オーディオ再生の質は、機器の性能だけでなく、設置方法やアクセサリーの選び方でも大きく変わります。パワードブックシェルフスピーカー『AT-SP3X』を使ったインシュレーターの聴き比べの前編では、ハイブリッド型インシュレーター3種を取り上げ、そのキャラクターと音の違いを検証しました。後編となる今回は、スパイク型に焦点を当てます。ステンレスと真鍮、それぞれの素材が音にどのような変化をもたらすのか。さらにスパイクと受けに異なる素材を組み合わせたときの違いも含め、炭山アキラさんがその実力を探っていきます。

前編はこちら

スパイク型インシュレーターとは何か

改めて、スパイクインシュレーターというジャンルについて解説しておきましょうか。スパイク・インシュレーターは、鋭い先端を持つスパイク部と強度の高い凹みを持つスパイク受けのペアで成立するもので、スピーカーやアンプなど、機器の発する余計な振動を速やかにラックやスピーカースタンドなどへ逃がし、音の純度を高めて細かな情報を聴き取りやすくする、という働きを持つグッズです。

ステンレス製スパイクAT6901ST/AT6902STを試す

最初に取り上げるのは、『AT6901ST』/『AT6902ST』ペアとしましょう。AT6901STがスパイク、AT6902STが受けで、末尾のSTはステンレス素材が採用されていることを示しています。斜面はなだらかめで、先端は割合に鋭く尖った方のスパイクです。

斜面角度が急峻であるほど、また先端が尖っているほどスパイクとしての作用は強くなりますが、それだけに使いこなしが難しくなってくることも避けられません。トータルではこのスパイクセット、効果の高さと扱いやすさを上手くバランスさせているように見受けます。

いきなりですが、 “べからず実験” から入りましょう。受けを使わず、スパイクの先端を直接スタンドへ乗せて音を聴くのです。すると、低域の量感がガックリと下がり、全体にソフトで腰の定まらない音になってしまうことが分かります。思い切り急峻で先端の鋭く尖ったスパイクを、堅く丈夫な木材のボードへ深くぶっ刺すくらいのことをしないと、適切な受けを介していないスパイクは、低域を殺す方向へ進んでいってしまうのですね。

スパイクインシュレーターは、スパイク本体と受けのセットで性能を発揮するもので、どちらか一方だけの使用は非推奨
スパイクインシュレーターは、スパイク本体と受けのセットで性能を発揮するもので、どちらか一方だけの使用は非推奨

もっとも、受けを使わなければ床やスタンドに傷をつけてしまいかねませんから、あまりこういう使い方をなさっている人は多くないと信じます。

改めて、しっかりと受けを介してスパイクを据え、音を聴きます。そうしたら、低域の量感が明らかに増し、それでいて膨らむことは全くなく、ピシリとピントの合ったシャープでハイスピードな低音再現に思わず耳を奪われます。音場もクールでよく広がり、音楽がピチピチと跳ね回っているような活気が味わえました。

受けを使わなければ床やスタンドに傷をつけてしまいかねませんから、あまりこういう使い方をなさっている人は多くない

素材が変わると音はどう変わる? 真鍮製スパイクAT6901BR/AT6902BR

次は、同シリーズで素材に真鍮を採用した『AT6901BR』/『AT6902BR』を使ってみましょう。形状はSTと全く同じであるというのに、BRの方が少し価格は上ですが、これはグレード差をつけているのではなく、金属素材の調達コスト差で生まれてしまった価格差です。

音はSTに比べるとやや中域〜低域にかけて厚みが加わり、パワフルかつどっしりと安定したサウンド傾向が味わえます。シンバルやサックスなどの響きには僅かな輝きが乗りますが、しかしそれが嫌味になることはありません。

音はSTに比べるとやや中域〜低域にかけて厚みが加わり、パワフルかつどっしりと安定したサウンド傾向

全体に豊かで厚みと輝きのあるBRに対して、STの方がややアッサリした傾向ですが、その分シャッキリと全域で伸びやかかつハイスピード、という持ち味が感じられる印象でした。

ステンレス×真鍮の組み合わせ効果を検証

全く同じ形状のステンレス製と真鍮製が、スパイクと受けの双方でそろっている。ならば、もう少し突っ込んだ実験をしたくなってくるじゃないですか。スパイクと受けで材質を変え、音を聴き比べてみようというものです。

まずスパイクをステンレス(AT6091ST)、受けを真鍮(AT6092BR)にしてセットしました。音の傾向は、概ねステンレス方向の表現かなと思わせますが、僅かに低域のアタックが力強くなり、これは真鍮のキャラクターかなと思わせます。ステンレスの精密な描写力へ低域のガッツを加えたい人には、お薦めできる組み合わせといってよいでしょう。

音の傾向は、概ねステンレス方向の表現かなと思わせますが、僅かに低域のアタックが力強くなり、これは真鍮のキャラクター

お次は逆、真鍮のスパイク(AT6091BR)にステンレスの受け(AT6092ST)を組み合わせます。音はやはり全体的に真鍮の傾向が支配的で、その一方低域方向がほんの若干ではありますが、当たりのソフトな傾向になるところが独特です。厚く深みのある表現でありつつ、シンバルやサックスに強調感が乗りにくくなっているところもあり、これは真鍮の持ち味にステンレスの特質が重なっているのだな、と納得できる表現です。

音はやはり全体的に真鍮の傾向が支配的で、その一方低域方向がほんの若干ではありますが、当たりのソフトな傾向

材質のキャラクターを活かした音づくりの楽しみ

これら材質の差は、聴きようによっては些細なものと感じられるかもしれません。しかし、こういうアクセサリー類のキャラクターで好みの音を少しずつ手繰り寄せる、あるいは少し好みに合わない部分のある機器のキャラクターを自分好みの方向へ整える、そういう効果を得るためには、この手の材質違い=キャラクター違いのグッズがそろえられているというのは、とても尊いことだと私は思います。

今回試したAT6901ST/AT6902STと同BRは、オーディオマニアのポケットの中身を豊かにしてくれる、とても面白く有用なグッズだな、というのが正直なところです。私も自分のリファレンス・スピーカーシステムに導入してみようかな、と考えています。

Words:Akira Sumiyama

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