春になるとなんとなく元気がでる、という理由の一つは、鳥たちによるものかもしれない。

鳥の声が人にもたらす影響はすごい。 単純に「鳥の声ってなんかいいよね」というものに留まるものではなかった。

NYを拠点に、世界各地のシーンを独自取材して発信するカルチャージャーナリズムのメディア『HEAPS Magazine(ヒープスマガジン)』が、Always Listening読者の皆さまへ音楽とウェルネス、ウェルビーイングにまつわるユニークな情報をお届けします。

鳥の声がメンタルヘルスにもたらす効果は?

春を告げる存在として、世界のあらゆる場所で愛されている鳥類。 特に北半球で暮らす私たちは、鳥の鳴き声を耳にすれば冬の終焉と、本格的にあたたかい季節が再びはじまるという喜びを胸にする。 ちなみに鳥の鳴き声=春であるのは、春こそ鳥たちの繁殖期のためそのさえずりがオーケストラ的に最大になるから。 鳥の鳴き声は、総じて幸福の象徴、喜びの象徴とされてきた。

例外もある。 サイコホラー映画の金字塔『羊たちの沈黙(1991)』での鳥の鳴き声だ。 冒頭の暗い森の中で聴こえてくる可愛らしいさえずりは不穏の象徴そのもので、アンソニー・ホプキンス(Anthony Hopkins)演じるレクター博士についてFBIの上司がこう言及するときにも—『Oh He’s a monster. A pure psychopath.(彼こそ怪物。 真正のサイコパスだ)』、重ねられた明るい鳥の声が突き抜けた異常さを仄めかしている。 と、早速にやや強烈な例外をあげてしまったが、概ね私たちが鳥の声を聴くときにはあかるさ、健やかさ、やさしさなどの印象をもつと思う。 そしてこれがただの印象ではなく、私たちの精神的な健康状態との明確な因果関係がある可能性を示す研究結果がでている。

最新かつこれまでにない大規模な研究の一つは、2022年にロンドン大学キングス・カレッジ(King’s College London)の研究者たちによる調査だ。 欧米、英国、中国、オーストラリアを拠点とする1,292人を対象に、同研究のために独自開発したスマートフォンアプリ「Urban Mind」を使用し、ランダムなタイミングでその時の環境や周囲の状況と自身の幸福度について情報収集を依頼(鳥との因果関係を探る調査ということは伏せた状態)。 結果、調査対象者が、姿をみたり鳴き声を聞くなど、鳥との遭遇があったときには平均的な精神の向上がみられたという。 また、精神的に健康な人、うつ病の診断を受けた人でも同様の結果がみられたと報告している。 さらには、疲労を感じた際の回復にも効果的であることも確認できたそうだ。

1日6分間、聴いてみよう

アカデミアの研究にとどまらない鳥の鳴き声に関する事例もちらほら。 英国では鳥の鳴き声をセラピーで使用する小児科がでてきたり、ヨーロッパ全域のガソリンスタンド「BP Gas Station」ではトイレのBGMとして鳥の鳴き声を採用したところ顧客満足度が50パーセント向上したと報告している。 コロンビアの銀行でも、鳥のサウンドスケープを導入し半年で顧客満足度が大幅に上昇したという例もある。

ロンドン大学の同研究の追跡調査においては、6分間の複数種の鳥のさえずり(2-8種)のオーディオクリップを聴いたとき、不安や妄想による負の感情の大幅な減少、うつ症状の減少が確認できたことも報告している。 逆に、交通騒音を聴いたときには悪化がみられたとのこと。 ということは、交通量の多い都市部では精神的にマイナスな要素をもたらすものが自ずと多く、また自然の少なさから鳥との遭遇も少ないということ…。 同研究著者らは、都市部にこそ鳥の生息地を安定させ、鳴き声を日常的に聴けることの重要性についても言及していた。

鳥の鳴き声は、録音であれば簡単に聴ける。 YouTubeでも探せるし、鳥のさえずりにフォーカスしたメンタルヘルス向上のための音アプリも結構ある(『Bird Sounds, Listen & Relax』など)。 着信音やアラームオン、通知音を鳥の鳴き声に設定できるアプリもあったりするが、そういった小さな工夫でもよさそう。

鳥類学者が採取した鳥の鳴き声レコード(『America Bird Songs/A.ALEN/P.P. LELOGG 』)なんかもあった。 なんと51種類も収録されているらしい。 録音自体は1954年とのことで、現在よりも多様な種の鳥の声が聴けそうだ(近年、春の鳥の種は減少している)。 週末にゆっくりレコードでアンビエントな鳥の歌を聴くのもいいかもしれない。

Words:HEAPS