ホテル業界に流れる音楽….クラシックやジャズ、ピアノソロ…耳をすませばここでもウェルネスの囁きが。 音を起点としたリラクゼーション体験を滞在プランに取り入れるホテルが、いま続々と登場している。

伝説のホテルと中国の五行音楽療法

先陣を切ったのは、かの有名なマンダリン オリエンタル ホテル グループだ。 ラグジュアリーサービスの最高峰としてかねてから名声を集めてきた伝説のホテル。 世界屈指の文豪たちにも愛され、英国小説家サマセット・モームが療養に滞在した逸話はホテルラバーたちが語り継ぐ逸話だ。 同ホテルは今年初夏、グローバル・ウェルネスデーにあわせて「音楽のもつ変革のエネルギーを活用する」というウェルネス・ミュージック・プログラムを開始した。

このマンダリン オリエンタル ホテル グループは “一人に向けたホスピタリティ” 的なストーリーが語り草。 顔馴染みになれば好みや状況を理解し、絶妙に心配りをしてくれる…。 そんな同ホテルのミュージック・プログラムも「個人向け」。 ホテル内のスパで体験できるプログラムは中国の五行音楽療法に基づいたもので、顧客一人ひとりのニーズとプロフィールにあわせてカスタマイズしたプレイリストを用意するという。 プレイリストは持ち帰り可能で、スパ利用後にも自宅で繰り替えし聴ける。

単に、リラックスBGMを提供します、ではない点。 五行音楽療法の創始は2000年以上遡る。 中国伝統医学では漢字の「薬」は音楽の「楽」と「草」を組み合わせたものであるとされ、音楽と薬草が伝統的に医学に不可欠な要素と考えられてきた。 今回のプログラムに一役買っているのは著名ホテルや高級ホスピタリティブランドと協業でサウンド開発する、世界的に活躍するアンビエント作曲家のネットワーク「MusicStyling(ミュージックスタイリング)」だ。 ホスピタリティの専門家と音のプロフェッショナルによるこだわりのサウンド、出来が気になる…。

もう一つ紹介しよう。 ウェールズ出身の音楽スター、シャルロット・チャーチ(Charlotte Church)が、今年初夏にウェルネス・リトリート施設「The Dreaming」を仕掛けている。 ファッションデザイナーの故ローラ・アシュレイの旧邸宅を活用した施設で、 “現代からのエスケープ” をうたう。 ストレスの多い生活からのエスケープを提供するというこのプログラムの目玉の一つは音楽体験。 サウンド・ヒーリングでは、シンキングボウルやゴング、葉っぱの音のアンサンブルなどを十分に身に浴びる。 野外シネマ体験、瞑想、サイレントディスコ、夜の森林浴などアクティビティが多様で、短期滞在から長期リトリートまで提供している。

ちょっと前のトレンドは“点滴”だったっけ…

旅行パッケージやホテルが提供するサービスには、時勢にあわせて時々 “とんでもトレンド” が登場する。 2020年秋以降、本格的なホテルのウェルネスサービスの先駆けとしてはじまったのが「点滴」だ。 代表格はバンコクの五つ星ホテル「アナンタラ・サイアム・バンコク」のなかにできた「VIVID by Verita Health」で、パーソナライズされた栄養素を点滴できるというもの。 心身の回復をうたっていた(というか、いる)。

点滴をはじめ、光療法や酵素セラピーなど最先端テクノロジーを使った本格的な療法のサービスが登場。 これ以降、ホテルへの宿泊=心身の本格的な回復というベースが少しずつできてきたのではないかな…と思う(ちなみに点滴バーは米国のセレブリティや著名人から大好評だった)。

ホテルが提供する非日常のラグジュアリーに “心身の不調を改善していく” という概念がベースとして組み込まれているいま、ウェルネスミュージックは間違いなくそのベースになる予感。 「ここのホテルのオリジナルウェルネスミュージックが最高」といったランキングも来年くらいにはつくれそう、かも?

Words: HEAPS