで「酒を飲む」。不本意な飲酒とアルコール依存について歌うケンドリック・ラマーの“Swimming Pools

犯罪率と貧困率が深刻なカリフォルニア州コンプトン地区出身のケンドリック・ラマー。ギャング抗争が絶えなかった地元での生活、人種の不平等、アフリカ系アメリカ人へのエンパワーメントなど、フッドで育った経験を元に社会性・政治性の強いメッセージを詩的な言葉で紡ぐ唯一無二のラッパーだ。

メジャーデビューアルバム『good kid, m.A.A.d City』(2012年)の「good kid(良い子)」はケンドリック自身を、「m.A.A.d City(イかれた街)」は地元を指している。アルバム収録曲“Swimming Pools”は、酒で満杯のプールに溺れることを比喩したもの。“グッド・キッド”が幼少期に見た、酒に溺れる大人たちからインスピレーションを得た曲。ケンドリック自身は酒を飲まないが、K.Dotという自身を反映させた人物について歌った。

イントロから「Drank(酔う)」と連呼する。一聴するとパーティー・チューンかと思いきや、飲酒に対する葛藤や自身への警告をライムだ。

“Swimming Pools”は、アルコール依存についての曲。『good kid, m.A.A.d City』のアルバムジャケットは、幼いケンドリック、祖父(アルコールが原因で死去)、2人の叔父が写るポラロイド写真。哺乳瓶の横には1.2リットルのビール瓶が置いてあります。

これは、実際のケンドリックのプライベート写真だ。

ケンドリック自身が「この写真は僕がコンプトンでどう育ったかを物語っている」と話していること、1バース目の「Granddaddy had the golden flask(祖父は金色の酒用携帯ボトルを持ち歩いていた)」の歌詞から、周囲の大人たちが酒に溺れていたことがうかがえます。こうした環境要因は遺伝的要因と相互作用し、アルコール依存へのリスクを高めます。

曲では、人がアルコールを飲む理由をライムする。

「Some people like the way it feels(気分が良くなるから)」(身体的な理由)
「Some people wanna kill their sorrows(悲しみを紛らわせるから)」(心理的な理由)

そして、自分の場合はこうライムする。

「Some people wanna fit in with the popular, that was my problem(人気者たちと仲良くしたいから。これが俺の問題だった)」

この場合の飲酒は、社会的な理由、となる。

彼は社会的圧力により、不本意ながらにアルコールを嗜んでいることがわかります。ピア・プレッシャー(仲間からの圧力)の強い影響があるのでしょう。ある研究によると、青年期の男性にとって飲酒という衝動的な行動は、仲間と一緒にいる時に加速するといわれます。これは行き過ぎた飲酒のリスクを高める原因になります。

また神経科学的な観点から、こうも分析する。

主人公がアルコールを前に、快楽と報いの狭間で苦しんでいる様子がわかります。「I got a swimming pool full of liquor and they dive in it/ Pool full of liquor, I’ma dive in it(スイミングプールいっぱいに酒をためて、そこにみんな飛び込む。酒いっぱいのプール、俺も飛び込む)」という歌詞は、主人公の中脳辺縁系*が作用している。

一方で2バース目の「I’ma drown in some poison, abusin’ my limit(限界を超えて、毒に溺れてしまう)」という歌詞は、前頭葉前部皮質**が彼に酒に溺れることの危険性を勧告している。「if you do not hear me. Then you will be history, Kendrick(Kendrick、もし俺のいうことを聞かないなら、お前はもう存在しないものになるだろう)」という、脳内の声まで聞いている。

*神経経路の一つで、食欲、性欲、睡眠欲、意欲などの本能、 喜怒哀楽、情緒、神秘的な感覚、睡眠や夢などを司っている。
**複雑な認知行動の計画や人格の発現、適切な社会的行動の調節などに関わっている。

このまま飲み続ければ“死”が待っているという危険を察しながら、社会的圧力と良心の狭間で起こる葛藤を、“酒をたっぷりためたプール”という比喩で詩的に紡いでいるところはさすが詩人としても評価が高いケンドリックの腕だ。

出典:Sule, A., & Inkster, B., Kendrick Lamar, street poet of mental health, Lancet Psychiatry. 2015

と、ここでもう一つ。ここまでネガティブな心理状態を歌った三つの名曲を紹介したが、ヒップホップにはポジティブな心持ちを歌うものや、前向きなメッセージを含んだ曲だってもちろんある。なので、最後はこのプラス思考な1曲で締めたい。

投獄経験をポジティブ人生の源へとチェンジ。困難を乗り越える力をライムしたメイノーの“All the Above

ブルックリン出身、麻薬常用者の両親の元で育ったラッパー、メイノー。90年代初頭には麻薬関連の誘拐事件に関与し、5年から15年の実刑を言い渡されてしまう。16歳から26歳までの10年間の刑務所暮らしの中、孤独と退屈をしのぐために始めたのがラップだった。受刑者たちからのフィードバックを元にスキルを磨き、刑期を終えた後は本格的にラッパー活動を開始。

T-ペインをフィーチャーした“All the Above”(2009年)はBillboardHot 100で39位にランクインし、アメリカレコード協会(RIAA)からプラチナ認定。そんな彼の代表曲は、「困難や苦境を乗り越える力」を意味する“resilience”を多く含む歌詞が特徴だ。

当時の刑務所での様子や出所後ラッパーとして成り上がったことなど、自分の人生経験を投影したミュージックビデオ。社会的・環境的困難を乗り越え、成功した自身を歌う。

まずはレジリエンスを測定するためのテスト「Connor-Davidson Resilience Scale(CD-RISC-25)*」に基づいて、リリックを読み解いてみます。

*回復力、またはストレスの多い出来事、悲劇、外傷後の回復能力を測定するテストで、25項目にわたる具体的な測定基準がある。

1バース目の「You take all of this from me, and I’m still gon’ survive(お前が俺からすべてを奪っても、俺は生き残ってやるぜ)」からは、項目1の「変化に適応できる」に該当するでしょう。また、高い自尊心も示されています。

2バース目の「I’m a miracle baby(俺は奇跡の子だ)」や「I’m destined for greatness(俺は偉大になる運命だ)」からは、項目3の「運命や神が助けてくれることもある」に該当するでしょう。

「I’ve done been through the pain and the sorrow, the struggle it’s nothing but love(俺は痛みと悲しみを乗り越えてきた。苦しみは愛に他ならない)」からは、項目19の「悲しみ、恐れ、怒りなどの不快または痛みを伴う感情に対処できる」に該当するでしょう。

これら数節だけでも、自分への自信をみなぎらせるポジティブ精神と、這い上がってやるという反骨精神がひしひしと伝わってくる。

1バース目の「I’ve done suffered a lot, I deserve to be rich(苦労しまくった、俺は金持ちになるに値する)」や、2バース目の「Thank you for making me struggle, thank you for making me grind, I perfected my hustle(苦労させてくれてありがとう、努力させてくれてありがとう、俺の頑張りは完璧だった)」は、服役中の心境について言及しています。これらは否定的な経験を肯定的な経験として解釈する認知行動療法の技法「リフレーミング」であると解釈できます。

本来はネガティブであろう投獄経験を「成功の糧にしてやろう」と、ポジティブに決意している。

10年間の投獄期間は、Mainoを犯罪生活から遠ざけ、自分の人生を軌道修正させる機会であったと読み解けます。彼はニューヨークのライカーズ島にある、受刑者の暴力と虐待で悪名高いライカーズ刑務所に服役していました。彼の場合はこの経験をポジティブに昇華していますが、投獄経験がメンタルヘルスに悪影響を与える可能性ももちろんあります。

ではなぜMainoは、この経験をポジティブな気持ちへと昇華できたんだろう? キーは、「具体的な希望を思い描くこと」だ。

ポジティブな“視覚的イメージ”を持つことは、うつ病を防ぐことができると実証されています。これは2バース目の「When I think that I can’t, I envision Obama, I envision in diamonds, I envision Ferrari’s(不可能だ、と思った時は、Obamaを思い描く。ダイヤモンドやフェラーリも心に描くんだ)」に顕著に現れている。
彼が未来への希望を抱いていることを意味します。それらは、間違いなく彼を絶望から救うのに役立ったでしょう。

出典:Sule, A., & Inkster, B., Hip-hop’s survival anthems: Incarceration narratives and identifying resilience factors in Maino’s lyrics, Forensic Science International: Mind and Law,

Hip Hop Psych/ヒップ・ホップ・サイク

英国を拠点にする精神科医Akeem Sule(アキーム・スル)と、神経科学者Becky Inkster(ベッキー・インクスター)によるプロジェクト。ヒップホップの歌詞に出てくる登場人物の心理を精神科医と神経科学者の視点で分析し、論文やYouTubeなどのプラットフォームを通して、世間に発信している。
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Words: Yu Takamichi (HEAPS)
Photos: HIP HOP PSYCH